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第1-1章 私は悪役令嬢となりました

私は妹と朝の挨拶を交わしました

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「おはようございます、お姉様! お目覚めになられたのですね!」
「おはようございます、セラフィナ」

 めでたく聖女にならなかった私は清々しい気持ちで食堂に向かいました。その途中でセラフィナと鉢合わせしました。妹は太陽に照らされた花のような笑顔を私に見せてくれ、元気良く朝の挨拶を送ってくれました。私も軽く頭を下げて挨拶を述べます。

 セラフィナは姉の私を慕っていました。聖女になりたくなくて心を閉ざしていたにも拘わらず。セラフィナは恐れや疑いを知らない純粋さがありました。物事を良い方良い方へと捉えるのでいつも前向きでひた向き。だからこそお父様を始め皆から愛されていました。

 そんなセラフィナに私が嫉妬、ですか。そんな気は微塵も起きませんね。
 むしろ聖女にならねばいけないとの不安が取り除かれた今、私はそんな妹の心に応えたいと思います。おそらくセラフィナが聖女となる運命は変えられないでしょう。その際にささやかながら手助け出来ればなお良いのですが。

「もしかして聖女様に目覚めさせていただいたんですか?」
「いえ、今朝ふと目が覚めました。三日も寝たきりだったのでお腹が空いたのかもしれません」
「それでお姉様、聖女適性検査の結果は?」
「どうやら私は聖女にならずに済んだようです」

 事も無さ気に事実を述べた私にセラフィナは驚いたように目を丸くして声を上げてきました。まさかセラフィナったら私が聖女になるだなんて根拠のない確信でも抱いていたのでしょうか? 妹にとって私はそんな徳の高い人物なのでしょうか?

「……残念です。お姉様だったら素敵な聖女になれましたのに」
「ふふっ、皆から愛されるセラフィナの方こそ立派な聖女になるかもしれませんね」
「そんな! わたしなんかがなれるわけありません。恐れ多いって言うか……」
「適性があれば教養も出自も関係ありませんよ。行儀や作法は先輩方から学べばいいのです」

 勿論貴族として生を受けたセラフィナは教養も出自も十分なのですがね。ただ聖女とは如何に神の、人の、そして教会の奴隷となって献身するかになりますから、果たしてそうした現実にセラフィナが立ち向かって……いえ、そんな彼女を支える相手を探すのが乙女ゲーでしたね。

「折角の料理が冷めてしまいます。早く行きましょうか」
「はい、お姉様!」

 行き交う使用人に挨拶を送ると皆さん驚いた顔をさせてきました。そう言えばこれまでは自分の事ばかりで返事を返すのが精一杯でしたっけ。私にまとわりつく妹もただ煩わしいとしか思えなかったものです。やはり運命を強要なんてまっぴらごめんです。
 食堂には既にお父様とお母様、それに弟が座していました。起きた私に安堵するのか喜ぶのか、それとも聖女の適性が無かった私に失望するのか。果たして反応は……と色々と想像していましたが、どうやらその全部を入り混じらせているようで複雑な顔をしていました。

「おはようございます、お父様、お母様。ご心配をおかけしました」
「うむ、目覚めたようで何よりだ」
「キアラの分の朝食も用意しています。さ、早く座りなさい」
「はい、お母様」

 私達はお母様に促されて自分の席に着きました。そして家族全員で神に食前の祈りを捧げます。本当は私に過酷な運命を課す神に祈りたくはないのですが、身に付いた習慣は中々離れないものですね。
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