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穏やかな旅路
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それからの旅は、拍子抜けする位に、あまりにも穏やかに進んだ。
新たな旅の仲間として紹介した際、本気だか冗談だかわからない顔で「さすらいの神官です」と名乗ったリロイの能力は、聖女に近い回復系かと思っていた。
だが、どうやら違うらしい。
もちろん回復やサポート系の魔法も使えるらしいが、リロイが尤も得意とするのは、結界術だという。
あまり聞かない能力だったので、最初はよくわからなかったのだが、所謂「自分より弱いモンスターを近づけない」的な防御系の魔法らしい。
長く一人で旅をしていると言っていたし、「健太より強い」と言い切るだけあって、本当にほとんどのモンスターが、リロイの生み出した結界によって、全く近付いて来なくなった。
来たとしても襲ってくる気配すらなく、すぐに逃げ出してしまう。
リロイがどれだけ強いのかわからないが、スライムや小動物系の弱いモンスターだけでなく、人型に近い高い能力を持つモンスターさえ弾くとなると、その力は如何ばかりか。
果ては、空から偵察するドラゴンさえ、追いやる始末だ。
ドラゴンというと、健太が勇者として与えられたチート能力を、まだ最大限に使いこなせていない状態であるという不利な状況があるとしても、四人がかりで追い返すのがやっとという、最強クラスのモンスターである。
それを、たった一人の結界だけで退けるなんて、どう考えても普通ではない。
勇者である健太に、ある程度強いモンスター相手でも引けを取らない位のチート能力がある事は、リロイも知っている。
あまり詳細な記憶がないのだが、あの夜に健太はこの世界に突然呼び出されてからの事を、かなり赤裸々に語ってしまったらしい。
突然知らない世界で戦う事になった恐怖、王国や女性達への不満、モンスターと戦う事が本当に正しいのかどうかという不安と疑念。
どうやらその全てを、酒の力も相まってリロイにぶつけてしまっていた様だ。
弱音を吐いてしまった上に、リロイには泣き顔まで見られてしまっている。
だからきっとリロイは、恐怖を抱えながら正義と悪について悩んでいる健太が、極力モンスター達と戦わずに済む様にと、考えてくれているに違いない。
リロイは休む事なく、移動中ずっと強力な結界を張ってくれていて、かなり無理をしているはずだった。
更に、三人の女性達から放たれる健太を狙う視線は、リロイが傍に居てくれる事で、かなり緩和されている。
それだけで充分すぎる程助かっているのに、これ以上頼り切ってしまうのは申し訳ない。
もちろん、まだモンスターと戦う事に、抵抗はある。
だが、魔王と対峙せねばならない勇者という立場が変わらない以上、いつまでも避けては通れない事もまた、わかっていた。
だから何度も「あんまり無理しないで」と、健太はリロイへと声を掛けはいるのだ。
だがその度に、「まだ全然余裕がありますから、お気になさらず。健太の持つ、他種族の気持ちまで考える事のできる優しい心は、守るに値する尊いものですから。どうか私に、お任せください」と、間髪入れず笑顔で言われてしまう。
それが続けば、もう「ありがとう」という感謝以外に、かけられる言葉もない。
ドラゴンを退ける力をもってして、「まだ全然余裕がある」というリロイの能力は、一体どれ程のものなのか想像もつかない。
だが、「健太より強い」という言葉はどうやら、はったりではなさそうである。
リロイのお蔭で、健太は正義と悪について悩みを抱えたままモンスター達と対峙し、命を奪い合う必要がなくなって、随分気が楽になったのは確かだった。
モンスターに足を止められる事がなくなったお蔭か、「勇者様ご一行による魔王討伐の旅」は、順調すぎる程に順調である。
ただ、健太の心の安寧とは裏腹に、魔王の居城に近付くにつれ、女性達の焦りが色濃くなっていくのが気がかりだ。
