上 下
31 / 46

お呼ばれ③

しおりを挟む
「そうね、卵焼きはオムレツとかと似てるし、この国の人達でも食べやすいと思うわ」
「そうですよね……!オムレツが既にあるんだから、わざわざ卵焼きじゃなくてもいいですよね……!」

 わたしの一言で気付いたと言わんばかりに、エリカさんは表情をハッとさせる。そして分かりやすくアワアワと焦り始めた。
 褒めたつもりだったのに、自分は余計な事を口走ってしまったのかと心配になる。

「え、あ、あの……とても美味しかったわよ?チーズのと、挽肉入りは特にウケるんじゃないかしら?わたしはシンプルに塩だけの物も好きだけど」
「私、今後の人生を色々と考えておりまして、その一つが異世界での料理、特に日本の料理……『和食』の知識を活かして料理屋をオープンする事なんです」

 フォローしようとするわたしに、エリカさんは予想外の事を語り始めた。

 この世界に来てからまだ間もない筈なのに、具体的に自分の人生を設計しているエリカさんには、素直に感心してしまう。
 私のように、生まれた時からこの国で育った記憶がある訳ではないというのに。

「わたしはオムレツという料理を知っていました。なのに卵焼きとオムレツが作る工程が違うものの、両方卵を焼いた似て非なる料理だと言う事を失念しておりました……!オムレツがあるのにわざわざ、卵焼きを食べにお店に足を運びませんよねっ。この国にはない、珍しくて美味しい料理を提供したいのです!」

 確かに万人受けするからといって、代替えの効く料理が既にあっては話題性には乏しいだろう。風変わり且つ、この国の人の舌に受け入れられる物を提供する方が注目されやすい。

 そのお店でしか食べられない、珍しい異国の料理。それはとても魅力的だ。
 では、天麩羅はどうだろうか?

 前世の記憶では、日本に来た外国人が食べる和食の人気メニューの一つだった筈だ。

「テンプラのこのサクサクした食感は新しいし、ウケるのではないかしら?先程も言っていたけれど、海老などの魚介類との相性も良さそうだし。この国の人達の味覚にも合うと思うわ」
「本当ですか!?そういえば……テレビの情報によると、天麩羅は元の世界でも外国人の方々に人気だった気がします!スシ、テンプーラ、ゲイシャって、日本に旅行に来たばかりの外国人さんがインタビューで答えてました……!」

 ──何故に芸者?芸者だけ食べ物じゃないんですけど……。

 取り敢えず、天麩羅に関しては同じ情報を持っていて、認識も共通しているようだ。

「フリットと似た料理ですが、そちらは小麦粉の他に卵を混ぜて揚げるので、また別物なんです」

 フリットは確かイタリア料理だった気がするけど、そのような違いがあったのか。料理にあまり詳しくないわたはしは、成る程と頷いた。

「母国では天麩羅は天麩羅職人と呼ばれる専門の方々が、長年厳しい修行の末に就く職業なのです。
 なので、わたしでは到底プロの味を出せる訳ではないのが悔やまれます。あ、この世界の他国には、天麩羅職人はいたりしないのかしら?いたら修行をさせて貰ったり……」

 ──何故か目的が天麩羅職人に変わっていっているような……。

 エリカさんの独り言に、少し困惑してしまった。

「それにしても異世界の料理屋、とても素敵ね。もしエリカさんの夢が叶ったら、是非行かせていた頂きたいわ」
「嬉しいです!自国とは厨房の使い勝手も全く違いますし、和食を作る上での重要な調味料が手に入らないですから、どうにか今ある物で作れる物を考えていかないと……。
 あ、でも……セレスティア様は外食とか難しいですよね、もしかしてお忍びとか!?それかテイクアウト……はっ!いっそ日本のお弁当文化を流行らせて、販売するとか!」

 中々の商売魂を見せる彼女が、とても逞しく映った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中
恋愛
大陸の西の果てにあるスフィア王国。 その国の公爵家令嬢エリスは、王太子の婚約者だった。 だがある日、エリスは姦通の罪を着せられ婚約破棄されてしまう。 そんなエリスに追い打ちをかけるように、王宮からとある命が下る。 それはなんと、ヴィスタリア帝国の悪名高き第三皇子アレクシスの元に嫁げという内容だった。 結婚式も終わり、その日の初夜、エリスはアレクシスから告げられる。 「お前を抱くのはそれが果たすべき義務だからだ。俺はこの先もずっと、お前を愛するつもりはない」と。 だがその宣言とは違い、アレクシスの様子は何だか優しくて――? 【アルファポリス先行公開】

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?

樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」 エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。 他に好きな女ができた、と彼は言う。 でも、それって本当ですか? エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

2人の幼なじみに迷惑をかけられ続け、それから解放されても厄介ごとは私を中々解放してくれず人間不信になりかけました

珠宮さくら
恋愛
母親たちが学生の頃からの友達らしく、同じ年頃で生まれたことから、幼なじみが2人いる生活を送っていたフランソワーズ・ユベール。 両方共に厄介な性格をしていたが、その一切合切の苦情やらがフランソワーズのところにきていて迷惑しか被っていなかった。 それが、同時期に婚約することになって、やっと解放されると思っていたのだが……。 厄介なものから解放されても、厄介ごとがつきまとい続けるとは思いもしなかった。

処理中です...