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召喚勇者の誤算

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「俺、こいつの事が好きなんだ。だから、ごめん!」

 とある宿屋の一階にある、小さな食堂。
 健太が意を決して叫んだその声により、雑多な音で覆われていた空間は、一瞬にして静まり返った。
 突然の大声による告白を耳に入れた人々が、注意を惹きつけられたのは僅かな一時だけで、すぐに元の雑踏が戻る。

 だが、健太の周りの一角だけは、未だに異様な静寂が保たれていた。
 隣に座る神官の袖を、控えめに引っ張りながら訴える健太の姿を、テーブルを挟んだ向こう側から、旅の仲間である三人の女性達が、信じられない目で凝視している。

「まさか、健太が私を選んで下さるとは……光栄です。嬉しいですよ」

 くすくすと可笑しそうに笑いながら、まるで空気の読めていない回答をした神官によって、ようやく静寂は破られた。
 健太がたった今、「好きだ」と示した隣に座っている神官は、線が細く綺麗な顔をしているが、間違いなく男である。

 同性から突然好きだと言われても、相手は困るだけのはず。
 健太はただ、「ごめんなさい」という断りの言葉が降りてくるのを、待つだけの予定だった。
 きっぱり振られた後に、「受け入れて貰えなくても良い、ただ好きで居させて欲しい」等と縋り付いて、健太が本当は男が好きなのだと目の前に居る女性陣に思い込んで貰えれば、それで成功だったはずなのに。

「え……? っ、んんぅ!?」

 見当違いの言葉が聞こえて疑問符を浮かべる健太に向かって、ふわりと綺麗に微笑んだ神官が、そのまま健太の唇を流れるように奪っていた。

「ちょっとアンタ、なにやってんのよ!」
「見て分かりませんか? 私と健太が、両想いだという証ですよ」

 突然健太にキスした神官に対して、ガタンと音を立てて勢いよく立ち上がり抗議する魔法使いの少女に向かって、にこやかであるにも関わらず挑発している様にも感じられる答えを返した神官は、やけに楽しそうである。

「信じられない」
「そんな……」

 聖女と女剣士が、目の前で繰り広げられる光景を受け入れられないのか、呆然とただただ首を横に振っていた。
 そして、今の状況に一番頭が追いついていないのは、端を発した健太自身だ。

(な、なんで……?)

「これから、よろしくお願いしますね。さぁ、部屋へ戻りましょうか。今夜は二人の愛を、存分に確かめ合いましょう」
「いや、ちょ……っ」

 ぐいっと腕を引く神官の手が余りにも力強くて、まるでその言葉に応えるかの様に、健太は椅子から立ち上がってしまう。
 何が起きているのか正しく状況を把握できずに、口をぱくぱくとさせて次の言葉を紡げないでいる女性三人をその場に残し、健太は神官によって二階にある宿泊部屋へと連れ込まれた――――。





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