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貞操の危機と出会い
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幸い大きな町だったので、暫く滞在して様子を見ようという事になったのだが、事件が起きたのはその夜。
一人部屋で微睡んでいた健太は、違和感に気付いて目を開けた。
すると、聖女がまるで取憑かれた様に、うっとりとした表情でベッドに入り込み、あろうことか健太の上に乗っかって、服を脱ごうとしている。
「なっ、何してるんですか!?」
慌てて飛び起きようとするものの、何故か身体が痺れて力が入らない。
精神的な疲れから、起き上がるのが億劫になっていたのは確かだ。けれど、こんな症状は出ていなかったはずである。
(まさか、何か盛られた……?)
昼間、「身体が休まりますから」と、聖女が持って来てくれたスープを、何の迷いも持たず口にした事実を思い出して、冷や汗が出る。
だが、仲間が用意してくれた親切に対して疑うなんて、健太の頭には全くなかった。
聖女の能力は癒しの力がメインで、状態異常系の回復も得意分野だ。
治す専門であるとばかり思い込んでいたが、裏を返せば状態異常の専門家でもあるといえる。
この世界の食べ物に精通していない健太に、痺れ薬を盛ること位、容易いだろう。
「勇者様は、ただ身を任せていて下されば良いのですわ」
下着姿になった聖女が、ツッと健太の首筋に指を這わすと、途端に声さえ出なくなる。
ビクリと身体は震えたものの、やはり自力で動かす事は出来なかった。
(嘘だろ?)
聖女と言えば、清らかな乙女というイメージだ。
しかも彼女は、健太を召喚した国の王女でもある。
三人の女性陣の中でも、一番大人しいタイプだと思っていた聖女が、悪びれる様子もなくこんな大胆な行動を起こしているという事実に、頭がついていかない。
こんな風に、身体を使って落とすというやり方に出るなんて、考えてもみなかった。
まだ、「健太の事が、好きで好きで仕方がなくて暴走した」というのなら可愛げもあるが、そうではない。
ただただ弱り切っている健太を、この先もずっと逃がさない為だけの行為である事は、明らかだった。
勇者という役目を押しつけられ、塞ぎ込んだ上に身体の不調を訴えた健太が、もしかしたらこの世界を見捨てるかもしれないと、察知でもしたのだろうか。
そうであれば、この行為は逆効果である。
為す術のない健太に向かって、聖女の獲物を狙うような表情が、ゆっくりと近付いてきた。
(こんなのは、嫌だ)
いくら相手が可愛い女の子だからといって、今の状況を喜べる神経は持ち合わせていない。
正直、蛇に睨まれた蛙の心境である。
考えるのを止めて、快楽だけを追える性格だったら良かったのかもしれない。
だがそんな器用な事が出来るのなら、そもそも心労で倒れたりはしないのだ。
それに健太は、まだ恋愛に夢を見ていたい年頃である。
愛し合うなら、お互いに想い合っている上でなければ嫌だった。
動かない身体は、否応なく近付いてくる聖女の吐息を拒否する事さえ叶わない。
思わずぎゅっと目を瞑ったその時、「コンコン」と部屋の扉がノックされる音が、やけに大きく響いた。
「…………っ」
恐怖からなのか、それとも聖女が首筋に触れた時に何かされたのか、助けを求める声さえ出せなくて、絶望的な気持ちになる。
だが、まるで天が健太の味方をする様に、住人の許可を得ないままであるにも関わらず、扉はゆっくりと開いた。
(助かった……!)
未だ聖女に襲われている体勢で、ほっとして涙目になっている健太と、扉を開けた人物の目が合う。
扉を開けた姿勢のまま、部屋の中の状況に驚いた様に目を見開いていたのは、後に一緒に旅をする事になり、健太の告白相手にもなる神官。
夜中という時間帯もあって、かっちりとした神官服ではなく、ラフなシャツとズボンという格好だったが、サラサラの銀髪と透き通る青の目を持つ神官は、男性にしておくには勿体ない位に綺麗だった。
貞操の危機から助けてくれるかもしれないという、一筋の希望の光だった事もあって、比喩ではなく本当に、この時の神官は天使に見えた。
「これは失礼、お楽しみの途中でしたか」
「ち、違う! 助けてくれ」
今度はちゃんと、声が出た。
盛られた薬が切れ始めたのか、聖女に何か術をかけられていたのが神官の乱入で解けたのか、原因は定かではなかったが、ピクリとも動かせなかった身体が僅かに動く。
健太が助けを求める声を出せた事で、この状況が合意ではないと伝えられたのは大きい。
これ以上、事を進めるのは無理だと判断したのか、聖女は慌ててベッドから降りて、脱ぎ捨てた服を拾い扉へと向かう。
すれ違いざま、聖女はまるで体当たりでもする勢いで、神官にわざとぶつかりながら、部屋を出て行った。
「睨まれてしまいました」
健太に去って行く聖女の表情は見えなかったが、どうやら助けに入った神官に対して、敵意を剥き出しにしていたらしい。
「やれやれ」と両肩を小さく上げながら、聖女と入れ替わりに神官が部屋へと入ってくる。
そして、小さく震える健太の身体を支えながら、上半身を起こす手助けをしてくれた。
一人部屋で微睡んでいた健太は、違和感に気付いて目を開けた。
すると、聖女がまるで取憑かれた様に、うっとりとした表情でベッドに入り込み、あろうことか健太の上に乗っかって、服を脱ごうとしている。
「なっ、何してるんですか!?」
慌てて飛び起きようとするものの、何故か身体が痺れて力が入らない。
精神的な疲れから、起き上がるのが億劫になっていたのは確かだ。けれど、こんな症状は出ていなかったはずである。
(まさか、何か盛られた……?)
