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成長
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「アイちゃん、ご飯にしよ」
「おっ、いいねえ」
アイちゃんが目を輝かせている。
「今日のおかずは何かね?ナナセくん」
「ピーマンの肉詰め」
ピーマンと聞いて、若干テンションが下がっているのが分かった。
2人で暮らし始めて、もう3年になる。
アイちゃんは俗に言う「天才児」と言うやつだ。
まだ15歳だが、薬学に精通し海外の大学を卒業している。
私は大学で彼女と出会い、現在はアイちゃんの同居人兼助手として、身の回りの世話をしている。
「ほらほら、好き嫌いすると大きくなれないよ」
輝かしい経歴と明晰な頭脳のためか、アイちゃんは「大人」という立場に憧れている。
やけに芝居掛かった口調も、「大人びて見えるから」始めたものだ。
「…もう大きいから問題ないね」
「そっか~じゃあ食べれるんじゃないかな」
私はそんなアイちゃんがかわいくて仕方ない。
つい、からかいたくなるのだ。
「フン、明日を楽しみにしておきたまえよ?」
食事を済ませたアイちゃんは謎のセリフを残し、1人ラボに戻ってしまった。
皿を見ると、ちゃんと完食していた。
えらいえらい。
寝る前にラボを確認する。
念のため声をかけたが、返事はなかった。
まあ、アイちゃんは集中してると周りの音聞こえなくなっちゃうし。
夜食のおにぎりを用意して、部屋に戻った。
翌朝。
自室で身支度を済ませた頃、ラボからアイちゃんの声が聞こえた。
「ナナセくーん、早く来ておくれよ~」
声だけでウキウキが伝わってくる。
そんな時は大抵、碌なことがないのだが…
「はいはい来ましたよー…あれ?」
「えーと、その」
「どちら様ですかね?」
ラボに入ると、見たこともないような美人が座っていた。
「何言ってるんだい?私だよ私!」
「アイちゃんのお顔を忘れたかね?」
そう言いながら自分の顔を指さす。
信じられない出来事に放心していると、
アイちゃん?は長い足を組み、胸ポケットから錠剤を取り出した。
それを見て、私はようやく合点がいったのだった。
「効き目は絶大だねえ」
「これぞ[GTGU89-B32N]の効果!どうだいこの姿?」
つらつらと話していた話をまとめると、
この錠剤…[GTGU89-B32N]という薬は、服用後一時的に成長が進むらしい。
効果が切れた後は元に戻るそうだ。
それにしても、成長したアイちゃんは本当に美人だった。
長くスラリとした手足。
高い身長。
整った顔つき。
特に顔は真っ直ぐ見られないほどだった。
この日のアイちゃんは、何かあるたびに私の方を見てドヤ顔してきた。
「ワタシってばもう大人だからね!」とも言っていた。
アイちゃんの顔の良さにドギマギしている私の様子を見て、さぞ溜飲を下げたことだろう。
翌日。
ラボに行くと、まだアイちゃんはいなかった。
寝坊か…と思いつつ、部屋に向かう。
ドアをノックし、部屋に入った。
アイちゃんはまだベッドにいて、頭まで布団を被っている。何度か呼びかけた時。
「うーんまだ眠いよお」
「4時に起きちゃって…そのあと寝れてないんだから…」
妙にガラガラ声なのが気になったが、クーラーをつけたまま寝たからだろう。
昨日は暑かったし。
「アイちゃーん、もういい大人なんでしょー」
「自分で起きなきゃだよー」
頭まで被っている布団を剥がす。
「…あれ?」
「もー…眩しいよぅナナセくん…」
突然のことに頭が追いつかなかった。
「えーと…その…」
「どちら様ですかね…?」
目の前にいたのは、見たことのない老婆だった。
「何言ってるんだい、ワタシだよワタシ…」
「アイちゃんの顔を忘れたかね…」
自分を指さす手を見て、異変に気づいたようだ。
「…あー、うん」
「おはよう…」
「んーこれは…やっちゃったねえ」
鏡を見ながら、白くなった髪や顔のシワを確認している。
しばらくシワをなぞったり、頬っぺたを伸ばしたりしていた。
すると次第に面白くなったのか、髪型を整えたり、キメ顔を作ったりして遊びはじめた。
「意外と白髪も似合うねえ…」というつぶやきが聞こえる。
「まーこんなに薬効が続くのは想定外だが」
「しっかり成長はできたし成功だね!」
「『成長』というより『老化』な気がするけどね。いいか別に」
側から見ると失敗っぽいが、本人は喜んでるし。
「それにしても、効き目が長いね」
「このまま長引くとやばいんじゃない?老衰とか」
何気なくそう言った瞬間、アイちゃんはピタリと動きを止めた。
嫌な沈黙が流れる。
「…どうしようナナセくん」
「なんか昨日のお昼ご飯が思い出せないよ…」
「…」
「作りましょう、解毒剤。今すぐ」
引きつった笑顔のまま、アイちゃんもコクコクとうなづく。
こうして、解毒剤の開発が始まった。
3時間後。
「疲れたねえナナセくん」
「そろそろご飯にしようか」
「そのノリでもう4回は食わされてるんだよ…サンドイッチを」
そもそもこの会話自体7回目だ。
「おやおや、若い子は食欲旺盛だねえ」
「年取ってから食が細くなっちゃって…」
「アイちゃんの方が私より若いんだけどね?」
これはまずい。
1時間くらい前から、本物の老人みたいなことを言うようになってきた。
このままでは、私のかわいいアイちゃんが本物のおばあちゃんになってしまう。
それだけは避けねば。
「よーし完成」
そんなことを考えているうちに、調合が終わったようだ。
さすが、老いていても天才。
後はこれを飲むだけだ。
「じゃあワタシ、疲れたから寝るよ」
「ちょっ、待って、先飲んでこれ」
「飲んだら寝ていいから」
お疲れーと言って、部屋に戻ろうとするアイちゃんを捕まえて、薬を飲ませた。
その日は念のため、ずっとアイちゃんの部屋にいた。
少しずつ老化は改善している。
途中でしばらく寝てしまったが、起きた頃には元の15歳の体に戻っていた。
朝。
ご飯を作っていると、アイちゃんが起きてきた。
若い時の事はともかく、老化が進んでいた時のことはあまり覚えていないらしい。
こっそり撮った写真を見せてやると、少し恥ずかしそうにしていた。
トーストを食べているアイちゃんを眺めていると、コップの牛乳がもう無くなりそうだということに気づいた。
冷蔵庫に取りに行く途中、アイちゃんの頭をポンと叩く。
「ゆっくり育てば良いんだから」
完
「おっ、いいねえ」
アイちゃんが目を輝かせている。
「今日のおかずは何かね?ナナセくん」
「ピーマンの肉詰め」
ピーマンと聞いて、若干テンションが下がっているのが分かった。
2人で暮らし始めて、もう3年になる。
アイちゃんは俗に言う「天才児」と言うやつだ。
まだ15歳だが、薬学に精通し海外の大学を卒業している。
私は大学で彼女と出会い、現在はアイちゃんの同居人兼助手として、身の回りの世話をしている。
「ほらほら、好き嫌いすると大きくなれないよ」
輝かしい経歴と明晰な頭脳のためか、アイちゃんは「大人」という立場に憧れている。
やけに芝居掛かった口調も、「大人びて見えるから」始めたものだ。
「…もう大きいから問題ないね」
「そっか~じゃあ食べれるんじゃないかな」
私はそんなアイちゃんがかわいくて仕方ない。
つい、からかいたくなるのだ。
「フン、明日を楽しみにしておきたまえよ?」
食事を済ませたアイちゃんは謎のセリフを残し、1人ラボに戻ってしまった。
皿を見ると、ちゃんと完食していた。
えらいえらい。
寝る前にラボを確認する。
念のため声をかけたが、返事はなかった。
まあ、アイちゃんは集中してると周りの音聞こえなくなっちゃうし。
夜食のおにぎりを用意して、部屋に戻った。
翌朝。
自室で身支度を済ませた頃、ラボからアイちゃんの声が聞こえた。
「ナナセくーん、早く来ておくれよ~」
声だけでウキウキが伝わってくる。
そんな時は大抵、碌なことがないのだが…
「はいはい来ましたよー…あれ?」
「えーと、その」
「どちら様ですかね?」
ラボに入ると、見たこともないような美人が座っていた。
「何言ってるんだい?私だよ私!」
「アイちゃんのお顔を忘れたかね?」
そう言いながら自分の顔を指さす。
信じられない出来事に放心していると、
アイちゃん?は長い足を組み、胸ポケットから錠剤を取り出した。
それを見て、私はようやく合点がいったのだった。
「効き目は絶大だねえ」
「これぞ[GTGU89-B32N]の効果!どうだいこの姿?」
