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試して初めてわかった事(*)

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「健太!?」
「俺も、する」

 健太がそんな大胆な行動に出るとは思っていなかったのか、リロイが焦った様に顔を上げる。
 翻弄されてばかりだった健太は少し溜飲を下げて、ふにゃりと表情を崩す。
 すると、リロイが何かに耐える様に、「ぐっ」と息を飲んだ。

 今まで男性相手はもちろん、女性相手でもこういう甘い雰囲気になった事がなかった健太には、何をすれば正しいのか把握するのは難しい。
 だが、今の状況は間違いなく、男同士での「抜き合い」と呼ばれる行為であるに、違いなかった。

 ならば、健太が一方的に高められるばかりではなく、リロイも一緒に気持ち良くなってくれた方が、罪悪感も少ないはずである。
 必死で訴える健太の表情に、リロイも応える気になってくれたのか、健太のたどたどしい手が、リロイのズボンの前を寛げる手助けをする様に動いてくれた。

 ただ、健太が悪戦苦闘する間も、リロイの愛撫は止まらない。
 伸ばした手は何度も中断を余儀なくされてしまい、スマートにとは行かなかったが、時間をかけてようやくその熱に直に触れる事が出来た。

 想像以上の熱量と大きさに、我に返ってマジマジと見つめてしまった健太に、リロイの苦笑混じりの吐息が耳をくすぐった。

「一緒に、するのでしょう?」
「ぅっわ、っぁ……っ」

 どう扱って良いか探り探りである健太の戸惑いを吹き飛ばすように、リロイが自身と健太の高ぶりを合わせて、強めに握った。
 一方的なのとは違う、熱が触れ合う感覚に、思わず上ずった声が漏れる。

 健太が熱に浮かされずに、何とか意識を保っていられたのも、ここまでだった。
 合わせた二人の熱は、扱かれる度に先走りが混じり合い、ぐじゅぐじゅと卑猥な音を立てて、健太を煽ってくる。

 緊張で一度は拒んだはずの後孔に侵入した指は、いつの間にか二本に増やされて、快楽に飲まれている間に弛緩した中を、縦横無尽に掻き回していた。
 最初は違和感しか感じなかったはずなのに、少しずつ快感を拾い始めている自分の体が怖い。

 自分で自分をコントロール出来なくなって、健太は必死にリロイにしがみつき、いつ終わるともしれない快感の波を、やり過ごすだけで精一杯だ。

「健太」

 やがて、いつも健太が聞いているそれよりも、ずっと低く掠れて色っぽいリロイの声が、耳元で吐息混じりに名前を呼ぶ。
 その声が最後の引き金になったかの様に、健太の身体は限界を迎えて、ブルリと震えた。

「リロイ、もう……お願い、助けて」
「今その台詞は、ズルいですよ」

 目に涙を溜めながらリロイに懇願すると、健太の首の後ろ側に、一瞬ピリリと痛みが走る。

「んぁ、ぁぁぁぁっ!」

 与えられたその痛みさえ快感に変わり、リロイの激しさを増す手の動きに導かれるように、健太は白濁を吐き出した。

「っ、くっ……」

 同時にリロイも限界を迎えたらしく、小さな呻き声が聞こえる。
 ズルリと後孔から指が抜かれ、何も入っていないそれが通常であるにも関わらず、何故か少し喪失感を味わう。

 荒い呼吸を繰り返すお互いの腹部は、二人分の精液でぐしゃぐしゃだった。
 暫くは気にもせず二人でベッドに沈んでいたが、冷静になってくると途端に、吐き出した物にまみれてベタベタする身体が、恥ずかしくなってくる。

 この世界の宿には、気軽に風呂に入る事の出来る設備が、滅多に付いていない。
 どうしたものかと、身体を拭く物を探してキョロキョロと視線を彷徨わせていると、リロイが何やら小さく呪文を唱えた。
 すると、ふわりと風が二人を包み込み、次の瞬間には身体がすっきりとする。

「えっ、凄い……綺麗になった」
「簡単な洗浄魔法ですよ」
「そんな便利な魔法があるの?」
「健太の能力があれば、すぐに覚えられます。よろしければ、今度お教えしましょうか」
「うん! ぜひ!」

 事後の気怠さも忘れて、前のめりで頷く健太に「承知しました」と、リロイが可笑しそうに笑う。

 だが、健太にとっては、本当に死活問題だったのだ。
 風呂好きの日本人としては、石鹸などもあまり普及しておらず、水で身体を拭くだけで済ませてしまうこの世界の入浴事情に、ずっと辟易していた。

 洗浄魔法とは、かけて貰った感覚からして、水蒸気の様なもので身体を洗って、風で汚れを飛ばしつつ乾燥させるといった所だろうか。
 お湯にゆっくりと浸かれない所は変わらないが、魔法一つでこんなにスッキリ出来るなら、もっと早く習っておけばよかったと思うのは当然である。

 情事を終えたばかりなのに、ケロリとして洗浄魔法に興味を示す健太を見て、リロイは呆気にとられたのか、珍しくぽかんとした顔をしていた。

「それよりも健太、如何ですか?」
「何が?」
「私と恋人になれるかどうか、試して欲しいと言ったでしょう? 嫌でしたか?」
「……嫌じゃ、ない」

 正直な所、全く嫌悪感はなかった。
 むしろ、リロイに触れられるのは気持ち良かったし、心地良い。

 明らかに友人の一線を越えてしまった気はするのだが、口ばかりの好意を向けてくるパーティの女性達とは、全く違う。
 彼女たちに常々抱いている様な、距離を置きたい気持ちは少しも沸かなかった。

 むしろ、友情から来る信頼関係とは違う安心感を、リロイの傍では感じられる。
 そう、リロイの提案する恋人関係になっても、「楽しくやっていけるかも」と思える位には。

(俺、別に女の子が好きって訳じゃなかったのかな)

 性別だけで括るなら、相手は聖女でも構わなかったはずなのだ。
 剣士や魔法使いだって、旅を始めた当初は一緒に旅が出来るのが嬉しいと浮かれていた程だ、可愛い部類だと思う。

 だが今や、彼女達の強引な行動や、健太を狙う狩人の様な目には、恐怖さえ感じている。
 いくら可愛くても、パートナーにするのは御免だと、心から感じていた。

 それなのに、結構なスピード感で行為にまで及んだリロイに対しては、拒否感が全くない。
 同性異性という枠ではなく、傍に居たいと湧き出る自分の気持ちを信じる方が、誰かを好きになる気持ちとしては、正しい気がした。

「それなら良かった。色々と疲れたでしょう、今日は早めに休んで下さい」

 ちゅっと音を立てて、優しいキスが健太の額に触れた。
 そのままベッドから出て行こうとするリロイの腕を取って、咄嗟に引き止めてしまう。

「あ……その、えっと」

 引き止めるつもりなどなかったのに、身体が先に動いた。
 健太が自分で自分の行動に驚いていると、リロイは優しく微笑んで再び健太の隣に寝転がる。

 ベッドの片隅に追いやられていた掛け布団を、ふわりと健太の上に被せながら、ぽんぽんっとあやされると、途端に今日の疲れがどっと出て来て、眠気が襲ってきた。

「今夜は、このまま一緒に寝ましょうか」
「うん」

 リロイの言葉に甘える様に、素直に頷いてぴったりと寄り添うと、ぎゅっと抱き込まれた。

(やっぱり、リロイの傍が一番安心する。お芝居のつもりだったけど……もしかしたら本当に好きだったから、あんな告白が出来たのかも)

 リロイへの告白は、女性達の計画を阻止する為の、咄嗟に出た嘘だったはずだ。
 それなのに、気持ちに自分でも気付かなかっただけで、「心の奥底にあった本心が、言葉に出ただけだったのかもしれない」と認めた途端、妙な納得感に包まれる。

 ふっと無意識の内に笑った健太の瞼に、触れるだけのキスが落ちた。

「おやすみなさい」
「おやすみ……」

 そうして健太は、温かな体温と優しい匂いに包まれながら、ゆっくりと意識を手放した。
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