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転 その②
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「わたしはガラテアの身代わりに破滅しただけで名前すら無いただの女! 貴方の愛する本物の公爵令嬢ガラテアはとっくの昔に他の男と結ばれたというのに、なんて滑稽だこと!」
「ガラテア、そのことなんだけど……」
「王太子もあの小娘も本当に間抜けだこと。まんまと出し抜かれたことに気付きもしないで。貴方も要らぬ努力ご苦労様。どう? 騙された気分は?」
「いや、何か勘違いしてるようだけれど……」
「憎みなさいよ、嫌いなさいよ! 貴方を騙したこのわたくしを!」
「ガラテア!」
涙を流しながら叫び続けるわたくしを、トーマス様は優しく抱きしめてくださいました。トーマス様は頭を優しくなでてくれて、安心させるように語りかけてくれます。振りほどこうに力が出せませんでした。
「大丈夫、僕はあのガラテア嬢と貴女が別人だって気付いてたから」
「え……?」
最初、何を言われてるか分かりませんでした。
そして次第に冷静になっていくと、有り得ないとだけ思いました。
わたくしの演技が見破られるのも、正体を承知でわたくしに求婚したことも。
「一目惚れだったんだ。あの断罪が行われた夜会でガラテアを見て恋に落ちた」
「はぁ……!? だって、わたくしは完璧に公爵令嬢ガラテアだったでしょう!」
何を言っているんですかこの人は。
付け焼き刃だったことは認めるけれど、それでも初見で見抜ける下手な真似はしていなかった筈なのに。そもそもこの人だってあの男爵令嬢に惚れていたって聞いていたのに、その恋心はどこに行ったのでしょうか?
困惑するわたくしを余所に、トーマス様の眼差しはとても真剣でした。その瞳にはわたくしだけが映し出されています。
「言葉では言い表せないんだけど、ガラテア嬢とガラテアは全然違う。ガラテアの方が彼女よりも綺麗だし魅力的だし優しいし、何よりも輝いている」
「な、あ、あ……」
「だから調べた。ガラテア嬢が保身のためにあの組織の力を借りて身代わりを用意したことも、君が派遣されただけの犠牲者だとも。だからってそれは僕が止まる理由にはならない」
まさかそこまで真実にたどり着いているなんて。宰相のご子息であることを踏まえても甘く見ていました。いえ、むしろそこまで成し遂げた彼の恋心を称賛すべきなんでしょうか。
「わたくしは、両親が誰かも分からない、ただの小娘ですよ? この容姿だって依頼人の希望に沿って変えられたもので、何もかも偽物なんです」
「いや、ガラテアが目の前にいることは嘘偽り無いし、素敵なのも本当だ。何より、他の人のために奉仕する在り方は卑下しないでくれ」
トーマス様はわたくしの頬に手を寄せました。そして軽く触れます。その指先は外気にさらされたためかやや冷たかったですが、次第に温かみを感じてきました。
「僕は君が好きだ。君がほしい。嫌かな?」
「嫌だなんて、そんな……」
「なら、今度こそ一緒に行こう。僕はガラテアを幸せにしたい」
「トーマス様……」
自然とトーマス様のお顔がわたくしに近づきます。わたくしももう彼を振りほどこうなんて思いもしませんでした。
そして交わされた口付けは、わたくしに初めて幸福を与えてくれました。
「これからは何て呼べばいいかな?」
「ガラテア、で構いません。わたくしはガラテアであったからトーマス様と出会えたようなものですから」
「そうか……分かった。これからよろしくね、ガラテア」
「……はい」
そうして差し出された手を、わたくしは今度こそ拒みませんでした。
「ガラテア、そのことなんだけど……」
「王太子もあの小娘も本当に間抜けだこと。まんまと出し抜かれたことに気付きもしないで。貴方も要らぬ努力ご苦労様。どう? 騙された気分は?」
「いや、何か勘違いしてるようだけれど……」
「憎みなさいよ、嫌いなさいよ! 貴方を騙したこのわたくしを!」
「ガラテア!」
涙を流しながら叫び続けるわたくしを、トーマス様は優しく抱きしめてくださいました。トーマス様は頭を優しくなでてくれて、安心させるように語りかけてくれます。振りほどこうに力が出せませんでした。
「大丈夫、僕はあのガラテア嬢と貴女が別人だって気付いてたから」
「え……?」
最初、何を言われてるか分かりませんでした。
そして次第に冷静になっていくと、有り得ないとだけ思いました。
わたくしの演技が見破られるのも、正体を承知でわたくしに求婚したことも。
「一目惚れだったんだ。あの断罪が行われた夜会でガラテアを見て恋に落ちた」
「はぁ……!? だって、わたくしは完璧に公爵令嬢ガラテアだったでしょう!」
何を言っているんですかこの人は。
付け焼き刃だったことは認めるけれど、それでも初見で見抜ける下手な真似はしていなかった筈なのに。そもそもこの人だってあの男爵令嬢に惚れていたって聞いていたのに、その恋心はどこに行ったのでしょうか?
困惑するわたくしを余所に、トーマス様の眼差しはとても真剣でした。その瞳にはわたくしだけが映し出されています。
「言葉では言い表せないんだけど、ガラテア嬢とガラテアは全然違う。ガラテアの方が彼女よりも綺麗だし魅力的だし優しいし、何よりも輝いている」
「な、あ、あ……」
「だから調べた。ガラテア嬢が保身のためにあの組織の力を借りて身代わりを用意したことも、君が派遣されただけの犠牲者だとも。だからってそれは僕が止まる理由にはならない」
まさかそこまで真実にたどり着いているなんて。宰相のご子息であることを踏まえても甘く見ていました。いえ、むしろそこまで成し遂げた彼の恋心を称賛すべきなんでしょうか。
「わたくしは、両親が誰かも分からない、ただの小娘ですよ? この容姿だって依頼人の希望に沿って変えられたもので、何もかも偽物なんです」
「いや、ガラテアが目の前にいることは嘘偽り無いし、素敵なのも本当だ。何より、他の人のために奉仕する在り方は卑下しないでくれ」
トーマス様はわたくしの頬に手を寄せました。そして軽く触れます。その指先は外気にさらされたためかやや冷たかったですが、次第に温かみを感じてきました。
「僕は君が好きだ。君がほしい。嫌かな?」
「嫌だなんて、そんな……」
「なら、今度こそ一緒に行こう。僕はガラテアを幸せにしたい」
「トーマス様……」
自然とトーマス様のお顔がわたくしに近づきます。わたくしももう彼を振りほどこうなんて思いもしませんでした。
そして交わされた口付けは、わたくしに初めて幸福を与えてくれました。
「これからは何て呼べばいいかな?」
「ガラテア、で構いません。わたくしはガラテアであったからトーマス様と出会えたようなものですから」
「そうか……分かった。これからよろしくね、ガラテア」
「……はい」
そうして差し出された手を、わたくしは今度こそ拒みませんでした。
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