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1章 町娘はストーリーを変える

23話

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豪華絢爛な大広間。
国や国外からの招待客達。
貴族達がワイングラスを傾け談笑する。
美味しそうな料理を囲い人々は王子と王女はまだかまだかと待っている。
そんな中に場違いな町娘である私がそっと忍び込む。

「……アカネさん私達も招待客なのですから堂々として良いのですよ?」

「えへへ、なんか落ち着かなくて」

泥棒みたいにこそこそしててらミキから苦笑いでそう言われた。

「うわっちょっと見てくださいメアリー! あの方隣の国のグランシャリオ王国の王子! エリオット・ダイアー様ですわ!」

「きゃー! セイラ目に焼き付けておきましょう!」

「ちょっとちょっとあちらもご覧なって! 騎士団団長グレン・バーミンガム様ですわ!」

「げぇっ!?」

セイラとメアリーの会話を聞いたミキはレディらしからぬ声を発した。

「……どうしたのミキ?」

「なっなんでもありませんわ! さっ私達は準備に……」

彼女が私達をぐいぐいっと彼の目が入らない所へ押し込もうとする。
その顔は何だかとても焦っているようで。

「ミキ! 来てたのか! ……おや? 彼女達はお友達かな? 初めまして! 」

そんな彼女を見つけて走って来て挨拶をする会話に上がっていた男。

「えっ? バーミンガム様とミキお知り合いで?」

「えっえぇ、まぁその……ねぇ。おほほほ」

「恥ずかしがって可愛いなぁミキは!」

そう言ってミキの頭を撫で回すバーミンガムさん。

「お父様! 皆の前でやめてください!」

「「「お父様!?」」」

ぷんぷんと怒るミキと機嫌よく笑う彼。
通りでミキがあんな指揮官みたいだったわけか。
お父さんが騎士団のトップならああいう教育も受けてるよなぁ。
……うん? でもお父さんが国に使えてるって私に協力してもいいの!?

「……お父様ご挨拶回りは? 私に構ってないで行ってきたらどうですか?」

「あっと! そうだったそうだった! それじゃミキ楽しみなさい! お友達もミキと楽しんで!」

彼は笑顔で挨拶回りに戻って行った。

「……ねっねぇ、ミキ本当に私に協力してもよかったの?」

こそこそっとミキに耳打ちすると彼女はふぅと息を吐いた。

「……何言ってますの。私は騎士の娘。悪人は見逃せませんわ。それに私達は絶対悪いことしてませんもの。友達を助けようとすることが悪だなんてお父様は言いませんわ」

「かっこいいですわ……ミキ。それはそうとこの戦いが終わったらお父様にサインを頂きたいのですが」

「ちょっと! セイラ! フラグになるような事言わないで!」

私がツッコミを入れた途端会場が暗くなりスポットライトがドアにピカっと当たった。

「グリーンウェスト王国第一王子 レオン・アルベルト様。クォーツ家の御息女レイラ・クォーツ様のご登場です拍手でお迎えください」

……ついにか。
馬鹿話をしていた私達はすぐに笑顔を消し真面目な顔でこそこそ動き出す。
ミキがハンドサインを送り制服の連中は自分の持ち場につく。
私は人混みに紛れ込み本日の主役達が見えるところに行く。

「すいません、ちょっと通りますよ」

人混みをかき分ける私。
その間に彼女達はステージに登りマイクの前に立っている。
一瞬だけ見えたレイラの顔はとても不安そうな顔をしていた。

レイラ……大丈夫待ってて私達が貴方を救うから!

「えーそれではレオン様からのお言葉です。ではレオン様どうぞ」

……始まるか。

マイクを持って話し始めるレオンを力強く睨む。

「お集まりの皆さん。今日はありがとうございます。それでは私の婚約者を紹介しましょう」

「えっレオン様? 何を仰って……」

彼の言葉に動揺する司会者。
そしてその様子を後ろでビクビクしながら見ているレイラ。
それを見て私は一歩踏み出しそうになる。

……駄目だ今動くのはまずい!
耐えろ! 彼女も耐えてるんだ!

ぎゅっと手を握り自分を抑制する。

「さぁ。入ってこい我が妃! アイリ・ハートフィールド!」

手を入場口目掛けて開き憎き転生者の名を呼ぶ彼。
その発言にザワつく会場内。
両家の親は目を点にして顔を見合わせている。

「……御機嫌よう」

美しい格好をして煌びやかなオーラを放つ彼女。
そのオーラに会場内の客は目を奪われる。

ちっ! あんなに着飾って! 本来の断罪イベントはあんたの姿は制服だったじゃないの!
私の事ストーリー変えるから気に食わないって言ってた癖に自分はなんで原作と違うことやってんのよ!
あーそうですか! 自分が良い思いするイベントは原作にあろうがなかろうがウェルカムですか! 
主人公やるならちゃんと主人公やりやがれ!

私の怒りの目線などに目もくれず彼女はレオンの傍に歩み寄る。

「私レオン・アルベルトは彼女アイリ・ハートフィールドと結婚します!」

声を張り上げてそんなことを言うバカ王子。
会場のざわつきは留まらない。

「……おい! バカ息子! 何言ってる!」

思わず飛び出てくる王様。

「聞いてくださいお父様。彼女は私にずっと尽くしてくれたのです。私が悲しんでる時は傍で暖かく寄り添って、私が困ってる時は一緒に悩んでくれました。ですが彼女はとある女に虐げられ酷い目にあってきました……」

その発言を聞いてレイラの顔はどんどん怯えていく。

……やめて。
そんな嘘。

「私は親の決めた結婚だと思い仕方なくこの結婚を決めました。ですが! その結婚相手が嫉妬という感情だけで一人の少女の幸せを奪ったのです! そんな女が国民の幸せを保証できますでしょうか!」

彼の演説を聞いて国民達のざわつきは気分の良いざわつきに変わる。
……私にとっては耳障りだけど。

「泣いてる彼女を虐げ、悪事を施したレイラ・クォーツに婚約破棄を申し上げる! そしてアイリ・ハートフィールドを妻として迎え! 彼女と共にこの国を作っていく!」

「おおお!!!」 

「きゃー! 王子様かっこいいー!」

彼が勇ましくそう言うと話を聞いてたやつらは歓声を上げる。

「そしてレイラ。貴様は我が妃を虐げ苦痛を与えた……それはこの国の不敬罪に当たることだ! よって貴様を!」

「ふざけんじゃねえええええ!! このクソバカ王子がああああああ!!」

私の叫び声に静かになる会場。
一斉に私を見つめる客人達。
その人々を掻き分け怒りをあらわにしながら王子に詰め寄った。
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