もしかしたら、「勇者を旅が終わるまでに、何としてでも落とせ」という、密命でも受けているのではないかと疑ってしまいたくなる勢いである。
彼女達は健太の傍に居る為の手段を、一切選ばなくなっていた。
リロイと二人で話している途中に割り込んで来るのは可愛い方で、今までは一対一の時にしか囁いてこなかった「好き」や「愛してる」が、四六時中飛び交う。
やがて三人は、競い合う様に健太に身体を押し付けながら、纏わり付いてくる様になった。
最初は嬉しかったハーレム状態も、全く心のこもっていない告白を毎日浴びせられれば現実が見えて来て、ただ辟易するだけだ。
歩きにくくて仕方がないし、モンスターとの戦闘はなくなったはずなのに、旅路はやけに時間が掛かるようになってしまった。
言葉の中に愛がない事には気付いていたが、こうなってくるともう呪いの様で恐ろしい。
そうこうしている内に、三人の間でしなくて良い情報共有でもしたのだろうか。
無理矢理身体から落とす方が、正攻法よりも成功率が高いと踏んだらしい。
聖女に続いて、とうとう剣士と魔法使いも、健太の寝所に頻繁に侵入を目論むようになっていた。
あの日の事があってから、口にする物には極力気をつけるようにしているが、彼女達は勇者パーティに選ばれる位には、能力が高いのだ。
剣士に体術で押さえ付けられたり、魔法使いに魔法を使われて身体の自由を奪われてしまう様な事があれば、逃れられる自信がない。
怯える健太にリロイが気付いて、「宿を取る際は一人部屋ではなく、男性同士で同室にしませんか?」と提案してくれた時は、その心遣いが嬉しくてまた泣きそうになった。
リロイのおかげで、今の所は事なきを得ているが、正直もう女性不信というか、恐怖症に近い感覚である。
そんな健太の心情を察してくれたのか、リロイは夜だけでなく普段から、健太と行動を共にしてくれる事が多くなった。
女性達の突撃をさりげなく躱してくれたり、精神攻撃から守ってくれる。
かといって、ずっと一緒という訳でもなく、健太が一人になりたい時には、ある程度は放っておいてくれる、心地よい距離感だ。
いつしか、リロイの傍が一番安心できる場所になっていたのは、当然だと言えるだろう。
新たな旅の仲間として紹介した際、本気だか冗談だかわからない顔で「さすらいの神官です」と名乗ったリロイの能力は、聖女に近い回復系かと思っていた。
だが、どうやら違うらしい。
もちろん回復やサポート系の魔法も使えるらしいが、リロイが尤も得意とするのは、結界術だという。
あまり聞かない能力だったので、最初はよくわからなかったのだが、所謂「自分より弱いモンスターを近づけない」的な防御系の魔法らしい。
長く一人で旅をしていると言っていたし、「健太より強い」と言い切るだけあって、本当にほとんどのモンスターが、リロイの生み出した結界によって、全く近付いて来なくなった。
来たとしても襲ってくる気配すらなく、すぐに逃げ出してしまう。
リロイがどれだけ強いのかわからないが、スライムや小動物系の弱いモンスターだけでなく、人型に近い高い能力を持つモンスターさえ弾くとなると、その力は如何ばかりか。
果ては、空から偵察するドラゴンさえ、追いやる始末だ。
ドラゴンというと、健太が勇者として与えられたチート能力を、まだ最大限に使いこなせていない状態であるという不利な状況があるとしても、四人がかりで追い返すのがやっとという、最強クラスのモンスターである。
それを、たった一人の結界だけで退けるなんて、どう考えても普通ではない。
勇者である健太に、ある程度強いモンスター相手でも引けを取らない位のチート能力がある事は、リロイも知っている。
あまり詳細な記憶がないのだが、あの夜に健太はこの世界に突然呼び出されてからの事を、かなり赤裸々に語ってしまったらしい。
突然知らない世界で戦う事になった恐怖、王国や女性達への不満、モンスターと戦う事が本当に正しいのかどうかという不安と疑念。
どうやらその全てを、酒の力も相まってリロイにぶつけてしまっていた様だ。
弱音を吐いてしまった上に、リロイには泣き顔まで見られてしまっている。