つらつらと話していた話をまとめると、
この錠剤…[GTGU89-B32N]という薬は、服用後一時的に成長が進むらしい。
効果が切れた後は元に戻るそうだ。
それにしても、成長したアイちゃんは本当に美人だった。
長くスラリとした手足。
高い身長。
整った顔つき。
特に顔は真っ直ぐ見られないほどだった。
この日のアイちゃんは、何かあるたびに私の方を見てドヤ顔してきた。
「ワタシってばもう大人だからね!」とも言っていた。
アイちゃんの顔の良さにドギマギしている私の様子を見て、さぞ溜飲を下げたことだろう。
翌日。
ラボに行くと、まだアイちゃんはいなかった。
寝坊か…と思いつつ、部屋に向かう。
ドアをノックし、部屋に入った。
アイちゃんはまだベッドにいて、頭まで布団を被っている。何度か呼びかけた時。
「うーんまだ眠いよお」
「4時に起きちゃって…そのあと寝れてないんだから…」
妙にガラガラ声なのが気になったが、クーラーをつけたまま寝たからだろう。
昨日は暑かったし。
「アイちゃーん、もういい大人なんでしょー」
「自分で起きなきゃだよー」
頭まで被っている布団を剥がす。
「…あれ?」
「もー…眩しいよぅナナセくん…」
突然のことに頭が追いつかなかった。
「えーと…その…」
「どちら様ですかね…?」
目の前にいたのは、見たことのない老婆だった。
「何言ってるんだい、ワタシだよワタシ…」
「アイちゃんの顔を忘れたかね…」
自分を指さす手を見て、異変に気づいたようだ。
「…あー、うん」
「おはよう…」
「んーこれは…やっちゃったねえ」
鏡を見ながら、白くなった髪や顔のシワを確認している。
しばらくシワをなぞったり、頬っぺたを伸ばしたりしていた。
すると次第に面白くなったのか、髪型を整えたり、キメ顔を作ったりして遊びはじめた。
「意外と白髪も似合うねえ…」というつぶやきが聞こえる。
「まーこんなに薬効が続くのは想定外だが」
「しっかり成長はできたし成功だね!」
「『成長』というより『老化』な気がするけどね。いいか別に」
側から見ると失敗っぽいが、本人は喜んでるし。
「それにしても、効き目が長いね」
「このまま長引くとやばいんじゃない?老衰とか」
何気なくそう言った瞬間、アイちゃんはピタリと動きを止めた。
嫌な沈黙が流れる。
「…どうしようナナセくん」
「なんか昨日のお昼ご飯が思い出せないよ…」
「…」
「作りましょう、解毒剤。今すぐ」
引きつった笑顔のまま、アイちゃんもコクコクとうなづく。
こうして、解毒剤の開発が始まった。
3時間後。
「疲れたねえナナセくん」
「そろそろご飯にしようか」
「そのノリでもう4回は食わされてるんだよ…サンドイッチを」
そもそもこの会話自体7回目だ。
「おやおや、若い子は食欲旺盛だねえ」
「年取ってから食が細くなっちゃって…」
「アイちゃんの方が私より若いんだけどね?」
これはまずい。
1時間くらい前から、本物の老人みたいなことを言うようになってきた。
このままでは、私のかわいいアイちゃんが本物のおばあちゃんになってしまう。
それだけは避けねば。
「よーし完成」
そんなことを考えているうちに、調合が終わったようだ。
さすが、老いていても天才。
後はこれを飲むだけだ。
「じゃあワタシ、疲れたから寝るよ」
「ちょっ、待って、先飲んでこれ」
「飲んだら寝ていいから」
お疲れーと言って、部屋に戻ろうとするアイちゃんを捕まえて、薬を飲ませた。
その日は念のため、ずっとアイちゃんの部屋にいた。
少しずつ老化は改善している。
途中でしばらく寝てしまったが、起きた頃には元の15歳の体に戻っていた。
朝。
ご飯を作っていると、アイちゃんが起きてきた。
若い時の事はともかく、老化が進んでいた時のことはあまり覚えていないらしい。
こっそり撮った写真を見せてやると、少し恥ずかしそうにしていた。
トーストを食べているアイちゃんを眺めていると、コップの牛乳がもう無くなりそうだということに気づいた。
冷蔵庫に取りに行く途中、アイちゃんの頭をポンと叩く。
「ゆっくり育てば良いんだから」
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