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オマケ

隠し事

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ベッドの上でストレッチをする。

いつもの日課。
マナーの先生に、「身体が硬いと、いい動きはできませんよ」と言われているから。
サボると何故かバレてしまうので欠かせない。

今日は随分ゆっくり目にやってみたけれど、それでも終わってしまった。

どうしよう。ジェイは今日は仕事が忙しいみたい。
無理して起きていても叱られてしまうから、そろそろ寝ようかな。
そう思っていたら、寝室のドアが開いた。

「ジェイ」

反射的に笑顔になる。
でも、いつもなら微笑み返してくれるジェイの表情が、今日は硬い。

「ジェイ?」

無言で近づいてくるジェイを、首を傾げて見上げる。
ジェイはジャケットも脱がずに真っ直ぐ歩いてくると、私のすぐそばに腰を下ろした。
ギシリとベッドが軋む。

「ミシュ…」

じっと見つめられる。
なんだか責めるような瞳。

「…この前、一人で街に出かけたらしいが…」

ジェイの大きな手に頬を包まれた。

「どこで何をしてきたんだ?」

…内緒で出かけた筈だったのに。

思わず目が泳いでしまう。
ジェイが低く笑った。

「同行した使用人に聞いても「言えません」の一点張りでな」

顔を動かせないように両手で固定され、目の奥を覗き込まれる。

「俺が遠出をした隙に、こっそり外出するなんて」

口調は穏やかなのに

「俺の愛しい妻はいったいどういうつもりなのか、教えて欲しくてな?」

目が全く笑っていない。

「なあ、ミシュ」

彼の表情に思わず気圧されて、言葉に詰まる。ゾクリと震えると、彼の手の力がほんの少しだけ強まった。
逃さないとでも言うように。

「その…」

「うん?」

笑顔なのに怒っている。
どうしよう。内緒にしておきたいのに…。

「あの…」

どうにか誤魔化せないものかと上目遣いに窺うと、ジェイの口元が笑みの形に歪んだ。

「嘘を吐いて誤魔化そうなんてつもりなら、覚悟した方がいい」

ダメだ。誤魔化せそうにない。
……内緒にして、驚かせたかったのに。
そっとため息を吐いて、ジェイの顔に手で触れた。

そんなに怖い顔しないで。

「買い物をしてたんです」

「買い物?」

ジェイが訝しげな顔をした。
「どうして内緒で買い物なんて」と思っていそうな顔。
…仕方ない。サプライズのつもりだったのだけれど…。

「プレゼントを」

ピクっとジェイの眉が動いた。

「…もうすぐあなたの誕生日だから」

…言ってしまった。
たまには驚かせたくて、ジェイに似合いそうな物をこっそり注文したのに。…渡す時までは内緒にしておきたかったのに。
しょんぼりと肩を落とすと、ジェイにぎゅっと抱きしめられた。

「ミシュ…それは…気持ちは嬉しいが…嫉妬で狂いそうになるから、俺に隠し事はやめてくれ…」

「大げさな」と笑おうとしたら、身体を離した彼に真剣な瞳で見つめられた。

「君が俺に内緒で誰かと会うなら、たとえ相手が店員だろうと俺にとってそれは浮気だ」

そんなバカなと唖然とする。

「だからもう、二度と俺に隠し事なんてしないでくれ」

返事をする筈の口は、彼の唇で塞がれてしまった。
多分これは、「はい」以外の返事は受け付けないということなのだろう。

意外と私の夫は嫉妬深かったようだ。
驚いたけれど…正直、ちょっと嬉しくもある。愛されている感じがして。
だから、未だ私の唇を塞ぎ続ける彼の首に腕を回して頷いた。
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