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【番外編・本編(書籍)のその後】

メアリーとパティとその後の世界(書籍のネタバレあり)

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※本編(書籍)終了後のお話です。
※メアリーは聖女になり、パティはメアリーが創設した学園の学園長になっています。

*

 パティに学園の経営をお願いしてからしばらくたったある日、メアリーはパティに学園内に呼び出された。メアリーが応接間に通されソファーに座ると、その向かいでパティは深刻な顔をしている。

(いつもニコニコと明るいパティがこんな表情をするなんて珍しいわね)

 メアリーが『何か問題でもあったのかしら?』と不安になっていると、パティは手元のファイルからスッと一枚の書類を取りだしメアリーに渡した。メアリーが不思議に思いながら受け取ると、その書類には一人の女生徒のプロフィールが書かれていた。

「パティ、これは?」

「今年、この学園に入学してきた生徒なんだけど髪の色を見てほしいの」

 言われるままに書類に貼りつけられた証明写真を確認すると、女生徒の髪の色はパティとよく似たピンク色だった。ただし、アッシュピンクのパティとは違い、少し紫がかったローズピンクだ。

 この世界にはいろんな髪色の人がいるがピンク色はとても珍しい。メアリーが「珍しい色ね。貴女とカイルくん以外に見たことないわ」と言うとパティは「そうよね」と頷いた。

「メアリー。実は私、その生徒が『聖なる乙女の祈り2』の主人公、ようするにヒロインじゃないかって思うの」

「まさか……」

 『聖なる乙女の祈り』はメアリーとパティが転生する前にプレイしていた乙女ゲームだ。乙女ゲームの世界に転生してしまった二人は協力して、なんとかハッピーエンドを迎えることができて今にいたる。

 いまいち信用していないメアリーに向けられたパティの瞳は真剣だ。

「メアリーがこの学園を創った理由って『聖なる乙女の祈り』の第二弾は死人が出ない平和な学園ものにするためよね?」

「そう、だけど。まさか本当にそうなるなんて……」

 パティはファイルから別の書類を取り出した。

「これをみて」

 メアリーが受け取り見ると今度は黒髪の男子生徒のプロフィールが書かれている。

「この生徒は?」

「その生徒は隣国の王子様なの。何でも呪いにかかってしまい本国で疎まれてこの国に追いやられたらしいわ」

 パティは次々と書類をテーブルの上に並べていく。

「こっちのグレイの髪の男性生徒は王子の付き人兼、護衛騎士。こっちの赤髪は公爵家の嫡男。こっちの金髪はヒロインより一学年上で、ヒロインと同い年の妹がいるの。しかも、今年、平民出身の優秀な魔導士が特別枠で入学するの」

「えっと、その男子生徒達が攻略対象者だってパティは思うのね? それはどうして?」

 パティはプロフィールの写真を指さした。

「それは生徒達の髪の色よ。過去に攻略対象者だった聖騎士と同じ髪色なの」

「あっ」

 そう言われたとたんメアリーはハッとした。

「……ある。そういうパターンで続編をつくる乙女ゲーム……あるわ!!」
「でしょ!?」

「パティ、貴女ってやっぱり天才ね!? それで、これからどうするの?」

 満面の笑みで立ち上がったパティはメアリーの手を引っ張った。

「もちろん、こっそりヒロイン達を見に行くのよ!」

「ええっいいの!?」

「別にいいでしょ。私達、この学園の学園長と創設者なんだから」

 メアリーは『学園長と創設者が個人的に生徒を観察しに行くのはどうなんだろう……』と思ったが、本物の2ヒロインを見てみたい誘惑に負けてソファーから立ち上がった。

「私も行くわ!」

 パティは嬉しそうに微笑んでいる。

「今は授業中だからね。こそっと静かに廊下から見たら聖女の貴女がいても騒ぎにならないでしょう。よし、じゃあ2のキャラクター達を見に行こう!」

 そんな訳でヒロインがいるはずの教室にたどり着いた。廊下からそっと教室内を見ると生徒達はみんな真面目に授業を受けている。

(あれ? ピンク髪の生徒がいない?)

