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022話 仲良くですか?勇者さま。
しおりを挟む「きゃっ!、な、なにするのよーー!! 離して!!」
部屋の中からルチアの悲鳴が、、って気のせいじゃないよね?
「ルチアどうしたの…って!?、、何で二人で喧嘩してるのさっ?」
喧嘩?、、いや、二人が取っ組み合い?
、、じゃない?…ただルチアがシオンから逃げてるの?
『まずは自己紹介からね♪』と言い含めて、話せば仲良くなってくれるだろうと、二人でお留守番させたんだけど…
帰った途端に、考えていた予定とのあまりの違いに唖然とする。
二人共、、どうしてこんな事になっちゃったの?
声を聞き、ルチアから目標を『ぱっ』っとフェンに変えたシオンが飛び付いて言う。
「だってルチアがっ!」
…えっ?、、えーっ! ルチアは開いた口が塞がらない。
『だってシオンがっ!』
、、と、叫びたいのはルチアの方なのだから。
それに何よーっ、シオン! 私からお兄ちゃんへ…変わり身早過ぎじゃない!!
フェンが帰って来るまでは、嫌がるルチアを執拗に追い掛けて来ていたのに、、
フェンの姿を見た途端、ルチアの事など忘れたかの様に見向きもしないのだ。
こうも『あっさり』と手のひらを返されては、必死に逃げ回っていたルチアも釈然としない。
何よーっ!シオン、さっきまでの威勢は何だったのよー!
『逃げ回っていた』筈なのに、今はシオンが『追い掛けて来ない』のが、何だか悔しいのだ。
ルチアは『ぷーっ』っと頬を膨らます。
ルチア?・・・ああ、シオンが急に構ってくれなくなって悔しいんだね、、
、、でも、お互い名前で呼び合う仲にはなれたみたいだし、一応は前進、したのかな?
「はい、はい!どうして喧嘩してるの?お兄ちゃんに話してごらんよ?」
「っ!・・・・」
・・・何?ルチア?、、急に赤くなって俯いちゃった・・・
えっと、、これは?
・・・あ、!、ああ、そういう事だね。
何となくだが解った。
以前、こういう場面に逢った事が有るフェンだからこそ解った。
二人に『仲良く出来るよね?』と言いつけて出掛けたのは僕なんだし。
そして部屋にはルチアとシオンの二人きり、と。
シオンが僕の『仲良くしてね♪』という言葉を守ろうとしたなら・・・
「ルチア?、シオンに、、、」
「ーーーっっ!!」
更に顔を赤くするルチア、、耳まで真っ赤だ。
どうやら予想通りみたいだね。
「えーっと、ルチア、シオンは犬人族なんだよ。」
「、、、?」
えっ?何を今更?、、シオンが犬人族だなんてルチアも分かってるよ?
フェンは続ける、、、
「ペロペロは挨拶というか、仲良くなりたいからしたんだよ、解る?」
「だからって、、あんな・・・」
こんな可愛い女の子から急に迫られたら…って、同性から迫られるなんて…。
教団は女性の割合が多いので、その手の話しも聞かなくはない。
だが知っているからと言って、まさか実際に自分が『対象』になるなんてルチアも思っていないし、考えた事も無かった。
お兄ちゃんが出掛けて少し経った頃、シオンが呟いたのだ。
「仲良くならなきゃ・・・」と。
ルチアもそれは賛成だ。
ルチアもフェンから『仲良くね♪』と言われて『はい』と返事をしたのだから、仲良くならないとなのだ。
改めて、まじまじと見ても、やはりシオンちゃんは…ルチアからしてもドキッっとする程に可愛い。
小さく細い身体に綺麗な白銀の長い髪。
キョロキョロと良く動き、表情豊かな大きな瞳。
可憐と言うか、お人形さんみたいに可愛い。
…という言葉がお似合いな人、、獣人だけど、、なんて人が実際に居るなんて初めて知った。
それにお兄ちゃんの妹だというのだから多分『いい子』に違いない、、だろう、多分。
そんなシオンと『仲良くしてね』、とお兄ちゃんに言われているのだ。
私だってやぶさかではない、、仲良くなれたら嬉しいと思う。
・・・と、普通に仲良くなれたら良いな、と思っていたのだ。
ルチアも仲良くしたいと思い、改めて自己紹介する事にした。
まずは、お互いの事を話す所からだよね?
