上 下
20 / 40
【番外編・エイベルとの恋愛エンディング】

03 エイベル視点

しおりを挟む
 メアリーの部屋は、この城内で一番広く豪華な部屋だった。隣はエイベルの部屋になっていて、二つの部屋は扉で繋がっている。

 エイベルがメアリーの部屋を訪ねると、メアリーはいつでも笑顔で出迎えてくれた。メアリーが神殿から連れて来たメイド達も、エイベルが来ると気を利かせて部屋から出て行ってくれる。

「メアリー」

 細い腰を抱き寄せて、豊かな金髪を指ですくと、メアリーは恥ずかしそうに頬を染める。

(ああ、可愛いなぁ)

 今になって思い返せば、パティの毒殺未遂の容疑者として、メアリーを拘束するためにノーヴァン伯爵家を訪れた時、激変したメアリーを見た瞬間から、無意識に心惹かれていたのかもしれない。そうじゃないと、あの時、無理やり馬車に乗りこんだ理由が説明できない。

(初めは、本当のメアリーのことを知っているのは僕だけで、僕だけがメアリーの味方だったのに。気が付けば、カルヴァンのことをなぜか『お兄様』って呼んでいるし)

 あの時は、ものすごく嫌な気分になった。でも、嫌な気分になった理由もよく分からなかった。

(たくさん贈り物をしたのは、メアリーに笑って欲しかったからだけど……)

 たぶん、もっと不純な理由も含まれていた。

(僕は、メアリーに僕のことを『特別』だと思って欲しかったのかもしれない。『僕だけがメアリーを助けてあげられるよ』ってアピールしたかったのかも……)
 
 そうこうしているうちに、メアリーはあれだけ仲の悪かったルーフォスとパティとも仲直りしていた。

(やっとメアリーが僕のことを頼ってくれたと思ったら、『誰でもいいから嫁ぎ先を紹介してくれ』って)

 あのときは、悲しいを通り越して、怒りが抑えきれなかった。それなのに、自分の本当の気持ちにまだ気がつけていなかった。

(でも、メアリーが、僕の気持ちを代弁してくれた)

『エイベル様、私、貴方の全てが欲しいんです。他の女性は見ないでください。ずっと私だけを側に置いて愛してください』

(あれは、僕の気持ちだった。ずっと僕がメアリーに言いたかったことだ)

 『メアリー、君の全てが欲しい。他の男と仲よくしないで。ずっと僕だけを頼って愛して』
 
(自分で自分の気持ちに気がつけないなんて情けない)

 大人しく腕の中に納まってくれるメアリーにそっと口付けをした。

 結婚してから毎日のように口付けして、身体を重ねているのに、未だにメアリーは恥ずかしそうにうつむいてしまう。こんな可愛い顔を毎日見られるなんて、なんて幸せ者なのだろうと思う。

(やっと僕だけのメアリーになった)

 それなのに。

 一か月もたたずに、母が乗り込んできた。父に苦情を言うと、困った顔をしながら「これでも引きとめるのに苦労したんだ」と言われてしまう。

「メアリーさん、このドレス、メアリーさんにとっても似合うと思うの!」
「メアリーさん、一緒にお茶会をしましょう」
「メアリーさん、メアリーさん」

 母は、嬉々としてメアリーの後を付きまとっている。

(そうだった、メアリーは女性にもモテるんだった……)

 うんざりして、「母様、もう帰って。メアリーが困っているよ」と言うと、メアリーは明るい笑顔を浮かべて首を振る。

「いいえ、私もお母様とご一緒出来てとても嬉しいです」

 そんなことを言いながら、二人で仲良さそうに手を繋いでいる。

(メアリーは、今までの家庭環境が酷かったから、こういうゆるい家族が嬉しいのかも)

 そう分かっていても、仲良さそうな二人を見ていると良い気はしない。特にメアリーが少し照れながら嬉しそうに母に微笑みかける姿を見ていると胸に黒いモヤのようなものが湧いた。

(僕以外に、あんなに可愛い笑顔を向けて……)

 エイベルの心のモヤは、日に日に増えて広がっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

王太子妃なのに冤罪で流刑にされました 〜わたくしは流刑地で幸せを掴みますが、あなた方のことは許しません〜

超高校級の小説家
恋愛
公爵令嬢のベアトリスは16歳でトルマリン王国の王太子と政略結婚して王太子妃となった。しかし、婚礼の儀と披露式典を終えて間もなく、王城に滞在する大聖女に怪我をさせたと言いがかりをつけられる。 全く身に覚えが無いのに目撃証言が複数あり、これまでも大聖女に対して嫌がらせをしていたという嫌疑をかけられ、怒った王太子によって王太子妃の位を剥奪され流刑に処されてしまう。 流された先は魔族という悪しき者達が住む魔界に通じる扉があると言われる魔の島と恐れられる場所だった。 ※7話まで胸糞悪いです。そこからはお気楽展開で書いてますのでお付き合いください ※最終話59話で完結 途中で飽きた方もエピローグに当たる最後の3話だけでも読んで、ベアトリスの復讐の顛末を見ていただけると嬉しいです。

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。