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だから揉め事は嫌いなんだ
ファンファーレ
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「リアムってば、やっぱり鉾使いの死神だったのね!」
「いやだから本当に違うんだって…」
先ほどの一悶着から路地裏に逃げこみ、出た先の大通りで少し休む。これだけ違うと言っているのにそれでも信じるその根性、逆に感服する。
「でもどうしてもビビっちゃうのが痛いよね…それさえ何とかなれば立派な鉾使いなんだけど」
「あの、その点については自覚してるんで、塩を擦り込んでえぐらないでもらってもいいですか…」
「自覚ありきなら尚更改善すべきよ」
「頑張ったんだけど駄目だったからこうなってるんだよね…あはは…」
笑い事じゃない、と後頭部を引っ叩かれた、なんという理不尽。結局はドリーが先にこの話題に見切りをつけ、次の目的地への移動を始めた。途中、揉め事でうやむやになったが、僕らは例の大きな建物へ向かうはずだったのだ。
「ここら辺はフォルセの研究機関の最高法規という最高法規が集まってるからね。下手に写真でも撮れば即刻牢獄行きだよ」
「随分厳しいんだね」
「そういえば雑貨屋の旦那さんが、夢売買の市場を帝国内だけで独占してるから、情報漏洩には厳しい……とか何とか言ってたな」
放浪途中、度々街に立ち寄って夢売買についての話を聞いて回ったりしていたがどうひねっても夢売買に関する情報が少なく全くめぼしい情報は得られなかった、どうりで。ただ、ドリーはこの手の難しい話は得意ではないようで、まあ何言ってるかさっぱりなんだけどね!と笑って見せた。第一僕も人のことを言えるほど頭が強くはないが。
「リアムは放浪してるんでしょ?」
「まあ…放浪って言われると放浪だし、人探しって言ったら人探しって感じかな」
「人を探してるの?誰々!」
「分からない人を探してるんだ」
「…?何それ?」
得体の知れない、未だ実像の掴めない誰かを探している。ゴールがない迷路みたいな、そんな感じだ。
「そういうドリーは何をしてるんだ?」
「私はしがない酒場のウェイトレスです。ウェイトレスだと聞こえがいいけど、まあ実質お客さんの愚痴と悩み事のはけ口みたいなものね」
「おお…ブラック……」
でも楽しいんだよ、と後で付け足すところ、どうやらそこまで不満に思っていないらしい。しかし、そうか。酒場のウェイトレスか。
「何か酒場って情報の巣窟ってイメージするな」
「いや、そんなものでもないよ?案外普通の奥さんとか来るし、そもそも情報っていうか愚痴しか集まらないし。あ、着いた着いた!」
ドリーが声音を弾ませて見上げるその先には気高く聳える豪勢な建物が大きく鎮座していた。若干中東の風潮が見え隠れするその建物は、今度は皆まで言われずとも想像がつくような見てくれだ。
「…王宮?」
「そう!大正解!」
国境線にあったあの門よりも大きいこの仕切りも手伝って余計に華々しさが増しているように見え、さらには両脇の槍を持った警備員のおかげで厳格さもそのまま持ち上がるように感じられた。
「凄い綺麗な王宮でしょ?これがフォルセの目玉かな。…って言っても、この王宮も夢売買で浮いた歳入の賜物なんだけどね!」
「さすが先進国」
「いえいえ、まだ発展途上国なのですよ!」
「それはそれは」
通行証がないと入れないのでここまで来ても見れるのは外装だけらしく、つまらなさそうにドリーが足元の石ころを蹴った。その顔はどこか浮かない。
「どうかした?」
「え?ううん、そんなことないよ。あ、そうだ!美味しい西洋食堂があるの!一緒にどう?」
「あ…僕?」
うんうん、と頷かれてようやくそれが現実だと気づく。こんな別嬪さん、もといドリーにに誘われたということ自体がまず僕の中で盛大なファンファーレを鳴らしている。
もちろん、行かない理由などない。
「じゃあご一緒させてもらおうかな」
「そうこなくっちゃ!」
早速ドリーが王宮と反対方向へ走り出し、僕もそれに着いていった。日も沈み始めてあっという間に空が真っ赤に染まる。
