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015話 立場ですか?勇者さま。①
しおりを挟む「私は…大、丈、、夫、、です。」
「ルチア!!」
妹を責めている様で心が痛むが、、ルチアの為だ。
「・・・お兄、、様・・・私、、私、、、」
ルチアが心配を掛けまいとしているのは解る。
あの時と全く同じ反応なのだ。
でも、、だ。
『心配を掛けたくない』というルチアの気持ちは素直に嬉しい。
でも、その気遣いを尊重して問題を放置しては本末転倒だ。
、、この先もルチアが我慢して耐え続けなきゃだなんて…フェンの望む所ではない。
「フェン殿、、ルチアは頑張っているのです…お察し下さい。」
大司教はルチアをフォローする。
「ルチアが頑張っているのは分かります!教団はこの上、まだルチアに頑張れと言うのですか?」
「その『頑張り』は教団の仕事に則す事、絶対に必要な事なのですか?」
フェンも、教団の他の神官さん達も我慢して頑張っている事までさせたくない訳ではない。
だが、、だ。
頑張り屋のルチアが皆と同じ仕事が辛いからと表情を曇らせたりするだろうか?
「仕事に起因しない事を我慢する事が『頑張る事』だと言うなら僕はルチアに頑張れとは言いません!」
フェンの言葉に苦しい顔を見せる大司教が言う。
「ルチアは確かに他の神官とは、あまり上手く行ってはおりません。」
やっぱり、、、
「ただ、それでも頑張っておるのです…少しづつですが打ち解けて来ているのです。」
「しかし、前からルチアを知っている者達、特に先輩神官達の中にも面白くないと思う者も居るのです。」
「なぜ?」
「それは、、、」
少し躊躇して大司教は口を開く・・・
「問題の多かったルチアが、急に『ファリス様の孫』になって、その上、『大司教の補佐』の地位になったのです。」
「少なからず『嫉妬』が起こるのは仕方の無い、分かりきった事なのです。」
「ルチアの言葉には誤りが有るかもしれませんが、その頑張りには嘘偽りは無いのです。」
「そのルチアに『なぜ嘘を・・・』なんて言わないで欲しいのです。」
「ルチアは頑張っています。その事は大司教の私が保証致します。」
「ルチア、、」
フェンはルチアを見る…その表情からは嫌われたくないという気持ちが伝わって来る。
・・・逆、、だよね?
ルチアが僕を嫌っても、、恨んでもおかしくないはずなのだ。
ルチアの為にと思ってフェンはファリス、、祖母にお願いしたのだ…『妹のルチアをお願い』、と。
だが、そのせいで教団内でのルチアへの風当たりが強くなっただなんて…
ルチアの為に…と言いながら、結果的にはルチアの立場を悪くしてしまったのではないか?
ルチアが自分で手に入れた居場所…ファリス教団の神官という居場所まで危うくしてしまったのでは?
「ルチア、教えて欲しい事があるんだ。」
ルチアは『じぃーっ』とフェンを見つめながら『コクリ』と頷く。
「ルチアが頑張り屋さんなのは分かるし、頑張っても良いんだよ。」
「うん。」
「でも、無理しちゃ駄目・・・解る?」
「・・・・」
「ルチア、ルチアは今、無理してない?、、苦しくない?」
「・・・・」
話そうとして口は動くが言葉にはならず俯いてしまう。
フェンは優しく問い掛ける。
「ルチア、、教えてよ。ルチアは、、、大丈夫なの?」
優しい言葉にルチアの瞳から大粒の涙が流れ、フェンの胸に飛び込む。
「お兄ちゃん…みんな…みんなが…ルチアの事を…」
、、抑え込んだ感情が溢れだした様だった。
「うん。そうだね、ルチア。大丈夫だよ。ルチアの事はお兄ちゃんが解ってるからね。」
抱き締めながら頭を撫でる。
何が『そうなのか』など関係無い、、ルチア自身を認めてあげるだけだ。
「うん、うん。お兄ちゃん・・・」
ルチアも『何が解ってるの?』とは問い返さない。
内容ではなく『お兄ちゃんが受け入れてくれた事』で安心し、そして嬉しかったのだ。
大丈夫だよ。、、と、フェンは本心から言っている。
・・・だがそれは、現実には、口からの出任せでしかない。
『大丈夫』なのはフェンがルチアの事を解ってあげている事だけなのだ。
物理的な何かが有れば護る自信はある。
だが、フェンには不可能な、、何とか出来ない事も在る。
それは、人の気持ち、、人間関係の問題だ。
仮に、力ずくで『仲良く』させても本当には仲良くなったり出来ない事は流石のフェンでも分かっている。
フェンが幾らルチアを理解して信じてあけげたとしても…、、
教団の他の神官様達がルチアの事を解ってくれる訳でもなく、友好的になってくれる訳でもないのだ。
もし、フェンが今、『ルチア、一緒に来る?』と言ってあげたら、、ルチアはどんなに喜ぶだろうか?