「改めまして。シオンちゃん。私はルチアだよ。」
シオンちゃんは私の顔を『じーっ』っと見つめる。
見つめ返しながらルチアは考える。
・・・シオンちゃんは、お兄ちゃんの何なのだろう?
妹だ、とは言ってはいるがお兄ちゃんは人間だ。
獣人であるシオンちゃんと実の兄妹ではないだろう。
でも、お兄ちゃんのお父様が獣人の女性と、、なんて事だとありえるのかな?
何人もの女性と関係を?
フェンお兄ちゃんからは想像も出来ない様な人だったとか?
ルチアの想像は、と目処ない。
・・・いけない、いけない!脱線し過ぎだよね、、、
、、複数の女性と、だなんてフェンお兄ちゃんとは縁の無い話しだし。
でも、二人共お兄ちゃんの妹なんだから、、私と姉妹って事になるのよね?
シオンちゃんと姉妹?
「えへへ。」 何だか嬉しい。
ルチアからの名乗り出にシオンも返す。
「私、、シオン…仲良くしてくれる、、の?」
オドオドと話すシオンはルチアには新鮮だった。
先程のお兄ちゃんに抱き付いた、、いや、突進した勢いからは想像出来ないしおらしさだ。
シオンちゃんは人見知りしちゃうタイプなんだね♪
普段、知らない人と接する時だと、ルチアがそうなのだが、、そのポジションに今はシオンが居るのだ。
シオンを見て、初めて自分も周りの人から見ると、こんな感じなのかな?、と思えた。
いつもとは逆の立場で接する・・・不思議な気分だけど、こんな時、自分なら?
どう接して貰えたら嬉しいかな?
ルチアは自分に置き換えて考えてみる。
黙ったまま、、は駄目。
、、私も相手が黙ったままだと『何か悪かったの?』と不安になった。
私なら?、、話して欲しい。
出来る事なら、『はい、いいえ』の返事だけをすれば会話になるくらい相手が話してくれる方がルチアはいいし、助かる。
・・・と、ルチアが考えるのだから、、シオンちゃんもきっと・・・
今は私から話さなくちゃ!
「うん。シオンちゃん。仲良くしましょ、、ううん、仲良くしてね♪ お願い。」
・・・と、『お願い』した所までは良かったのだが、、
「うん。・・・仲良く・・・する!」
「うん。宜しくね、シオンちゃん。」
シオンちゃんの大きな瞳が更にルチアを『じーっ』っと見つめる。
「な、なーに?シオンちゃん?」
まじまじと誰かと見つめ合う、、なんて経験がほとんど無いルチアは、どうしてもドキドキしてしまう。
いや、私に限らず、こんなに可愛い子に見つめられたら誰だってドキドキするよね?、、きっとそうよ!
なぜ女の子同士なのに、どうしてこんなにドキドキするの?
シオンの瞳は真っ直ぐにルチアの瞳を見ている。
そして、シオンの大きな瞳に吸い込まれそうな気がして、思わず先に目を逸らしてしまった。
・・・それが良くなかったのだろう。
先に目を逸らす。
シオンの中でルチアの順位が決まった瞬間だった。
目を逸らした瞬間、シオンがルチアに飛び付いて押し倒したのだ。
「シ、シオンちゃん・・・き、急に、、ど、どうしたの?」
急な事にルチアも混乱し、そう聞く事しか出来なかった。
「ルチア・・・と、仲良く。」
シオンは、それだけ告げるとルチアに顔を寄せる。
・・・何?、、何?、、何なの、、何するの?
頭が回らない。
・・・仲良く?・・・仲良くって、そういう意味なの??