昼間、「身体が休まりますから」と、聖女が持って来てくれたスープを、何の迷いも持たず口にした事実を思い出して、冷や汗が出る。
だが、仲間が用意してくれた親切に対して疑うなんて、健太の頭には全くなかった。
聖女の能力は癒しの力がメインで、状態異常系の回復も得意分野だ。
治す専門であるとばかり思い込んでいたが、裏を返せば状態異常の専門家でもあるといえる。
この世界の食べ物に精通していない健太に、痺れ薬を盛ること位、容易いだろう。
「勇者様は、ただ身を任せていて下されば良いのですわ」
下着姿になった聖女が、ツッと健太の首筋に指を這わすと、途端に声さえ出なくなる。
ビクリと身体は震えたものの、やはり自力で動かす事は出来なかった。
(嘘だろ?)
聖女と言えば、清らかな乙女というイメージだ。
しかも彼女は、健太を召喚した国の王女でもある。
三人の女性陣の中でも、一番大人しいタイプだと思っていた聖女が、悪びれる様子もなくこんな大胆な行動を起こしているという事実に、頭がついていかない。
こんな風に、身体を使って落とすというやり方に出るなんて、考えてもみなかった。
まだ、「健太の事が、好きで好きで仕方がなくて暴走した」というのなら可愛げもあるが、そうではない。
ただただ弱り切っている健太を、この先もずっと逃がさない為だけの行為である事は、明らかだった。
勇者という役目を押しつけられ、塞ぎ込んだ上に身体の不調を訴えた健太が、もしかしたらこの世界を見捨てるかもしれないと、察知でもしたのだろうか。
そうであれば、この行為は逆効果である。
為す術のない健太に向かって、聖女の獲物を狙うような表情が、ゆっくりと近付いてきた。
(こんなのは、嫌だ)
いくら相手が可愛い女の子だからといって、今の状況を喜べる神経は持ち合わせていない。
正直、蛇に睨まれた蛙の心境である。
考えるのを止めて、快楽だけを追える性格だったら良かったのかもしれない。
だがそんな器用な事が出来るのなら、そもそも心労で倒れたりはしないのだ。
それに健太は、まだ恋愛に夢を見ていたい年頃である。
愛し合うなら、お互いに想い合っている上でなければ嫌だった。
動かない身体は、否応なく近付いてくる聖女の吐息を拒否する事さえ叶わない。
思わずぎゅっと目を瞑ったその時、「コンコン」と部屋の扉がノックされる音が、やけに大きく響いた。
「…………っ」
恐怖からなのか、それとも聖女が首筋に触れた時に何かされたのか、助けを求める声さえ出せなくて、絶望的な気持ちになる。
だが、まるで天が健太の味方をする様に、住人の許可を得ないままであるにも関わらず、扉はゆっくりと開いた。
(助かった……!)
未だ聖女に襲われている体勢で、ほっとして涙目になっている健太と、扉を開けた人物の目が合う。
扉を開けた姿勢のまま、部屋の中の状況に驚いた様に目を見開いていたのは、後に一緒に旅をする事になり、健太の告白相手にもなる神官。
夜中という時間帯もあって、かっちりとした神官服ではなく、ラフなシャツとズボンという格好だったが、サラサラの銀髪と透き通る青の目を持つ神官は、男性にしておくには勿体ない位に綺麗だった。
貞操の危機から助けてくれるかもしれないという、一筋の希望の光だった事もあって、比喩ではなく本当に、この時の神官は天使に見えた。
「これは失礼、お楽しみの途中でしたか」
「ち、違う! 助けてくれ」
今度はちゃんと、声が出た。
盛られた薬が切れ始めたのか、聖女に何か術をかけられていたのが神官の乱入で解けたのか、原因は定かではなかったが、ピクリとも動かせなかった身体が僅かに動く。
健太が助けを求める声を出せた事で、この状況が合意ではないと伝えられたのは大きい。
これ以上、事を進めるのは無理だと判断したのか、聖女は慌ててベッドから降りて、脱ぎ捨てた服を拾い扉へと向かう。
すれ違いざま、聖女はまるで体当たりでもする勢いで、神官にわざとぶつかりながら、部屋を出て行った。
「睨まれてしまいました」
健太に去って行く聖女の表情は見えなかったが、どうやら助けに入った神官に対して、敵意を剥き出しにしていたらしい。
「やれやれ」と両肩を小さく上げながら、聖女と入れ替わりに神官が部屋へと入ってくる。
そして、小さく震える健太の身体を支えながら、上半身を起こす手助けをしてくれた。
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