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その39

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「まず、オリヴィアお嬢様はこの清廉な外見の通り、白やパステルカラーなど淡いドレスが特に良くお似合いです。これは、殿下も既に知っておられる事でしょう。
それに加えて近年の流行色である、くすみピンクなどもとてもお似合いになられます」

ファッションに疎いオリヴィアは、センスがよく流行にも敏感なローズの助言をもらおうと、この場に呼んでいた。
そのローズの助言に耳を傾けるエフラムは、熱心に考察している最中である。それはもう、オリヴィア本人よりも遥かに。

ちなみにオリヴィアの、舞踏会用のドレスを新調するため、マダムをこの湖の館に連れて来たのはエフラムである。

「なるほど、くすんだピンクか。可愛らしさも大人っぽさも、デザイン次第で演出出来そうだね。ピンクなのに子供っぽくなりすぎない、という事か」


「その通りです殿下!シフォンでスカートをふんわりとさせるのも良いですし、シンプルなデザインに大きなリボンなど、アクセントを出すのも良いですわ」

こうして話し合いのもと、ドレスの生地や細かな装飾など、デザインが決まった。ローズの助言と昨今の流行、そしてオリヴィアの好みを取り入れたものになった。きっと素敵な衣装へと、仕上がるに違いない。


ドレスの打ち合わせが終わったところで、予定通りお客様であるエフラムとマダムに、お茶を振る舞う時間がやって来た。
オリヴィアはお客様をサロンへ一旦案内し、しばらくしてティーワゴンを押した、ローズと共に戻ってきた。

ティーワゴンには人数分のお茶と、ケーキが乗せられている。ケーキの出来を確認するために、オリヴィアも厨房へと訪れたのだった。

ワゴンに乗せられているのは、飾ったサクランボが、透けて見える透明なゼリーを上に。そして下はミルクゼリーの二層になったゼリーリーフケーキ。

オリヴィアの嬉しそうな様子から、ケーキの出来に満足しているのが伺える。
これにはケーキを目にしたマダムも、感嘆の声を上げた。

「まぁ……!これをオリヴィア様が、お作りになられたのですか?とても美味しそうで、そしになんて美しいケーキなんでしょう」

貴族令嬢がお菓子作りなど、良い印象を受けない人もいるかもしれない。だが働く女性の筆頭であるマダムは、そのような偏見は持ち合わせていなかった。

「ありがとうございます!冷やして出来上がるのを待っていたのですが、切ってしまう前に完成品をお二人にも見てもらいたくて」
「確かに切ってしまうのが、勿体なく感じてしまうね。本当に、綺麗なリーフケーキ綺麗だから」

感心した様子でリーフケーキを眺めるエフラムとマダムを前に、オリヴィアは照れながら口を開いた。

「先日、エフラム様に連れて行って頂いたカフェで食べた、透明で綺麗なケーキが凄く美味しくて。自分でも作ってみたくなったのです」

大事な思い出を口にして、愛おしむような表情を見せるオリヴィア。
言いながら、エフラムとの視線が絡んだ瞬間、オリヴィアの心臓は早鐘を打ち始める。

「まぁ、素敵なエピソードですこと。お二人は本当に仲がよろしいのですね、よく二人で出かけられるのですか?」
「えっと、エフラム様とは……」

マダムの何気ない質問に、オリヴィアは答えようとして、固まった。

エフラムとは子供の頃はよく遊んでいた幼馴染みの関係だが、誘われて何処かに出掛けるのは、前回が初めてだった。

それもそのはず、最近までオリヴィアの婚約者はエフラムの兄であるヨシュアであった。他に婚約者がいる身でありながら、エフラムから誘いを受けるなど、なくて当然である。

(ヨシュア様には婚約破棄されましたけど……!)

そのような事を考えているうちに、オリヴィアは重大な事に気付いてしまった。
エフラムの婚約者でもない自分が、軽々しく町に連れ立って貰った事を、他人に話すべきではなかったのではないかと。

(あまりプライベートな事は言うべきではありませんでした……!あ、でもマダムには既に今度の舞踏会で、私がエフラム様にエスコートして頂く事も、ドレスを贈って頂く事も知られています……)

知られているどころか、マダムの店でドレスを作り、来上がった品をエフラムからプレゼントされるのである。
二人の関係を感潜らない訳がなかった。

(あわわ、どう致しましょう)

狼狽しながら、助けを求めるようにエフラムに視線を向けると、彼はにこりと微笑んで言った。

「これから、沢山出掛けようね」

その言葉を聞いた瞬間、オリヴィアは自身の身体のある部分に、強烈な違和感を感じた。

背中である。

バサリと音を立てて、オリヴィアの背中に純白の翼が出現してしまった。

「あらまぁ」と、目を丸くするマダムとは対照的に、オリヴィアは酷く狼狽する。

「あああ、最近は羽が生えてこなくて油断していました!!どうしましょう!?」

取り乱すオリヴィアを落ち着かせようと、ローズは

「オリヴィアお嬢様、お客様にお茶の用意が整ったのです。お召し上がりになって頂かないと、折角のお茶が冷めてしまいますっ」
「そうだわ!お茶が最優先よ、流石だわローズっ」

ローズに「ありがとう」とお礼を言うと、一旦深く深呼吸をしてから仕切り直した。

「お、お見苦しいところを見せてしまって、申し訳ありませんでした。すぐにお茶を入れて、ケーキを切り分けますので、私の羽の事はお気になさらないで下さいね」

気にしないでと言っても、それは無理だろう。と誰もが突っ込みを入れそうだが、一代で商会を発展させた女主人は、空気の読み方からしてプロだった。
マダムは優雅に微笑んで、了承の意を表した。

絶対にお茶が冷めないうちに、ケーキと美味しく召し上がって欲しいという、熱い思いを持つオリヴィア。
彼女の思いは『羽が鬱陶しい』という嫌悪感すら凌駕する。
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