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第1-2章 私は南方王国に行きました

王子は私の手を包みました

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「神様なんか知るか。俺は何があってもキアラの味方だ」
「チェーザレ……」
「今日は試すように連れ出して悪かった。けれどキアラが救いが必要な人とどう向き合うのか確かめたかったんだ」
「……酷いですね。恩をあだで返されたとばかり思いましたよ」
「俺はキアラが望む選択になるようにしたい。キアラが結構だって言ったってやるからな」

 チェーザレは真剣な眼差しでただ私を見つめていました。
 彼の瞳には私しか映っておらず、吸い込まれそうなほど綺麗でした。

「神に唆された私の頬を目を覚ませと叩いてくださりますか?」
「……女の子の顔は殴りたくないぞ。腕ずくで止めるのがせいぜいかな」
「ちょっと、そこは断言して下さってもいいのではありませんか?」
「いやだってさ、気休めじゃなくてきちんと正直に言いたかったからさ」
「あっははは!」

 何とも締まりの悪い決意を表明したチェーザレに対してジョアッキーノが笑い声を上げました。チェーザレも自覚はあるらしく「笑うな!」と冗談交じりに彼の頭を叩くのみに留まります。

「いや、さ。神に奇蹟を授けられた聖女が神の意志に背くとか面白そうじゃん。キアラがどんな風になるのか僕は楽しみだよ」
「ジョアッキーノ様。私は貴方様の愉悦の対象になる気は毛頭ございませんよ」
「分かってるって。けれどチェーザレは単純だからね。キアラには僕ぐらい優秀な存在が必要なんじゃないかな?」
「ジョアッキーノ様……。ありがとうございます」

 彼が本当に優秀かはさておき、私を励ますつもりで大袈裟に言っているのは伝わります。私はそんな配慮に感謝を捧げましょう。

 そんな二人の決意を目の当たりにしたトリルビィはようやく衝撃から立ち直り、決意を新たにして私へ向きました。

「お嬢様。わたしはこれからも誠心誠意を込めてお嬢様に仕えるつもりです。旦那様や奥方様に何を言われてもどうかお傍に仕えさせていただきたく」
「トリルビィ……。ええ、これからもよろしくね」
「はいっ!」

 トリルビィは私の快諾に満面の笑みをこぼして頭を下げました。あの私がいてもいなくても大して変わりないお屋敷で一人でも私を気に掛ける人がいるだけでも安心感が違います。わたしだけに苦しみを打ち明けるなんて寂しいですから。

「キアラ様。私は一度貴女に救っていただいた身。どうか悲願の為に私をお役立てください」
「滅相もございません、コルネリア様。困った時に少し後押ししていただくだけで十分です」
「ではそのようにします。他国の寵妃だからって遠慮なさらないでくださいね」
「ええ、そうさせてもらいます」

 コルネリアは私に優しく微笑みかけました。深く頭を下げようとしたので慌てて思い留めてもらいます。さすがに身分はあちらの方が上ですから。

「もうキアラは一人じゃない。俺達がいる」
「……はいっ」

 最初はどうなるかと戦々恐々でした。ですが蓋を開けてみたら苦しみを告白して大正解でした。当然これからも同じように都合よく転がるとは限りませんが、それでも今回の喜びは噛み締めたいと思います。

 今日、私は理解者を得たのですから。
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