まるで炎みたいだ。
「…リアム?」
「ああ、今行くよ」
きっとあの場所はまだ焼け野原のままだ。
「いやだから本当に違うんだって…」
先ほどの一悶着から路地裏に逃げこみ、出た先の大通りで少し休む。これだけ違うと言っているのにそれでも信じるその根性、逆に感服する。
「でもどうしてもビビっちゃうのが痛いよね…それさえ何とかなれば立派な鉾使いなんだけど」
「あの、その点については自覚してるんで、塩を擦り込んでえぐらないでもらってもいいですか…」
「自覚ありきなら尚更改善すべきよ」
「頑張ったんだけど駄目だったからこうなってるんだよね…あはは…」
笑い事じゃない、と後頭部を引っ叩かれた、なんという理不尽。結局はドリーが先にこの話題に見切りをつけ、次の目的地への移動を始めた。途中、揉め事でうやむやになったが、僕らは例の大きな建物へ向かうはずだったのだ。
「ここら辺はフォルセの研究機関の最高法規という最高法規が集まってるからね。下手に写真でも撮れば即刻牢獄行きだよ」
「随分厳しいんだね」
「そういえば雑貨屋の旦那さんが、夢売買の市場を帝国内だけで独占してるから、情報漏洩には厳しい……とか何とか言ってたな」
放浪途中、度々街に立ち寄って夢売買についての話を聞いて回ったりしていたがどうひねっても夢売買に関する情報が少なく全くめぼしい情報は得られなかった、どうりで。ただ、ドリーはこの手の難しい話は得意ではないようで、まあ何言ってるかさっぱりなんだけどね!と笑って見せた。第一僕も人のことを言えるほど頭が強くはないが。
「リアムは放浪してるんでしょ?」
「まあ…放浪って言われると放浪だし、人探しって言ったら人探しって感じかな」
「人を探してるの?誰々!」
「分からない人を探してるんだ」
「…?何それ?」
得体の知れない、未だ実像の掴めない誰かを探している。ゴールがない迷路みたいな、そんな感じだ。
「そういうドリーは何をしてるんだ?」
「私はしがない酒場のウェイトレスです。ウェイトレスだと聞こえがいいけど、まあ実質お客さんの愚痴と悩み事のはけ口みたいなものね」
「おお…ブラック……」
でも楽しいんだよ、と後で付け足すところ、どうやらそこまで不満に思っていないらしい。しかし、そうか。酒場のウェイトレスか。
「何か酒場って情報の巣窟ってイメージするな」
「いや、そんなものでもないよ?案外普通の奥さんとか来るし、そもそも情報っていうか愚痴しか集まらないし。あ、着いた着いた!」
ドリーが声音を弾ませて見上げるその先には気高く聳える豪勢な建物が大きく鎮座していた。若干中東の風潮が見え隠れするその建物は、今度は皆まで言われずとも想像がつくような見てくれだ。
「…王宮?」
「そう!大正解!」
国境線にあったあの門よりも大きいこの仕切りも手伝って余計に華々しさが増しているように見え、さらには両脇の槍を持った警備員のおかげで厳格さもそのまま持ち上がるように感じられた。
「凄い綺麗な王宮でしょ?これがフォルセの目玉かな。…って言っても、この王宮も夢売買で浮いた歳入の賜物なんだけどね!」
「さすが先進国」
「いえいえ、まだ発展途上国なのですよ!」
「それはそれは」
通行証がないと入れないのでここまで来ても見れるのは外装だけらしく、つまらなさそうにドリーが足元の石ころを蹴った。その顔はどこか浮かない。
「どうかした?」
「え?ううん、そんなことないよ。あ、そうだ!美味しい西洋食堂があるの!一緒にどう?」
「あ…僕?」
うんうん、と頷かれてようやくそれが現実だと気づく。こんな別嬪さん、もといドリーにに誘われたということ自体がまず僕の中で盛大なファンファーレを鳴らしている。
もちろん、行かない理由などない。
「じゃあご一緒させてもらおうかな」
「そうこなくっちゃ!」
早速ドリーが王宮と反対方向へ走り出し、僕もそれに着いていった。日も沈み始めてあっという間に空が真っ赤に染まる。
まるで炎みたいだ。
「…リアム?」
「ああ、今行くよ」
きっとあの場所はまだ焼け野原のままだ。
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