いや、そういう事って、事ではなくて、、いや、そういう事とは違うというか…
混乱している内にもシオンは更にルチアに顔を寄せる。
そして、ルチアの頬にキスする。
いや、キスと言うより、、舐めた。
『ぺろっ』
ビクッ!!・・・「きゃっ!」
何?、何でシオンちゃんはこんな事を?
「仲良く・・・」
シオンは言うと、更に顔を舐め始める。
「い、嫌っ。待って、シオン!」
言ってシオンを押し退けて離れるルチア。
だが、シオンは止めてくれない。
「仲良く・・・」
言うと、またルチアに抱き付いて来るのだ。
こんな・・・こんな事って、、
「しゃー!、ふーっ!ふーっ!」
ルチアも獣人になったつもりで威嚇の吐息を吐くが、既にシオンから順位的に下に見られてしまっていたので効果が薄い。
何度も抱き付かれては『ペロペロ』と顔を舐められてしまう。
「やっ!、止めてってば!」
・・・嫌っ、お兄ちゃん・・・助けて!!
その時、部屋の扉が開く。
「ただいまー!…って、何?、、何で二人で喧嘩してるのさ?」
・・・お兄ちゃん・・・ルチアは心底ホッとする。
お兄ちゃんが助けてくれる、と。
・・・だが、、
助けてもらう以前に、抱き付いていたシオンが自分から離れ、今度は、お兄ちゃんに抱き付いた。
なっ、、何で?
そして、シオンがフェンに言う内容に唖然とした。
「だってルチアがっ!」
えーーーーっ!!
それは無いよね?
助けて欲しいのは私だよ?
何でシオンが『助けて欲しい』みたいな話しをしちゃってるのよ!!
ルチアもフェンに訴える。
「お兄ちゃん、、シオンが、、シオンちゃんがね、、私を・・・」
顔を赤くするルチアを見て、フェンは何となく解った。
シオンが、、ね。
ルチアがミヤと同じ事をシオンにされた?、、されそうになった?…のか、大体の想像は付いたのだ。
「うん。ルチア、大変だったね。でもシオンを許してあげてね?」
えっ?、、何?・・・お兄ちゃんはシオンちゃんの味方なの?
私がこんなに大変な目に遭ったというのに、何だか納得した様な顔をしているのだ。
「お兄ちゃん!!」 ルチアは不満の声を上げる。
「待って、ルチア。僕の話を良く聞いてね。」
「シオンは犬人族なんだよ。ペロペロするのは、普通な事なんだよ。」
・・・お兄ちゃんからシオンの、、犬人族の習性について説明される。
その間も『じーっ』っとルチアを見続け、目を離さないシオン。
ビクッ!・・・お兄ちゃん、、シオンちゃん・・・やる気だよ?
お兄ちゃんの説明が終わったら…また私をペロペロする気、、満々だよ?
「お兄ちゃん・・・シオンちゃんが・・・」
怯えた様にフェンに抱き付くルチア。
「あ、そうだね。ほら、シオン!ルチア嫌がってるんだからペロペロは駄目。いいね?」
「うん♪」 即答だ。
・・・あまりに呆気ない返事に拍子抜けだった。
何??、、私へのペロペロなんて、その程度の事な訳?
まったく…シオンちゃんは『女の子』のキスを何だと思ってるのよ!
ルチアは、キスと言えば、もっと崇高な大切な物だと思っている。
・・・女の子が一大決心をしてドキドキしながらする物だと思っている。
それをシオンは、、幾ら同性だからと、躊躇いも無く、ペロペロ、ペロペロ、と。
ううっ、、思い出すだけで顔が赤くなるのが分かる。
もうっ!シオンちゃん・・・何て事するのよ!!
だけど…いざ、お兄ちゃんが止めてくれて助かった筈なのに、なぜか納得出来ない気分のルチアだった。
むーっ。今は先手を取られたけれど、今度はシオンちゃんになんか負けないんだから!
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