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025話 妹ですか?勇者さま。①
しおりを挟む「んっ、うーん、、お兄ちゃん…」
夢心地でうっすらと目を開ける。
暖炉によって暖められた室内だが、人間の家に比べると室温はやや低めだ。
布団に包まれた体は温かいが、外に出している頭だけは仕方ない。
吸い込む息も冷たく張りつめている気がする。
昨日、お兄ちゃんは明日は王都に向けて出発すると言っていた。
なら、、甘えられるのも後、僅かだ。
「お兄ちゃん…」
『きゅーっ』っと隣に居るお兄ちゃんを抱き締める。
「・・・今だけは独り占めしちゃうよ、お兄ちゃん♪」
フェンを抱き締めた筈のルチアだが、、、
お兄ちゃん、、長い髪、、サラサラだね♪
・・・あれっ?、、長い髪??
お兄ちゃん?・・・じゃない?、、!!
寝惚け眼に気合いを入れてちゃんと目を開けて見る。
隣にはどう見てもシオンが居る。
なーんだ。シオンちゃんか・・・良かった、、って、良くない!!
全っ、然、、良くない!
良くないどころか、ルチアにとっては大事件だ。
な、な、何でシオンちゃんが私の布団に、、同じベッドで寝てるの??
はっっ!!、、しかも私・・・裸、、、って!、、裸!?
「きゃーーーっ!!!」
知らない人が見れば可愛い姉妹が仲良く寝てるんだね♪
・・・と、思うだろうが、ルチアは知っている。
昨日、知ってしまったのだ。
・・・シオンは男の娘だと。
「な、な、な、何でシオンが私と?」
良く思い出すのよ!!
ルチアは寝起きの頭に鞭を入れる・・・昨日は、、、
本当に『夢見心地』だった。
勇気を出して、お兄ちゃんとお風呂に入った。
そして、お兄ちゃんに身体を洗われ、拭いて貰って、抱き締められて、、
幸せ過ぎて、つい、ウトウトして、お兄ちゃんに言われるがままに眠ってしまったのだ。
そのまま甘えて部屋まで抱っこして運んでもらい、ベッドに寝かしつけられたのだ。
考えただけで恥ずかしいけど、私の望むままに、お兄ちゃんは甘えさせてくれ、全て受け入れてくれたのだ。
そして、ベッドで、お兄ちゃんに「おやすみ」を言って貰って寝た筈だ。
筈だ、うん。・・・間違いないよ。
幾ら考えてもシオンが出て来た、、一緒に寝た、、という記憶が全く無いのだ。
それに、一緒に寝るなら、お兄ちゃんと一緒に・・・
なら、何でシオンが私と一緒に寝てたの?
ルチアの悲鳴を聞いてフェンも目を覚ましていた。
「おはよう、ルチア。良く眠れた?」
うっ、、、正直、それは確かに言える。『良く眠れた』と。
『ぽかぽか』と優しいぬくもりに、いつになく良く眠れたのだ。
多分、湯たんぽ?抱き枕?の代わりにシオンを抱き締めて寝ていたのだろう。
良くは眠れたよ!、、眠れたの、、、でも、、
・・・
・・・・
・・・・・『 裸 』で、なのだ。
ルチアも女の子だ。
こんな場面に出会したら悲鳴の一つも上げて当然だ。
いつの間にか、お兄ちゃんが巻いてくれたはずのタオルは無くなってるし・・・
「ルチア?」
「・・・・・」
返事が無いのでフェンはもう一度聞き直す。
「ルチア、どうしたの?」
「ひゃ、ひゃい! お兄ちゃん、、あっ!!」
「あの、これは・・・違うの!、違うの、見ないで!お兄ちゃん!」
・・・見ないでって?
シオンと、、姉妹で一緒に寝てる姿を見られるのが、そんなに恥ずかしいのかな?
フェンから見たら、ルチアとシオン…姉妹仲良く寝てる姿なんて『微笑ましい』としか思えないのだが。
恥ずかしいどころか、仲良くなってくれて嬉しく、仲の良い姉妹をもっと眺めていたい気すらする。
だが、、当のルチアはそうは思っていない。
私・・・男の子、、男の娘だけど、と、一晩を共にしちゃったの?
・・・しかも裸で・・・破廉恥よ!!
許されない事をしてしまった気がする。
しかも、お兄ちゃんに見られてしまった。、、今も私を見ているのだ。
「嫌!、、見ないで!見ないで、お兄ちゃん!」
「ルチア、そんなに大きな声を出さなくても大丈夫だよ。」
お兄ちゃんは落ち着いた様子で、何の驚きも無く大丈夫だと言う。
・・・何が『大丈夫だ』と言うの?
ルチアの、、妹の一大事なんだよ?それを・・・
ルチアの声に、シオンも目を覚ます。
そして呟く。
「お兄ちゃん・・・に、ルチア・・・」
「うん。おはよう、シオン。」
フェンはシオンにも何事も無かったかの様に普通に挨拶する。
「・・・・」
返事のないルチアに、、
「ルチア!」
シオンは言うと、、
「あ、、」
フェンが止める間も無く、ルチアにシオンが抱き付いた。
「き、きゃーーっ!!」
またルチアの悲鳴が響く。
ルチアはシオンにベッドへ組伏せられてしまう。
またシオンの大きな瞳がルチアの瞳を捉え、離さない。
「えっ?何?、何を?・・・怖い、、怖いよ、シオンちゃん!!」
ルチアは自分が捕らえられた獲物になった様な気分になり、怖くなったのだ。
それはそうだろう。
女の子が全裸で、幾ら知り合いでも、恋人でもない男性に組伏せられたら、、、
「シオン!ちょっと待って!」
と、流石にフェンが止めようとしたが、、
上からルチアを組伏せているシオンが先に言う。
「まだ・・・早い・・・もう少し・・・寝る、、の。」
言うとルチアの上で、丸まって目を閉じて眠ってしまった。
「・・・・」 フェンもルチアもシオンの思考に戸惑う。
え、、えーっと、、、これは、、止めた方がいい事なのかな?
