27 / 46
約束
しおりを挟む
自分にとって最善なのは、エリカさんにこれ以上関わらないようにする事だろうか。それとも相手を知るために、もっと探りを入れるべきだろうか。
答えが出ぬまま、エリカさんと学食でのランチを共にして数日後が立った。わたしは仲のいい令嬢達とランチを取る事が多く、毎回エリカさんと昼食を共にする訳ではないが、遠目からでも食事マナーの上達が伺えた。
養子先の伯爵家で、食事マナーのレッスンが開始されたのと、本人の努力の結果である。
つい最近この世界に来たエリカさんと、この世界で産まれてからの記憶がある自分とでは、条件が違う。生活も文化も違い、戸惑う事が多い筈なのに、前向きに努力出来る彼女は尊敬に値する。
そんな彼女が不自由していた場合、手を差し伸べるのは当たり前だ。
「声優は究極のサービス業だから」
と、尊敬する先輩の言葉が頭を過った。
選択制の授業を終えた放課後、図書室に寄った後、わたしは一人廊下を歩いていた。
学園では元いた世界の大学のように、授業を好きに選択する事が出来る。お陰で常にグループで、群れをなさなくてもいいのは、わたしにとって気が楽である。
貴族の通う学園とあって、社交も必要な事も理解しているので、上手く
フレデリック殿下は基本的に忙しい方なので、授業が終わればすぐに王宮へとお戻りになられる事がしばしば。本日の帰宅の際は、公爵家の馬車が迎えに来てくれる。
一人になるとつい色んな事を考えてしまいがちだ。そんな折、見慣れた栗色の髪と、夕焼けの色の瞳が視界に入った。
「セレスティア様っ」
エリカがわたしに気付くと、こちらに向かい、手を振ってきた。
気楽に過ごせる理由の一つが、下位貴族の貴族子女ではわたしに、気安く声が掛けられないというのもある。だがエリカは随分親しみのある態度と第一声だった。
日本人の庶民気質が染み付いたわたしも特に気にしなかった。
「あっ、気さくすぎましたよね、申し訳ございませんっ」
「他に誰もいないのだし、わたしは気にしていないわ。それより、何か不自由している事はない?前にも言ったけど、困った事があったら相談してね」
「あ、ありがとうございまっ……!」
にこりと微笑んで見せると、お礼を言い掛けたままエリカさんは固まった。
わたしは訝しみつつ、相手の反応を見守った。
「?」
「申し訳ありませんっ!あまりにも可愛らしく……って、失礼なのは承知なのですが、わたしにはセレスティア様が天使にしか見えなくて、つい」
可愛い女の子に懐かれるのは嬉しいし大歓迎。だけどその言葉は本心ではなく、何か裏があるのではと、つい探ってしまう自分が悲しい。人生の明暗が掛かっているので、今は素直に受け止められなくても許して欲しい。
まだ門限まで時間があるという事で、わたし達は学園内にあるカフェへと足を運んだ。
食堂とは違って完全カフェ仕様であり、注文は店員が聴きに来て、そして頼んだ物を席まで運んでくれる。
カフェに着くとテラス席を指定し、席に着くとわたしはベリーソースのチーズケーキを、エリカさんはショコラケーキを選んだ。わたし達はケーキと共に紅茶を店員に頼み、運ばれて来るのを待った。
わたし達が仲良く談笑しながらカフェに入ると、仲にいた生徒達が驚いた表情でこちらを見ていた。
わたしとエリカさんの組み合わせが意外だったらしい。
温かい紅茶を頂きながら、いくつか会話を交わした後、エリカさんへ質問を投げかけた。
「エリカさんの事をもっと知りたいわ。えっと、エリカ生まれ育った国は……何といったかしら?」
産まれてから国外に出たことのない狭い世界に生きる令嬢として、外の世界へ興味津々といった風を装うことにした。
「国ですか、日本と言います」
「ニホン……不思議な響きね……」
相変わらず自分で言ってて白々しい。
むしろ慣れ親しみすぎた、わたしの故郷である。
「そうですよね、耳馴染みない響きですよね」
「魔法がない代わりに、科学文明がとても進歩していると聞いたわ。とても興味深いわね」
「そうなんです!映像を見て楽しんだり、それにゲーム、とか」
『ゲーム』という単語を出した途端、目が少し泳いだのが気になった。
「ゲームというのは、カードゲームやチェスの事?」
「え、ああ……そうですね」
奥歯に物が挟まったような物言いが気にはなるけど、今は追求はしない事にした。
答えが出ぬまま、エリカさんと学食でのランチを共にして数日後が立った。わたしは仲のいい令嬢達とランチを取る事が多く、毎回エリカさんと昼食を共にする訳ではないが、遠目からでも食事マナーの上達が伺えた。
養子先の伯爵家で、食事マナーのレッスンが開始されたのと、本人の努力の結果である。
つい最近この世界に来たエリカさんと、この世界で産まれてからの記憶がある自分とでは、条件が違う。生活も文化も違い、戸惑う事が多い筈なのに、前向きに努力出来る彼女は尊敬に値する。
そんな彼女が不自由していた場合、手を差し伸べるのは当たり前だ。
「声優は究極のサービス業だから」
と、尊敬する先輩の言葉が頭を過った。
選択制の授業を終えた放課後、図書室に寄った後、わたしは一人廊下を歩いていた。
学園では元いた世界の大学のように、授業を好きに選択する事が出来る。お陰で常にグループで、群れをなさなくてもいいのは、わたしにとって気が楽である。
貴族の通う学園とあって、社交も必要な事も理解しているので、上手く
フレデリック殿下は基本的に忙しい方なので、授業が終わればすぐに王宮へとお戻りになられる事がしばしば。本日の帰宅の際は、公爵家の馬車が迎えに来てくれる。
一人になるとつい色んな事を考えてしまいがちだ。そんな折、見慣れた栗色の髪と、夕焼けの色の瞳が視界に入った。
