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【番外編・ハロルドとの恋愛エンディング】

02 ハロルド視点

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 先ほどから退屈な貴族達による、つまらない会話が続いている。

 誰かがハロルドの容姿を褒めると、誰かがハロルドの優秀さを讃えた。そんな上辺だけの言葉では、ハロルドの心は少しも動かない。

(もういいかな?)

 ハロルドは微笑みを浮かべながら立ち上がると、驚く貴族達に「大切な用があるんだ」と告げてその場を立ち去った。

 大切な用事。そう、今日はメアリーが王城に来る日だった。ハロルドの婚約者になったメアリーは月に一度だけハロルドに会いに来てくれる。

 一緒にお茶をして、二人で少し話をするだけ。

 最初の二か月はそれで満足していたのに、日に日に物足りなくなってきている。弾む心を押さえながら、ハロルドはメアリーの待つ部屋へと入った。

 椅子に座りもせずに待っていたメアリーは、まるでハロルドの臣下のように頭を深く下げる。

「メアリー、楽にして」

 声をかけてからようやく顔を上げたメアリーはどこか青ざめ、その瞳には怯えが見える。

(ああ……やっぱり、いい)

 婚約者という立場になってもメアリーは少しも変わらず、ハロルドに畏敬の念を抱いてくれる。座るように勧めると、ハロルドが座るのを見届けてから、向かいの椅子にようやく腰を下ろした。それは、王族より先に座ることを失礼だと考えての行動だ。

(そういう所がたまらない)

 メアリーの側にいると、『自分は常に敬われるべき存在だ』と心の底から思える。しかも、メアリーが最高なのは、その立ち居振る舞いだけはない。

 ハロルドが「さっき、『そこらへんの令嬢よりも殿下はお美しい』って褒められたよ」と言うと、メアリーはサッと顔を青くする。

「殿下になんて無礼なことを……。その方は、命が惜しくないのでしょうか?」

(そう、これ!)

 ハロルドは気分が高揚して、テーブルをバンバンと叩きたい気分になった。

(私の欲しい言葉は、これなんだ!)

 こんなに喜ばせておいて、メアリーはハロルドに何も望まない。それこそ『生かしてもらっているだけで有難い』という態度を一切崩さない。

(ダメだ……。メアリーとの時間が楽しすぎて、彼女を帰したくない)

 お茶会が終わる時間になると、メアリーはホッとしたような顔をする。その顔が、好ましいのに恨めしい。

(ああ、ずっと私に怯えていて欲しいのに、私に好意も持って欲しい)

 それは、今までに一度も味わったことのない、もどかしくて狂おしい感情だった。ハロルドは、ティーカップを持っているメアリーの白い手にそっと触れた。

 ビクッと震えてメアリーの表情が強張る。

「メアリー、これからは、月に一度ではなく週に一度、私に会いに来て欲しい」

 メアリーの顔には『絶対に嫌だ』と描かれていたが、そんなことはどうでもいい。

「来てくれるよね?」と優しく微笑みかけると、メアリーは泣きそうな顔で「はい、殿下」と頷いた。

 週に一度会うようになり、落ち着くかと思ったメアリーへの執着は、さらに酷くなっていった。

 何を話しても最高の返事をしてくれるので、気がつけばメアリーにいろんなことを話すようになってしまっている。

 『やめなければ』と思うのに、メアリーとの会話が心地好すぎてやめられない。

 初めはメアリーの手にふれるだけだったのに、ある日ふと戯れに抱きしめてみると、腕の中で震えながらも頬を赤くしてくれた。

(可愛い……)

 ハロルドは、生まれて初めて自分の心臓の音が煩いと思った。
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