上 下
43 / 119

43 ゴーストタウンの骸骨村長

しおりを挟む
 エポナさん、生ビールの飲みっぷりが水中ポンプ。
 メガジョッキで三杯目なのに、余裕しゃくしゃくなんだものなー。
 けっこうといける口。
 ピッチャー持ち出してきたよ。
 付き合いもとっても良いし。
 これも仕事のうちなんだろうか。
 今はオフなのかな。
 はっきりしない就労形態だなー。

「ベルゼビュートの力が神並みに大きくなったら、ミカエルに気づかれてしまいますよね」
 私の立場からしてみれば、ベルゼビュートがミカエルに気づかれて捕まった挙句、再びその心臓を取られてしまうと言う筋書きが最悪の結末だ。
「それこそが、ベルゼの狙いなんだよー」
「こうなった以上、どちらが先にベルゼ様を探し出すかですわ」
 どうしてもベルゼビュートの目立ちたがりは直しようがないとなれば、何が何でも私達が一番に探し出すしかない。
「ところで、私達ってミカエルに気づかれてませんか」
 ライバルにこっちの動きを気づかれると、捜索隊としては具合悪い。
「大丈夫ですわ。私の結界で気配を消していますから。でも、移動は馬車になりますわね」
「それは、しかたないですね」

 翌日、夜明け前からエポナさんの馬車で移動する事半日。
 この世界に来て最初に着いたのは、かなり前に戦禍を被った村だった。
 白骨化した遺体が、村中に散乱する異様な光景。
「ゴーストタウンだね」
 ティンクがブルブルっと全身を震わせる。
 目の前に横たわる白骨死体を、放置したまま移動しても良かった。
 でも、ここは人として、何とかしてあげるのが死者に対する礼儀だと思った。
 バラバラになっている白骨を丁寧に鑑定し、一体を組合わせていくのに一時間ほどかかった。
 皆で頑張ってやったけど、全部の白骨死体を共同墓地に埋葬するには、まるまる二日もかかってしまった。
 こんな事なら、全部まとめて一か所に埋めてあげるべきだった。

 全部の埋葬が終わって、明日の朝にはこの村を出て行くと決めた夜。
「私は幽霊の代表でー、この村の村長ですー」とかってしゃべくる骸骨が、和やかであるべき食卓に現れ出きた。
 聞いてもいない事情を事細かに説明し始める。
 ティンクはすっかり怯えてしまい、私の後ろに隠れてブルブル震えるばかり。
「精霊のくせに、幽霊が怖いのかよ」
「人間の幽霊、とっても怖い」

 白骨化していたここの住民は、やはり長引く戦争の犠牲者だった。
 数日前にベルゼビュートも村を通ったが「急がなければならないので埋葬はできない」と涙しながら謝っていたそうだ。
 私達もそうすべきだったか、二日以上ここに足止めされた。
 急ぎ旅のベルゼビュートには、だいぶ引き離されてしまっているに違いない。
 ここは幽霊の代表に、何がしかの見返りを期待しても罰は当たらないだろう。

「あのー、ベルゼビュート様の行先ならば、わだすに心当たりがありますけんども、申し上げた方が宜しいのでごぜえやしょうか」
 ゴーストタウンの村長が、骸骨なのに酒を飲み肴を食い、埋葬のお礼とも取れる有意義な発言をする。
 それにしても、実に珍しい眺めだ。
「いいに決まってるでしょ。そういう事は、飲み食いする前。もっと早く言ってちょうだいよー」
「すいませんです。久しぶりの御馳走だったもんでー、つい。ベルゼビュート様が向かったのは、恐らぐー、ここから馬車で北に二日ばがり行ったドンビキ村ではねえがと。凶作続きで苦しんでおりやして、病害をまき散らす蠅まで大発生していやがるとのことでごぜえやしたがらー」
 戦争に疫病・凶作続きなのに助け船も出さないなんて、この世界の天界はどうなってるのよ。
「もう、この世界の神はロクデナシばっかりね。戦争で村一つゴーストタウンにしておいて、ほったらかしなんだものねー」
「昔からあいつらはこうだったんだ。だからベルゼが、あいつが神になればいいんだ」
 私とルシファーから、ついつい愚痴が出てしまう。