助けを求めたルチアでさえ、何もせずに眠ってしまったシオンを乗せたまま、どうしたら良いのか判らずに目を白黒させている。
ルチアの悲鳴でフェンも起きはしたが、まだ朝も早い時間なのだ。
これから二度寝しても何の問題にもならないだろう。
ルチアが女性として感じた、、本能的に感じた様な危険は『絶対に起こらない』のは間違いない。
これは、、更に仲良くなる、、チャンス?、、なのかな??
「ルチア、まだ早いし、シオンともう一眠りしなよ♪」
「僕も、もう一眠りするからね。」
「お、お兄ちゃん、、待って、、嫌、、お兄ちゃんと一緒に・・・」
ルチアの切実な願いはフェンの優しい笑顔に却下される。
「二人が仲良くなってくれて僕も嬉しいよ♪」
「じゃあね・・・もう一度、おやすみ♪」
フェンは思う。
凄いね♪ もう一緒の布団で寝るくらい仲良くなれただなんて!
流石は二人共、僕の妹だよね♪、、、と、思っている。
・・・なんて事は無く、実は勝手にシオンがルチアの布団に潜り込んだという事をフェンは知らないのだ。
「、、、っ!!」
ルチアもフェンに『嬉しいよ♪』とまで言われては『シオンと一緒は嫌!』とは言えなくなってしまう。
ルチアは考える。
まあ、確かに既に眠ってしまったシオンなら問題無いか、、、
・・・・
・・・・・・。
!!、、いや!、いや、いや、違うよ!、、問題、有るよね?
裸の女の子の上に男の子が寝てるのよ?
幾ら男の『娘』だからって、問題よね?
何も無い、のは良い事だけども、、だけども、、だ。
・・・無かったら無いで、女の子のプライドが傷付くというか、何というか・・・
いいの?、、これで??
シオンは何の躊躇も無く、私の上で寝てるし・・・。
頼みの綱の、お兄ちゃんもベッドで目を閉じて眠ってしまっている。
『もう!何よ、二人共!!』
『私だって女の子なんだよ!!』
お兄ちゃん…ルチアは、いつまでも『お兄ちゃん』でいて欲しいというのは本心だ。
だけど、その奥底には『妹以上』に見てもらいたい、大事に思ってもらいたい、、と本当は思っている。
妹なのは嬉しいし、良いのだけれど、親密過ぎて『女性』として見てもらえないのは何だか悲しい気がする。
昨日だってルチアは、お風呂で気が遠くなりそうな緊張と羞恥心を圧し殺して、お兄ちゃんに股がったのに…。
今でさえ、思い出しただけで気が遠くなりそうな位に恥ずかしい。
あんなに頑張ったのに、お兄ちゃんが私を女の子として見てくれてないんじゃ、、、
実際にはフェンとて、裸のルチアに迫られては恥ずかしさと照れから、まともに目も合わせられなかったのだが・・・
決してルチアは今に不満が有る訳ではない。
フェンはルチアの事を『大事な妹』だと言ってくれるし、そう接してくれる。
だからこそ、、、怖い。
ルチアは怖いのだ。
自分で『妹以上』を望んだ結果、妹ですらなくなってしまったら、、、
、、、耐えられない。
お兄ちゃんがお兄ちゃんでなくなる?、、また私…『独りぼっち』になっちゃうの?
お兄ちゃんに限らず、お兄ちゃんが縁を結んだ皆が、ルチアから離れて行ってしまう?
・・・そんな気さえするのだ。
実際にはルチアの築いた関係はルチアの物であり、フェンの存在には左右されない筈だ。
だが、独りぼっちだったルチアを皆の世界に連れ出してくれたのはフェン、、お兄ちゃんなのだ。
もしそれが無くなったら、途端に足下から音を立てて今在る人間関係が崩れて行く気がするのだ。
ルチアは気持ちの中で葛藤する。
、、『妹以上に』という気持ちと『妹のままで』という気持ちで。
考えに考えた結果、今はやはり妹のままで居たいと思う。
お兄ちゃんが妹としか見てくれていないのは、きっとルチアの年齢のせいだ!、と思うのだ。
私だって、あと数年もすれば素敵な女性になる予定だ。
お兄ちゃんだって、綺麗になった私を前に、妹とは言ってられなくなるんだから!、、きっと。
それまでは『妹』として思う存分甘えられるのだから。
妹にしか出来ない事を、妹として目一杯しよう!
今は『それでいい』気がする。
それに・・・だ。
この状況、、、
私が一生懸命に悩んでいるのに、何なのよ、もぅ!
一人は私の上で『すやすや』寝てるし、、
お兄ちゃんも隣のベッドで『ぐっすり』だ。
二人共、起きたら私の気持ちなんてお構い無しに、いつも通りの二人なんだろうな。
・・・馬鹿らしい、、、。
一人だけ起きて、私…何をしているんだろう?
家族と、安心して、ゆっくり眠る。
それは掛け替えの無い時間、、、
それを無駄にするなんて、何と勿体無い事か。
・・・・
『私も寝よっと。』
一人、心の中で呟くとルチアは目を閉じた。
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