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第5章 別れてください
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風邪で一週間寝込んでいたことと、今日学校で倒れたこと。それからおそるおそる、時々心臓が痛くなると話したら、いくつかの検査をされた。
しかし検査の結果に異常はなく、風邪の影響と栄養不足で体が弱っているんでしょうと、念のため点滴をしてくれた。
「まだ体調が良くならないようなら、また来てください」
「はい」
先生から「あと少しの命です」なんて言葉は、ひと言も出なかった。
「奈央! 大丈夫?」
すべての処置が終わると、春輝が駆け寄ってきた。
「うん。やっぱり風邪のせいで、体力が落ちてるだけみたい」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
「よかったぁ……」
春輝がホッとしたように、胸をなで下ろす。そしてわたしの前でにかっと笑う。
「じゃあどこにも行かないでね?」
わたしは黙って春輝の顔を見る。すると春輝がまた、わたしの手を握りしめた。
「どこにも行かせないから」
胸が熱くて、苦しい。どうしたらいいのかわからなくて、でももうこの手を離したくはなくて。わたしは春輝の前でうなずいていた。
「……うん」
春輝がわたしの前で笑う。そしてわたしの手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
途中、学校に寄って、こっそり自分たちの自転車を引き出し、それで春輝の家に向かった。
「いらっしゃい、奈央ちゃん。どうぞ上がって」
家に着くと、おばあさんが出迎えてくれた。春輝が連絡しておいてくれたそうだ。
「ご無沙汰してます……」
わたしが頭を下げると、おばあさんが「その節はお世話になりました」と笑って言った。
「奈央ちゃんの好きなだけ、いていいからね」
春輝はわたしが叔母さんの家に帰るつもりがないことも、伝えてあったようだ。でもおばあさんは嫌な顔ひとつせず、わたしを迎えてくれる。
「ばあちゃん、腹減ったぁ。昼飯、まだ食べてないんだよ」
「まったくこの子は、口を開けば『腹減った』なんだから。ついこの間まで怪我人だったとは思えないでしょ?」
おばあさんの声にうなずく。本当にそのとおりだ。いまの春輝からは、生死の境を彷徨っていたなんて、想像もつかない。
「ねぇ、奈央。昼飯食ったら、海行かない? 神様のところ」
神様――その言葉に鼓動が激しくなる。
『その代わりに二か月後、おまえが死ぬ』
でもさっき病院で、そんなこと言われなかった。風邪が治れば、きっと元の元気な体に戻る。
そんな人間が、あと少しで死んだりするだろうか?
本当に死ぬのなら、なにか検査で異常が見つかるはずではないだろうか?
「奈央? やっぱやめようか? 具合悪い?」
春輝の心配そうな声に、首を横に振る。
「大丈夫だよ。行こう」
わたしの声に、春輝が笑った。
しかし検査の結果に異常はなく、風邪の影響と栄養不足で体が弱っているんでしょうと、念のため点滴をしてくれた。
「まだ体調が良くならないようなら、また来てください」
「はい」
先生から「あと少しの命です」なんて言葉は、ひと言も出なかった。
「奈央! 大丈夫?」
すべての処置が終わると、春輝が駆け寄ってきた。
「うん。やっぱり風邪のせいで、体力が落ちてるだけみたい」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
「よかったぁ……」
春輝がホッとしたように、胸をなで下ろす。そしてわたしの前でにかっと笑う。
「じゃあどこにも行かないでね?」
わたしは黙って春輝の顔を見る。すると春輝がまた、わたしの手を握りしめた。
「どこにも行かせないから」
胸が熱くて、苦しい。どうしたらいいのかわからなくて、でももうこの手を離したくはなくて。わたしは春輝の前でうなずいていた。
「……うん」
春輝がわたしの前で笑う。そしてわたしの手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
途中、学校に寄って、こっそり自分たちの自転車を引き出し、それで春輝の家に向かった。
「いらっしゃい、奈央ちゃん。どうぞ上がって」
家に着くと、おばあさんが出迎えてくれた。春輝が連絡しておいてくれたそうだ。
「ご無沙汰してます……」
わたしが頭を下げると、おばあさんが「その節はお世話になりました」と笑って言った。
「奈央ちゃんの好きなだけ、いていいからね」
春輝はわたしが叔母さんの家に帰るつもりがないことも、伝えてあったようだ。でもおばあさんは嫌な顔ひとつせず、わたしを迎えてくれる。
「ばあちゃん、腹減ったぁ。昼飯、まだ食べてないんだよ」
「まったくこの子は、口を開けば『腹減った』なんだから。ついこの間まで怪我人だったとは思えないでしょ?」
おばあさんの声にうなずく。本当にそのとおりだ。いまの春輝からは、生死の境を彷徨っていたなんて、想像もつかない。
「ねぇ、奈央。昼飯食ったら、海行かない? 神様のところ」
神様――その言葉に鼓動が激しくなる。
『その代わりに二か月後、おまえが死ぬ』
でもさっき病院で、そんなこと言われなかった。風邪が治れば、きっと元の元気な体に戻る。
そんな人間が、あと少しで死んだりするだろうか?
本当に死ぬのなら、なにか検査で異常が見つかるはずではないだろうか?
「奈央? やっぱやめようか? 具合悪い?」
春輝の心配そうな声に、首を横に振る。
「大丈夫だよ。行こう」
わたしの声に、春輝が笑った。
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