「奈都姫様もルシファー様も、異世界司書の鉄則を忘れてはなりませんよ」
 脱線しそうな私達を、エポナさんが穏やかに諭してくれる。
「異世界の主権を侵害してはならない【内政不干渉の原則】分っていますよね」
「ああ、僕はベルゼの心臓を取り戻しに来ただけだよ」
 そうすれば魔力を抑え込まれ、ベルゼビュートはミカエルに抗議するどころか、会う事さえ出来ないと考えての発言。
 ここにいるみんなが共有している思いだ。
「この条項には、ただしがついていますの【ただし、回収の為ならば、いかなる手段を行使しても罪に問わない(たとえその世界を壊滅させたとしても、回収を破壊の正当なる理由として認める)】とありますの」
 何が言いたいのかな。
「ウフフ」
 ティンクは分ったな。

「しずちゃんに連絡して、神界でやりたい放題している神が治めている国の状況を調査してもらいましたわ。ここ五百年ほど、異世界博物館の会費を払っておりませんでしたのー。えへへ」
「本当ですか‼」ルシファーが俄かに活気づく。
「やはりねー。千年も戦争に加担していたら、御金に縁の薄い神界一国じゃ、軍資金も底を付いちゃうよねー。なんだかんだいっても、奴等の台所は火の車ってことなんだよ」
 ティンクも楽しそうだ。
「そうと分れば、私達は何でもありじゃないですか」
 なんだか私まで嬉しくなってきた。
「その前に、ベルゼ様を探し出すのが先でございますわよ」
 そうでした。
 急いては事を仕損じる。
「焦りは禁物ですね」
「はい、落ち着いて行動しましょう」

 私達は骸骨村長の話を頼りに、明け方からドンビキ村へ向かった。
 馬車で二日は結構な距離だ、少しでも早く着きたいから速足速度で進む。
 これが厳しくて、馬車道の舗装状態が悪い分よく揺れてくれる。

 平原に吹く風が少し肌寒いけど、陽ざしはもう暖かい。
 今、この世界の季節は初春のようだ。
 平和な世界なら、旅人や商人が行きかう道路。
 両側に広がる畑では、農夫が忙しく畑を耕している頃だ。
 それが、この辺りの農地は長いこと放置されている。
 雑草が生い茂り、農作業をしている様子がまったくない。
 点在する民家はどれも朽ち果てている。
 時折、馬や牛に出会うけど、これは家畜だったのが野生化したもの。
 農民は、命の次に大切に思っている農地や家畜を捨てて、どこか遠くへ引っ越してしまった。
 首にカウベルが下げられている牛も、何頭が見受けられる。
 牛・馬の他にも、ウサギや鹿と出くわす事もある。
 一見長閑な田舎道だが、ここには愍然たる過去が隠されている。
 
 陽が昇りきった頃。 
 エポナさんが馬車を停める。
「なにか、変な生物がいるのですが、どなたか先に行って見てきていただけませんか」
 道の真ん中にうずくまっている小さな生き物を発見した。
 遠目だけど、大きさは三十cmくらい。
 もぞもぞ動きだした。 
「あたしが行くー」
 言うが早いか到着するのが早いか。
 ティンクが近づいても逃げる様子はない。
 急に現れた妖精の姿に驚いて、ただじっとティンクとにらめっこしている。
 頭に角があるから、龍の子供でもあるのか。
 立ち上がると四本足。
 背丈がティンクの背丈位だから、十五cmといったところかな。
 危険生物ではなさそうだ。
 ゆっくり馬車を近づけて行く。

 間近まで馬車を寄せると、ティンクはすでにこの生物と仲良しになっている。
 背中にまたがり、ウロチョロ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。 大型モンスターがワンパン一発なのも、 魔法の威力が意味不明なのも、 全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ! だから… 俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...