だが、・・・駄目だ。
ルチアが自分で努力し、手に入れた神官の地位は大切な物なのだ。
簡単に棄てて良い物では決してないのだ。
「ルチア、ルチアの今まで経験した事は嘘や偽物じゃない、、本物だよ。」
「僕と出会った事や、色々有った事も。」
「うん。」
「でも、それは同時に、良い事ばかりじゃなくて悪い思い出、嫌な思い出も本物なんだよ。」
「それはルチアだけじゃない。周りの人、、他の神官さん達も皆、同じなんだよ。」
「ルチアも解ってるよね? 今まで先輩の神官さん達に沢山迷惑掛けたな、って。」
「うん。」
「ルチア、ルチアが頑張ってる事は周りの皆も分かってるんだよ。」
「でも『今、頑張ってるんだから、昔の事は関係無い』とはならないんだよ。」
「・・・私・・・ずっと許して貰えない・・・の?」
ルチアの表情が沈む・・・
「違うよ、ルチア。皆、ルチアの事を『許したい』と思ってるんだよ。」
「だって元々ルチアは故意に皆に迷惑を掛けた訳じゃないんだから。」
「ルチアが今、頑張ってる姿を見て『信頼してくれた人』から許してくれるんだよ。」
「いつ許してくれるか…それは人によって違うから焦っちゃ駄目だよ。」
「大丈夫。ルチアなら普段通りにしていれば、皆、解ってくれるよ。」
「きっと大丈夫。だってルチアは僕の妹なんだからね。」
「うん。私・・・頑張る。」
「うん。良い子だね、ルチア。」
頭を撫でるとルチアは一層強く抱き付いてくる、、でも、、震えてるの?
『大丈夫』と、言葉で言うのは簡単なのだ。理解も出来る。
だが、問題は、、相手が居る話しなのだ。
気持ちの話し・・・形の無い話しなのだ。簡単ではない。
しかも、いつ許してくれるのか?
それは、、終わりの見えない話しなのだ。
不安にもなる・・・。
もし、、『永遠に許してくれなかったら?』との不安は決して消えはしないのだ。
報われない努力を永遠に続けられる程、人は強くは創られていない。
その為には、、、
「ルチア、頑張ってね。…でも、、、」
「・・・・」
「もし、どうしても駄目なら、僕の所に何時でも来て良いんだからね。」
「その時は、お兄ちゃんと一緒に暮らそう。」
「えっ?!、、、」
「ルチアが疲れちゃって、どうにもならなくなったら僕の家へおいでよ。」
「ルチアなら何時でも大歓迎だよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもね♪」
「うん。、、うん。」
・・・人は、、強くない。
大丈夫、と分かっていても逃げ道が欲しい、、逃げる場所が必要なのだ。
それが不確かな未来、、事柄なら尚更だ。
誰もが、逃げる場所、帰る場所が在るから、勇気を持って頑張れるのだ。
もし志半ばで倒れるとしても、自分の居場所が在るという事実だけで、安心して倒れられるのだから。
また、倒れる所まで全力を尽くして頑張ろうという気にもなれるのだ。
もし仮に…ルチアが『それ程までに頑張っても受け入れられない』のだとしたなら、、
、、それは、そこがルチアの 『 居場所ではなかった 』 という事だ。
その時は・・・逃げてもいい。
僕は逃げても許してあげる。
僕と一緒に暮らせばいい。
家には皆が…シズもミヤもミオンも居る…ルチアも寂しくないだろう。
僕がルチアにしてあげられるのは、、、
安心して頑張れる様に、、
安心して逃げられる場所、、椅子を用意してあげる事くらいだ。
その為には・・・
・・・ルチアが頑張る様に僕も頑張らなきゃだよね。
ルチアに言った手前、フェンも何時までも王国からの『お尋ね者』で居る訳にはいかない。
兄として、ルチアの逃げる場所、、帰る場所を作らなければならないのだから。
ここで派兵された兵士達を撃退し続けた所で何の解決にもならないだろう。
やはり国王にお目通りを願い、ミヤと僕の潔白を伝えるのが一番だと思う。
ガルンさんの町の事、、獣人さん達の事、他種族の人達の事についても話したいと思っていた所なのだ。
その為には…王都へ。
「ガルンさん。この二人は王国からの使者で、ファリス教団の神官さんなんだ。話を聞いてあげて下さい。」
「王国からの使者だと!、、攻め込んでおいて何が『話を』だ!」
鎧・・・獣王がルチアの方を向く。
『ビクッ』 ルチアが飛び上がる。
「あ、、あ、、、」
「大丈夫だよ、ルチア。こう見えてガルンさんは優しいんだよ?」
嘘!・・・とても私には、そうとは思えない。
真っ黒なフルプレートの鎧の塊、、、
、、専用の鎧を装着した獣王を見て『優しい』なんて感想を言う人の目は、どうかしている…!!
ううん、違うよ!お兄ちゃんの目を疑ってる訳じゃないんだよ!…でも、、
ルチアは心の中で慌てて言い訳をする。
だが…見た目の禍々しさから言えば『獣王』よりも『 魔王 』と言った方がしっくりくるのは事実だ。
そして、その身から放たれる気勢が獣王の『危険さ』を伝えている。
「・・・ひっ、、くっ、、」
ルチアは恐がってフェンの後ろに隠れてしがみついたまま、また泣き出して震えてしまっている。
・・・仕方ないか、、まあ、恐いよね、、普通。
「大司教様!・・・出番ですよ。」
「えっ!私が?!」
急にお鉢を回されて『なぜ?』と言わんばかりの大司教様、、、って、おい!
「私が?!…じゃないでしょう。ルチアは御付きの従者で、正式な使者は大司教様じゃないですか!」
「そ、それは、そう…なんだが…」
『チラッ』っと獣王を見る大司教。
『うっ』・・・うん、極、普通な反応だね。
いい大人の大司教でも恐いのだ。
ルチアに『恐がらないで交渉して。』、、なんて酷な話しだったのだ。
だが、意外にも大司教さんの方は勇気を見せる。
ファリス教団の看板を背負っているという自負からなのか、ルチアに情けない所を見せたくない、との見栄からなのか…
「わ、私はファリス教団、大司教だ!」
「だから何だ?、、ワシは獣王。今、お前達は、この獣王の手中に在る。」
「お前の言葉、行動一つで、王国・・・人間の運命が決まると思え!」
・・・国の?、、人間の?・・・運命?!
、、は、話が大き過ぎる・・・。
依頼されて来ただけの者には重すぎる言葉だ。
獣王は私の言葉一つで人間の運命が決まる、と言っているのだ。
…正直、獣王が何に喜び、何に怒るのか、、なんて大司教は想像すら出来ない。
「で、大司教・・・用件はなんだ?」
・・・言える訳が無い!
この獣王に向かって、、
『ここは王国の土地だから出て行け!』
とか、
『王国の兵士を殺した償いをしろ!』
なんて・・・。
言ったと同時に命が無くなるに違いない。
、、、言えない。
言えそうな事は、、
獣王の希望や要望を聞き出してくる件。
問題を起こさぬ様に一言一句違わずに、王様が仰った通り伝えるだけだ。
「獣王様、獣王様のお望みは何なのでしょう?」
「お聞かせ願えれば、不可能な事でなければ叶う事でしょう。」
「何?・・・願いを叶えるだと?」
あ、これは!・・・獣王だけでなく、フェンも反応する。
・・・もしかして獣王さんが、『他種族の地位の確立』を求めれば・・・
・・・可能なの・・・か?
ミヤの希望でもある他種族、獣人達の地位向上が、、、
「はい。王はこう仰っていました。」
「希望や要望をお教え願えれば、国王様が出来うる限り叶えてやろう、との事です。」
!!・・・何を?フェンは耳を疑う。
そして獣王、、ガルンさんを恐る恐る、、見る。
みるみる立ち上がる怒気、、当然だ。
「叶えてやろうだと?」
「良い、良い。良く解かった。王国の真意は、、な。」
「王国からの申し入れは、謹んで辞退させて貰おう。」
「何より、国王陛下をわざわざ煩わせては申し訳ないだろう。」
「フッフッフッ・・・」
陽気な笑い声を上げる獣王。
だが、逆に気配は恐ろしい怒気を孕んでいた。
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