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第2-1章 私は学院に通い始めました

私は今後の方針を定めました

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 以上により私の学院生活の方針は決まったようなものです。
 一つ、聖女候補者を始めとする教会関係者とは極力関わらない。
 一つ、攻略対象者達との接点は最小限に留める。
 一つ、目立たず事を荒立てない。
 これらを守れば平穏な毎日を送れるでしょう。そしてその先には悪役令嬢でも聖女でもないただのキアラとしての未来が待っているのです。
 私は絶対に人として幸せに生きてみせましょう。げーむの脚本など知った事ではありませんし、神託にだって聞く耳は持ちませんとも。

 しかしマルタとマーリア、つまり私とわたしの記憶を照らし合わせると腑に落ちない点があります。悪役令嬢キアラがひろいんセラフィナを虐げようとするのは恵まれた妹への嫉妬からであって決して今の私のように自分の幸福が最優先だったわけではありません。

 そもそも、悪役令嬢キアラが聖女の生まれ変わりだなんて設定はございませんでした。

 どうして魔女として処刑された私が授かっていた奇蹟をそのままに転生を遂げたのでしょう? 何故ただの平凡な大学院生に過ぎなかったわたしが乙女げーむの世界で再び生を受けたのでしょう? そして、どうして第三の人生が悪役令嬢なのでしょうか?

 ……いえ、考えた所で詮無き事でしたか。神または創造主の仕業であれ私は私の赴くままに行動に移るまでです。聖女だなんて使命は存じませんし悪役令嬢などと言った役割など知った事ではございませんので。

 現状を振り返ってみますとまあ順調と言った感じでしょう。
 次の時代を担う聖女を見つけ出す適性検査は欺きました。よって学院に通うようになる年齢に達しても私はまだ平凡な貴族令嬢でいられます。この調子で真実を暴かれないよう細心の注意を払っていきましょう。
 まあ神託の聖女エレオノーラを始めとする三人もの聖女に疑惑を抱かれている点は必要経費としておきます。それから正義の聖女ルクレツィアには知られてしまいましたがこれは仕方がありませんでした。

 現時点で私が神より奇蹟を授かっていると知っているのはルクレツィアの他には侍女のトリルビィと南方王国の侯爵子息であるジョアッキーノ、そして南方王国の王子となったチェーザレの四名だけです。ああ、あと降誕の聖女コンチェッタにも見せてしまっていましたっけ。

 トリルビィは私が数少なく信頼を置く使用人です。彼女もまた大公国の貴族令嬢でして、この度学院に通う事となっています。それでも引き続き私に仕えてくれると言ってくれたのは嬉しかったですね。私にとっては親しい友人であり、そして姉のようでもあります。

 ジョアッキーノは本来私が嫁ぐ予定だった貴族のご子息にあたります。色々あり仮に婚約関係を結びましたが無実の罪で投獄されていたコンチェッタに一目惚れして破談に至りました。それでも彼とは良き友人のままでいたいとは思っております。

 チェーザレは南方王国国王とその寵姫の子になります。追放され貧民としての生活を送っていた彼の母親を私は私の意志で救ったんでした。それがきっかけになったのか、どうも彼にとって私は何をやるにしろ優先順位のかなり上に来てしまっているようです。

 私は一人で宿命を超えるつもりでした。それが無理だったかはもう分かりません。だって私の周りにはもうチェーザレ達がいますから。既に彼らとの関係は心地よくなってしまいまして、離れて欲しくないと願う程に強い感情を抱いています。

 神託など戯言です。
 私は人として幸せに生きてみせましょう。

 ところが――。

「お姉様こそがみんなを救う大聖女です。だからこそ、わたしはお姉様を独り占めしたい」

 と、いずれ救世の聖女となる筈の妹、セラフィナは私の前で強く語りました。
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