 パティも「いないわね」と小声で囁いている。

「事前に調べたんだけど、ヒロインはすごく真面目な良い生徒だったから、サボりではないと思うのよね」

「じゃあ、今日はお休み?」

 メアリーが尋ねるとパティはうーんと言いながら首をかしげた。

「それか、もしかしてイベント発生中……とか?」
「そうかも!?」

 二人で顔を見合わせてニヤッと笑いあう。

「イベント発生といえば屋上でしょう! この日のために学園長権限で屋上は開放しているのよ」

「さすがねパティ! でも体育館裏って可能性もない?」

 囁き合いながら屋上へと向かう。少しだけ開けた扉の隙間から屋上を見ても人影はない。

 メアリーが「誰もいないわね」と呟くとパティに右手で口を塞がれた。

「しっ! 裏手に誰かいるわ」

 静かに裏にまわるとローズピンク髪の女子生徒と、グレイ髪の男子生徒が深刻な顔で話し込んでいた。

 パティが「あれは王子の付き人兼、護衛騎士だから、立ち位置的にはカルヴァンね」と教えてくれる。

「なるほど。ということは、あの男子生徒は女性好きな不良生徒ってことね」

 パティはブッと噴き出した後に「そうね」と頷いた。

「不良生徒は攻略対象としては魅力的だけど、真面目なヒロインに授業をサボらせるなんて学園長として見逃せないわ」

 そう言ったパティは隠れるのをやめてイベント中であろう二人の前に出て行った。驚く男子生徒をパティは睨みつける。

「貴方達、ここで何をしているの? 今は授業中のはずだけど?」

「が、学園長!?」

 驚いた生徒二人は「すみません!」と言いながら逃げて行った。ヒロインはパティの横を通り過ぎるとき小さく頭を下げた。

 その様子をメアリーは隠れながら見ていた。

「ねぇパティ、イベントの邪魔をして良かったの?」

「さぁ? でもヒロインも困っていたみたいだから良かったんじゃない?」

「ヒロインも転生者なのかしら?」

「それも調べてみたんだけど、今のところ転生者ではないみたい。まぁメアリーみたいに途中で思い出すこともあるから何とも言えないけどね」

 とにかくヒロインには会えた。

 メアリーが「可愛かったわね」と言うと、パティも「可愛かったわねぇ」としみじみと頷く。

「そういえば、メアリー的立ち位置の悪役令嬢もいるの?」

「ヒロインと同じクラスに金髪の女生徒がいるわ。ルーフォス的立ち位置の兄がいるから、多分そのこね」

「ヒロインもそのこも、ツライ目に合わなかったらいいんだけど……」

 パティにポンッと肩を叩かれた。

「私達はもうゲームのストーリーは分からないけど、なんとなく乙女ゲームのことは分かるし、私は学園長で貴女はこの国の聖女だから、あの子たちが困ったとき何か助けてあげられると思うの」

「……そうね」

 これから何が起こるか分からないが彼女達を見守ることはできる。

 メアリーは祈るように両手を組み合わせた。

「どうか、彼女達が試練を乗り越えて、みんなが幸せな未来をつかめますように」

 その後、王子の呪いが暴走して魔王化したり、ヒロインと聖女メアリーが協力して魔王になった王子を鎮めたり、パティとクリフが愛の力で奇跡を起こしたり、元聖騎士達も大活躍したりと、なんやかんやと世界を巻き込んで大変なことになるのだが、それはまた別のお話。



END


***

あとがき

たくさんの方に助けていただいて出版デビューさせていただきました!
このチャンスをいただけたのは、読んでくださった皆様のおかげです、ありがとうございます^^

この短編ですが続きません。
続きそうな短編を書いてしまいすみません。

パティとメアリーがワイワイキャイキャイしているお話が書きたかったのです。
あと続編の2は、メアリーの希望通りちゃんと学園ものになったよって。
でも、メアリーもガンガンに巻き込まれるよって(笑)

書けて満足しました(*´▽`*)
読んでくださり、ありがとうございました!

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