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一話

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 夜のイヤザザ地区を大きな獣の影が走る。
影は迷う事無く街の出口へ、その先にある森を目指していた。
途中すれ違う旧友に目もくれず、立ち止まる事もなく、影はただひた走る。

「ん?なんや今の?ジャイマーか?」

「…そのようだな」

夜の街で休暇を楽しんでいたポッツとチュラーが一瞬すれ違う影に気がつく。
常人であれば風が吹いただけ、その程度しかわからないほどだが、世界の為に戦い、鍛え、そして救った2人は違う。
ましてや旧友の姿など見間違う筈がないのだ。

「こんな時間にどこ行くんや?あっちは森の方向やろ」

「……まぁ、いいじゃないか。朝にはイヤザザ地区に戻っているようだ。ジャイマーにも色々あるんだろう」

「ふーん?…せやな!!なーなー!これからどこ行く?歌酒場行かへん?朝まで歌いまくろうや!」
「…望むところだ」

チュラーは振り返り、ジャイマーの消えた方向を見、顔をしかめたが溜息と共に「早よ行こやー」と数歩先を楽しそうに歩くポッツの方へと向き直ったのだった。


ーーーーー

《anythingスピンオフ作品》

         ~close friend~

※現実にあった事をファンタジーに混ぜ込んだフィクションです。
※anything本編一章その後二章までの間としてお楽しみください。(読んでない方は本編一章の後に読んでください)
※書いてる人が違いますので多少の設定のズレ等があるかもしれません。ご容赦ください。

ーーーーー


 朝日が昇って、街の中央にある小さな広場から美しい歌声が響く。

イヤザザ地区の歌姫達、コーナーズが次のステージへ向けて歌の練習をはじめたのだ。

朝の柔らかな日差しと、鳥のさえずり、そして美しいハーモニーを奏でる3人の歌声は平和を取り戻したイヤザザ地区の朝の名物でもある。
この歌声を聴く為に早起きをして広場に集まる人々も多いが、今日は珍しく人が少ない。

「あっ」

リンレの歌声がぴたりと止まる。

「どうしたの?」

アキーチャも続けて歌を止める。

「あ…。ジャイマーね」

リファーも気がつき、歌を中断する。

広場の隅の木の側に、朝日に照らされたオレンジの体躯がそっと横になる様子をリンレはじっと見ていた。

「ジャイマー!そこ聴こえる?もっと近くにおいでよ!」

リンレが促すが、ジャイマーはゆっくり首を振って、気にしないで歌を続けて、とでも言うように落ち着いた様子で重ねた前脚に顎を乗せた。

「じゃあ、あそこまでよーく聴こえるように少し声量上げて歌うよ~!」

リンレは張り切って、せーのっ!と、歌を再開した。アキーチャ、リファーも続いて、美しい歌声が広場全体に響く。

全ての曲を歌い終えて、

「今日はこんなもんかしらね」

とリファーが呟いた時、拍手と共に人影が現れた。

「今日は一段と張り切っていたのね。ギルドの方へも微かに聴こえたから様子を見に来てしまったわ」

「ねーね!」

エリーヌがゆっくりと広場へ入って来た。
優しげな表情は元からだが、世界が平和になってからは尚笑顔でいる事が増えたようだった。

「そうなの!ジャイマーが来てて、ジャイマーに聞こえるようにって少し大きめに歌っていたの!ねーねの所にも聴こえたんだね!」

リファーはエリーヌを姉と慕っている。
しかし普段エリーヌはギルドの管理で執務室に篭りきり、リファーもコーナーズとしての活動があるのであまり会えないのだ。こうして突然会えた事にぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。

「ジャイマー…戻っていたのね。昨晩また私の所を抜け出して…」

「え!ジャイマーはいつもねーねのとこにいるの?」

「そうね。最近はよく一緒にいるわ。魔法の力で色々とお話ししているのよ」

「ジャイマー喋れたの?!」

「喋るというよりは…心に直接…みたいな感じかしら。彼女は普段はあんな感じだけどジースーさんと同じ魔力を持っているのよ。そして、ムヒコーウェルから貰った特別な魔力も……あ、そこまではいいわね」

「え??」

「ねー!ジャイマーったら寝ちゃってるよ」

リンレがいつのまにかジャイマーの側に行き、オレンジの毛並みを撫でていた。

「…朝方まで、また…あの人の所へ行っていたのね。疲れているのよ。寝かせておいてあげなさい」

「あの人って…?」

アキーチャが心配そうにエリーヌの顔を見る。

エリーヌは溜息をつく。
優しい笑顔は消えていた。

「イールビさん、の所」
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