だからきっとリロイは、恐怖を抱えながら正義と悪について悩んでいる健太が、極力モンスター達と戦わずに済む様にと、考えてくれているに違いない。
リロイは休む事なく、移動中ずっと強力な結界を張ってくれていて、かなり無理をしているはずだった。
更に、三人の女性達から放たれる健太を狙う視線は、リロイが傍に居てくれる事で、かなり緩和されている。
それだけで充分すぎる程助かっているのに、これ以上頼り切ってしまうのは申し訳ない。
もちろん、まだモンスターと戦う事に、抵抗はある。
だが、魔王と対峙せねばならない勇者という立場が変わらない以上、いつまでも避けては通れない事もまた、わかっていた。
だから何度も「あんまり無理しないで」と、健太はリロイへと声を掛けはいるのだ。
だがその度に、「まだ全然余裕がありますから、お気になさらず。健太の持つ、他種族の気持ちまで考える事のできる優しい心は、守るに値する尊いものですから。どうか私に、お任せください」と、間髪入れず笑顔で言われてしまう。
それが続けば、もう「ありがとう」という感謝以外に、かけられる言葉もない。
ドラゴンを退ける力をもってして、「まだ全然余裕がある」というリロイの能力は、一体どれ程のものなのか想像もつかない。
だが、「健太より強い」という言葉はどうやら、はったりではなさそうである。
リロイのお蔭で、健太は正義と悪について悩みを抱えたままモンスター達と対峙し、命を奪い合う必要がなくなって、随分気が楽になったのは確かだった。
モンスターに足を止められる事がなくなったお蔭か、「勇者様ご一行による魔王討伐の旅」は、順調すぎる程に順調である。
ただ、健太の心の安寧とは裏腹に、魔王の居城に近付くにつれ、女性達の焦りが色濃くなっていくのが気がかりだ。
もしかしたら、「勇者を旅が終わるまでに、何としてでも落とせ」という、密命でも受けているのではないかと疑ってしまいたくなる勢いである。
彼女達は健太の傍に居る為の手段を、一切選ばなくなっていた。
リロイと二人で話している途中に割り込んで来るのは可愛い方で、今までは一対一の時にしか囁いてこなかった「好き」や「愛してる」が、四六時中飛び交う。
やがて三人は、競い合う様に健太に身体を押し付けながら、纏わり付いてくる様になった。
最初は嬉しかったハーレム状態も、全く心のこもっていない告白を毎日浴びせられれば現実が見えて来て、ただ辟易するだけだ。
歩きにくくて仕方がないし、モンスターとの戦闘はなくなったはずなのに、旅路はやけに時間が掛かるようになってしまった。
言葉の中に愛がない事には気付いていたが、こうなってくるともう呪いの様で恐ろしい。
そうこうしている内に、三人の間でしなくて良い情報共有でもしたのだろうか。
無理矢理身体から落とす方が、正攻法よりも成功率が高いと踏んだらしい。
聖女に続いて、とうとう剣士と魔法使いも、健太の寝所に頻繁に侵入を目論むようになっていた。
あの日の事があってから、口にする物には極力気をつけるようにしているが、彼女達は勇者パーティに選ばれる位には、能力が高いのだ。
剣士に体術で押さえ付けられたり、魔法使いに魔法を使われて身体の自由を奪われてしまう様な事があれば、逃れられる自信がない。
怯える健太にリロイが気付いて、「宿を取る際は一人部屋ではなく、男性同士で同室にしませんか?」と提案してくれた時は、その心遣いが嬉しくてまた泣きそうになった。
リロイのおかげで、今の所は事なきを得ているが、正直もう女性不信というか、恐怖症に近い感覚である。
そんな健太の心情を察してくれたのか、リロイは夜だけでなく普段から、健太と行動を共にしてくれる事が多くなった。
女性達の突撃をさりげなく躱してくれたり、精神攻撃から守ってくれる。
かといって、ずっと一緒という訳でもなく、健太が一人になりたい時には、ある程度は放っておいてくれる、心地よい距離感だ。
いつしか、リロイの傍が一番安心できる場所になっていたのは、当然だと言えるだろう。
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