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十五年後
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今日の私は、そわそわと彼の帰りを待っている。
遠方へ視察に行った彼が、三日ぶりに帰ってくるのだ。
だからマリーにお願いして、とびきり綺麗にしてもらった。
だって、私の旦那様はとても素敵な人なのだから。私も化粧の力を借りてでも、ちょっとくらいは綺麗だと思ってもらえるようにしなければ。
最初は化粧で誤魔化しているようで少し後ろめたさがあったのだけれど、よく言うではないか。
「結果がすべて」
だから、たとえ化粧を盛った結果だとしても、綺麗に見えたらそれでいいのだと最近は開き直っている。だってマリーが化粧を施した私は、我ながらなかなかの美女に見えるのだから。
マリーは「ここまでしなくても十分お綺麗ですよ」と言ってくれるけれど油断は禁物だ。
「夫婦だから」と気を抜きすぎていたら「もう女として見れない」と告げられたという怖い話を聞いたことがある。
それに、「婚約者だから」と胡座をかいていたら、他の女に婚約者の心を奪われたのが過去の私だ。決して気を抜いていいスペックではないのだ。
やれることがあるなら、やらなければ。
それにしても、いい加減慣れても良さそうなものなのだけれど、私は未だに彼を見るたびに「ああ、今日も素敵」とうっとりしてしまう。
朝、食事が済んで仕事モードに切り替えた時の顔。
外出から帰ってきた時、私を見て綻ぶ顔。
お風呂から上がった後の、濡れ髪の少し色気のある顔。
夕食を食べている時の、くつろいだ顔。
そして、子どもたちに向ける暖かな笑顔。
どの顔も素敵で大好き。
いつもそんな風にときめかされているのだから、少しくらいは彼にも私にときめいてもらわないと釣り合いが取れない。
だからこれは、無駄で不用な努力なんかじゃない。むしろ必要不可欠なことなのだ。化粧の力でいいから、彼にも少しくらい私にときめいてもらって、今日も愛を深めなくては。
絶対に私の方が、日々重くなり続けている気がする愛を。
そう決意を新たにしつつ、落ち着きなく立ったり座ったりしていたら娘に笑われた。
「お母様、もうすぐ帰ってくるわよ」
息子には、呆れたようにため息を吐かれた。
「母上、そわそわしすぎ」
でも二人とも、そんなことを言いながらも少し落ちつきがない。だって彼らも夫のことが大好きだから。
特に用もないのに、サロンで彼の帰りを一緒に待っているのがその証拠だ。
…こういうのをツンデレって言うのだろうか?
可愛い。
思わずニコニコと眺めていたら、息子にふいっと顔を逸らされてしまった。
でもサロンを出て行ったりはしない。
やっぱり可愛い。
娘はそんな私を見て苦笑した。
…娘のこの大人びた感じは誰譲りなのだろう。私の方が年下みたいな反応はちょっと納得がいかない。もう少しこう、子どもっぽい子どもが欲しい。
そこまで考えて、慌ててかぶりを振った。
こんな考えを彼に知られたら、また頑張られてしまうかもしれない。
息子ができなくて、悩んでいるのを気づかれた時みたいに。
当時を思い出してブルリと震えた。
あれは危険。
まぁ、それはおいておいても私たち夫婦は相変わらず仲がいい。時折息子に「イチャつきすぎ」と嫌そうな顔で席を立たれてしまうくらいに。
だから、頑張らなくてもそのうちまた一人くらい家族が増えるかもしれない。
そんなことを考えていたら、彼の乗る馬車の音が遠くから聞こえてきた。
ーー完ーー
(ここまでお読みいただきありがとうございました!この後はオマケが続きます!)
遠方へ視察に行った彼が、三日ぶりに帰ってくるのだ。
だからマリーにお願いして、とびきり綺麗にしてもらった。
だって、私の旦那様はとても素敵な人なのだから。私も化粧の力を借りてでも、ちょっとくらいは綺麗だと思ってもらえるようにしなければ。
最初は化粧で誤魔化しているようで少し後ろめたさがあったのだけれど、よく言うではないか。
「結果がすべて」
だから、たとえ化粧を盛った結果だとしても、綺麗に見えたらそれでいいのだと最近は開き直っている。だってマリーが化粧を施した私は、我ながらなかなかの美女に見えるのだから。
マリーは「ここまでしなくても十分お綺麗ですよ」と言ってくれるけれど油断は禁物だ。
「夫婦だから」と気を抜きすぎていたら「もう女として見れない」と告げられたという怖い話を聞いたことがある。
それに、「婚約者だから」と胡座をかいていたら、他の女に婚約者の心を奪われたのが過去の私だ。決して気を抜いていいスペックではないのだ。
やれることがあるなら、やらなければ。
それにしても、いい加減慣れても良さそうなものなのだけれど、私は未だに彼を見るたびに「ああ、今日も素敵」とうっとりしてしまう。
朝、食事が済んで仕事モードに切り替えた時の顔。
外出から帰ってきた時、私を見て綻ぶ顔。
お風呂から上がった後の、濡れ髪の少し色気のある顔。
夕食を食べている時の、くつろいだ顔。
そして、子どもたちに向ける暖かな笑顔。
どの顔も素敵で大好き。
いつもそんな風にときめかされているのだから、少しくらいは彼にも私にときめいてもらわないと釣り合いが取れない。
だからこれは、無駄で不用な努力なんかじゃない。むしろ必要不可欠なことなのだ。化粧の力でいいから、彼にも少しくらい私にときめいてもらって、今日も愛を深めなくては。
絶対に私の方が、日々重くなり続けている気がする愛を。
そう決意を新たにしつつ、落ち着きなく立ったり座ったりしていたら娘に笑われた。
「お母様、もうすぐ帰ってくるわよ」
息子には、呆れたようにため息を吐かれた。
「母上、そわそわしすぎ」
でも二人とも、そんなことを言いながらも少し落ちつきがない。だって彼らも夫のことが大好きだから。
特に用もないのに、サロンで彼の帰りを一緒に待っているのがその証拠だ。
…こういうのをツンデレって言うのだろうか?
可愛い。
思わずニコニコと眺めていたら、息子にふいっと顔を逸らされてしまった。
でもサロンを出て行ったりはしない。
やっぱり可愛い。
娘はそんな私を見て苦笑した。
…娘のこの大人びた感じは誰譲りなのだろう。私の方が年下みたいな反応はちょっと納得がいかない。もう少しこう、子どもっぽい子どもが欲しい。
そこまで考えて、慌ててかぶりを振った。
こんな考えを彼に知られたら、また頑張られてしまうかもしれない。
息子ができなくて、悩んでいるのを気づかれた時みたいに。
当時を思い出してブルリと震えた。
あれは危険。
まぁ、それはおいておいても私たち夫婦は相変わらず仲がいい。時折息子に「イチャつきすぎ」と嫌そうな顔で席を立たれてしまうくらいに。
だから、頑張らなくてもそのうちまた一人くらい家族が増えるかもしれない。
そんなことを考えていたら、彼の乗る馬車の音が遠くから聞こえてきた。
ーー完ーー
(ここまでお読みいただきありがとうございました!この後はオマケが続きます!)
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