「セレスティア様っ」
エリカがわたしに気付くと、こちらに向かい、手を振ってきた。
気楽に過ごせる理由の一つが、下位貴族の貴族子女ではわたしに、気安く声が掛けられないというのもある。だがエリカは随分親しみのある態度と第一声だった。
日本人の庶民気質が染み付いたわたしも特に気にしなかった。
「あっ、気さくすぎましたよね、申し訳ございませんっ」
「他に誰もいないのだし、わたしは気にしていないわ。それより、何か不自由している事はない?前にも言ったけど、困った事があったら相談してね」
「あ、ありがとうございまっ……!」
にこりと微笑んで見せると、お礼を言い掛けたままエリカさんは固まった。
わたしは訝しみつつ、相手の反応を見守った。
「?」
「申し訳ありませんっ!あまりにも可愛らしく……って、失礼なのは承知なのですが、わたしにはセレスティア様が天使にしか見えなくて、つい」
可愛い女の子に懐かれるのは嬉しいし大歓迎。だけどその言葉は本心ではなく、何か裏があるのではと、つい探ってしまう自分が悲しい。人生の明暗が掛かっているので、今は素直に受け止められなくても許して欲しい。
まだ門限まで時間があるという事で、わたし達は学園内にあるカフェへと足を運んだ。
食堂とは違って完全カフェ仕様であり、注文は店員が聴きに来て、そして頼んだ物を席まで運んでくれる。
カフェに着くとテラス席を指定し、席に着くとわたしはベリーソースのチーズケーキを、エリカさんはショコラケーキを選んだ。わたし達はケーキと共に紅茶を店員に頼み、運ばれて来るのを待った。
わたし達が仲良く談笑しながらカフェに入ると、仲にいた生徒達が驚いた表情でこちらを見ていた。
わたしとエリカさんの組み合わせが意外だったらしい。
温かい紅茶を頂きながら、いくつか会話を交わした後、エリカさんへ質問を投げかけた。
「エリカさんの事をもっと知りたいわ。えっと、エリカ生まれ育った国は……何といったかしら?」
産まれてから国外に出たことのない狭い世界に生きる令嬢として、外の世界へ興味津々といった風を装うことにした。
「国ですか、日本と言います」
「ニホン……不思議な響きね……」
相変わらず自分で言ってて白々しい。
むしろ慣れ親しみすぎた、わたしの故郷である。
「そうですよね、耳馴染みない響きですよね」
「魔法がない代わりに、科学文明がとても進歩していると聞いたわ。とても興味深いわね」
「そうなんです!映像を見て楽しんだり、それにゲーム、とか」
『ゲーム』という単語を出した途端、目が少し泳いだのが気になった。
「ゲームというのは、カードゲームやチェスの事?」
「え、ああ……そうですね」
奥歯に物が挟まったような物言いが気にはなるけど、今は追求はしない事にした。
1
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
猫かぶり令嬢は王子の愛を望まない
今井ミナト
恋愛
【あざとい系腹黒王子に鈍感干物な猫かぶり令嬢が捕まるまでの物語】
私、エリザベラ・ライーバルは『世界で一番幸せな女の子』のはずだった。
だけど、十歳のお披露目パーティーで前世の記憶――いわゆる干物女子だった自分を思い出してしまう。
難問課題のクリアと、外での猫かぶりを条件に、なんとか今世での干物生活を勝ち取るも、うっかり第三王子の婚約者に収まってしまい……。
いやいや、私は自由に生きたいの。
王子妃も、修道院も私には無理。
ああ、もういっそのこと家出して、庶民として生きたいのに!
お願いだから、婚約なんて白紙に戻して!
※小説家になろうにも公開
※番外編を投稿予定
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!
青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』
なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。
それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。
そしてその瞬間に前世を思い出した。
この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。
や、やばい……。
何故なら既にゲームは開始されている。
そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった!
しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし!
どうしよう、どうしよう……。
どうやったら生き延びる事ができる?!
何とか生き延びる為に頑張ります!
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!
水鳥楓椛
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!?
「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」
天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!!
「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」
~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる