35 / 64
23.沈む月③
しおりを挟む
「…………」
完全に言葉を失ってしまった幼馴染を見て、ブルームは懸命に思い出そうとした。
ソルフィオーラとの婚姻に関係しているのならこの三ヶ月以内のことだろう。自分が記憶している限りのことを振り返り、ノクスの言っている手紙を探す。
(……手紙……手紙……────ああ、そういえば)
ノクスのお節介により起きた奇跡。
使者が婚姻の承諾の返事を持って帰って来てから一月後程経った頃のことだ。
結婚式の日取りについて了承の旨と、娘をよろしく頼みますと父親の言葉が綴られた手紙が届いた。
父親とはもちろんソルフィオーラの────。
「……伯爵からの手紙には、ちゃんと目を通し返事も出したはずだが」
「……本当に?」
「…………」
正直あの頃はソルフィオーラとの結婚に浮かれていた自覚はある。それを表に出すまいと必死に耐えたが。
ブルームは腕を組み、指をとんとんとリズミカルに動かす。目を閉じたところに、手紙が届いた日の記憶が蘇る。
その日は役所で仕事をして、夕方過ぎに帰宅した。
いつも通り恭しく出迎えたノクスを伴い私室へ、そこで手紙を受け取った。
封蝋はフランベルグ家の紋章だった。その場で開封し読んで──綴られた愛娘への愛情にじーんと胸を打たれたのを覚えている。
それから、感動的な一枚の手紙に────見せびらかすなど本当はよくないが、ノクスにお前も読むと良いなんて言って、渡して。
「────待って。手紙は、二枚……だったよ?」
復習のために思い出した記憶を言葉にしていたブルームだったが、我に返ったノクスから不意に遮られてしまった。
言葉を取り戻したノクスにブルームは眉を寄せる。────二枚?
「…………は?」
「…………二枚、重ねられていたでしょう……?」
「重ねられ……?」
「…………」
「…………」
今度は二人して言葉を失った。
確かに、思い返してみると、一枚にしては厚めの紙だとは思っていた。
だが、フランベルグ家は商家であるし、自分の知らない上質な紙をお持ちなのだろうと特に疑問に思わなかったのだ。
手紙を読んだノクスとの会話も特にすれ違っていなかった────。
『これは……本当に心温まる手紙だね。当主サニーズ様のお人柄の良さをとても感じる』
『ああ……そうだな』
『そんなサニーズ様のご家族なのだから、さぞ素晴らしい人なのでしょう。僕も早く会ってみたいよ』
いや、すれ違っていた。すれ違っていたのだ。
ノクスが言う家族とは、当然ソルフィオーラの事だとブルームは思っていた。一枚目の手紙には太陽だと表される美しい愛娘の素晴らしさを大いに語っていたから。
だが、ブルームが読んでいない二枚目にエルの事情が書かれていたのだとしたら、あの時ノクスが言っていた家族はエルを指していたのかもしれない。
手紙を読んだノクスが家族と形容したということは、サニーズにとってエルは娘同等の存在であるということになる。
「教えてくれないか、ノクス……。あの手紙の続きには、……何て、書いてあったのだ……?」
そしてブルームはようやく知った。
エルの事情を。ソルフィオーラと彼女の絆を。
────手紙をちゃんと読んでいなかったがために自分がしていた誤解を。
完全に言葉を失ってしまった幼馴染を見て、ブルームは懸命に思い出そうとした。
ソルフィオーラとの婚姻に関係しているのならこの三ヶ月以内のことだろう。自分が記憶している限りのことを振り返り、ノクスの言っている手紙を探す。
(……手紙……手紙……────ああ、そういえば)
ノクスのお節介により起きた奇跡。
使者が婚姻の承諾の返事を持って帰って来てから一月後程経った頃のことだ。
結婚式の日取りについて了承の旨と、娘をよろしく頼みますと父親の言葉が綴られた手紙が届いた。
父親とはもちろんソルフィオーラの────。
「……伯爵からの手紙には、ちゃんと目を通し返事も出したはずだが」
「……本当に?」
「…………」
正直あの頃はソルフィオーラとの結婚に浮かれていた自覚はある。それを表に出すまいと必死に耐えたが。
ブルームは腕を組み、指をとんとんとリズミカルに動かす。目を閉じたところに、手紙が届いた日の記憶が蘇る。
その日は役所で仕事をして、夕方過ぎに帰宅した。
いつも通り恭しく出迎えたノクスを伴い私室へ、そこで手紙を受け取った。
封蝋はフランベルグ家の紋章だった。その場で開封し読んで──綴られた愛娘への愛情にじーんと胸を打たれたのを覚えている。
それから、感動的な一枚の手紙に────見せびらかすなど本当はよくないが、ノクスにお前も読むと良いなんて言って、渡して。
「────待って。手紙は、二枚……だったよ?」
復習のために思い出した記憶を言葉にしていたブルームだったが、我に返ったノクスから不意に遮られてしまった。
言葉を取り戻したノクスにブルームは眉を寄せる。────二枚?
「…………は?」
「…………二枚、重ねられていたでしょう……?」
「重ねられ……?」
「…………」
「…………」
今度は二人して言葉を失った。
確かに、思い返してみると、一枚にしては厚めの紙だとは思っていた。
だが、フランベルグ家は商家であるし、自分の知らない上質な紙をお持ちなのだろうと特に疑問に思わなかったのだ。
手紙を読んだノクスとの会話も特にすれ違っていなかった────。
『これは……本当に心温まる手紙だね。当主サニーズ様のお人柄の良さをとても感じる』
『ああ……そうだな』
『そんなサニーズ様のご家族なのだから、さぞ素晴らしい人なのでしょう。僕も早く会ってみたいよ』
いや、すれ違っていた。すれ違っていたのだ。
ノクスが言う家族とは、当然ソルフィオーラの事だとブルームは思っていた。一枚目の手紙には太陽だと表される美しい愛娘の素晴らしさを大いに語っていたから。
だが、ブルームが読んでいない二枚目にエルの事情が書かれていたのだとしたら、あの時ノクスが言っていた家族はエルを指していたのかもしれない。
手紙を読んだノクスが家族と形容したということは、サニーズにとってエルは娘同等の存在であるということになる。
「教えてくれないか、ノクス……。あの手紙の続きには、……何て、書いてあったのだ……?」
そしてブルームはようやく知った。
エルの事情を。ソルフィオーラと彼女の絆を。
────手紙をちゃんと読んでいなかったがために自分がしていた誤解を。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
ギャル乙女!! 処女ビッチたちの好奇心
ブラックウォーター
恋愛
ごく普通の男子学生千川治明。
そんな彼にどういうわけかある特殊能力。
それは、女の子の"経験"がわかる力。
教室で猥談に興じるギャルたちが、実は処女ビッチであるのを知るのは恐らく彼だけ。
それ以上でも以下でもない。
そのはずだった。
ある日、ひょんなことからクラスメイトのギャル、高宮椿姫に能力のことを知られてしまう。
「あたしが処女なの誰かに言ったらぬっ殺す!」
是が非でも処女ビッチであることを隠したい椿姫と、監視という名目で付き合うふりをすることに。
その後もなぜか処女ビッチたちが成り行きで寄って来て...。
実は乙女なギャルたちとのハーレムコメディ?
多少の路線変更の予定につき、少し改題いたしました。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
そんな恋もありかなって。
あさの紅茶
恋愛
◆三浦杏奈 28◆
建築士
×
◆横山広人 35◆
クリエイティブプロデューサー
大失恋をして自分の家が経営する会社に戻った杏奈に待ち受けていたのは、なんとお見合い話だった。
恋っていうのは盲目でそして残酷で。
前の恋で散々意地悪した性格の悪い杏奈のもとに現れたお見合い相手は、超がつくほどの真面目な優男だった。
いや、人はそれをヘタレと呼ぶのかも。
**********
このお話は【小さなパン屋の恋物語】のスピンオフになります。読んでなくても大丈夫ですが、先にそちらを読むとより一層楽しめちゃうかもです♪
このお話は他のサイトにも掲載しています。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる