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婚約解消、からのーー
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婚約がダメになった。
なんでも彼は、「運命の人」に出会ってしまったのだそうだ。
正式な手続きを踏んだ書状が送られてきて、彼との婚約は白紙に戻った。
彼から解消を告げられてから、一月もかからなかった。
ショックでぼーっとしてしまう。
婚約者に捨てられた女
別に誰にそう言われた訳でもない。
それでも思ってしまう。
私は捨てられたのだと。
他の女性と比べて、魅力がないと婚約者に判断されたのだと。
別にそこまで情熱的に好きだった訳ではないけれど、彼と結婚することに何の疑問もなかったのに。
でも彼は、私では不満だった。
私より他の女の人を選んだ。
私は彼に捨てられた。
彼に解消を告げられてから、その考えがずっと頭の中でグルグル回っている。
捨てられた女
要らない女
不用品
邪魔
ダラリと自室の机にだらしなく突っ伏しても、侍女たちは何も言わずに放っておいてくれる。
それがありがたかった。
今、こんなことで「行儀が悪い」なんて叱られたら暴れてしまいそうだ。
書面での手続きも完了し、彼との婚約が正式に白紙に戻った翌日、お父様に呼び出された。
お父様も、二年後には結婚する予定だった婚約が解消されてしまい、最近は疲れた顔をしていた。
お父様も、こんな廃棄物を娘に持って大変ね
そんなやさぐれた気分で向かった執務室で、驚くほど上機嫌なお父様に出迎えられた。
「喜べ!おまえの婚約が決まったぞ!」
耳を疑った。
そんな簡単に都合よく年頃の男がつかまる訳がーー
「相手はなんと、おまえの元婚約者の新しい婚約者の元婚約者だった男だ!」
ややこしい言い回しに、しばし黙り込む。
私の元婚約者の新しい婚約者の元婚約者…つまり…私の婚約者を「運命の人」と見定めた女に振られた人…
「振られた者同士っ!?」
「その通り!」
お父様は変なキメポーズで答えた。
何だろう。徹夜明けとかで変なテンションなのかもしれない。
ちょっとお酒臭いし。
胡乱げな目で見つめる私に、お父様は大きく頷いてみせた。
「いやな、昨日ようやくあの忌々しい手続きが終わってクラブでヤケ酒かっ喰らってたら、同じようにヤケ酒飲んでる奴がいてな?つい一緒に飲み始めて話を聞いたら、息子が婚約者に振られたって言うじゃないか。で、うちもだ!って言ったら最初は信じてなかったんだけど「ならうちのと婚約するか!?」って言ったら「ああ、いいだろう。そんな都合のいい娘がいるなら喜んで!」なんて言いやがったからな!これ幸いと婚約をキメてきたってわけよ!カーッ!めでたい!!!」
「………」
…お父様の名誉の為に一応弁解しておくと、普段のお父様は決してこんな人ではない。どちらかと言うと真面目で厳格なタイプだ。
今はちょっと………色々タガが外れてしまっているのだろう…主に私が原因のストレスで…
見るに耐えず、そっと目を逸らした。
…でも売り言葉に買い言葉で婚約を決めないで欲しい。
そう思ってチラリと視線を戻した。
「それでその婚約は、どれくらい正式な物なのですか?」
口約束程度なら、今からでも覆せるかもしれない。
そんな希望は、即打ち砕かれた。
「超正式なやつだ!そん時クラブにいた連中に証人になってもらって、書面もきっちり作成して、朝一で貴族院に提出してきたからな!」
「超」ってお父様…。
っていうか仕事が早すぎる!
一番正式な奴じゃないですかそれ!
呆然とする。
けれど
「だからもう、気に病むな」
不意に向けられた優しい笑みに、泣きそうになってしまった。
お父様も、随分心配してくれていたから。この一カ月、碌に出かけもせずに塞ぎ込んでいた私を…。
ちょっとしんみりしたけれど、でも流石にこれはないんじゃないだろうかと思い直す。お酒の勢いで娘の婚約をキメてくるなんて。
でも今さらどうにもならない。
今からこの婚約を解消しようとすれば、元婚約者と同じ手続きが必要になる。
二度も立て続けにあれは嫌だ。
何枚も何枚も書類を埋めて。
返事を待ってまたそれに対する返事を…。
それに、相手も同じ立場だと思えば、少し気が楽かもしれない。
「わかりました」
あきらめて素直に頷いた。
折角お父様が私の為にまとめてくれた縁談だ。この後何年も婚約できないよりずっとマシだ。ここはひとつ、前向きに受け止めよう。
そう思って真っ直ぐお父様を見た私に、お父様は満足そうに頷いた。
「今日の午後、早速その婚約者殿がいらっしゃるから、しっかりやれよ!」
「今日!!?」
早速すぎる!
本当、仕事が早いってばお父様!!!
なんでも彼は、「運命の人」に出会ってしまったのだそうだ。
正式な手続きを踏んだ書状が送られてきて、彼との婚約は白紙に戻った。
彼から解消を告げられてから、一月もかからなかった。
ショックでぼーっとしてしまう。
婚約者に捨てられた女
別に誰にそう言われた訳でもない。
それでも思ってしまう。
私は捨てられたのだと。
他の女性と比べて、魅力がないと婚約者に判断されたのだと。
別にそこまで情熱的に好きだった訳ではないけれど、彼と結婚することに何の疑問もなかったのに。
でも彼は、私では不満だった。
私より他の女の人を選んだ。
私は彼に捨てられた。
彼に解消を告げられてから、その考えがずっと頭の中でグルグル回っている。
捨てられた女
要らない女
不用品
邪魔
ダラリと自室の机にだらしなく突っ伏しても、侍女たちは何も言わずに放っておいてくれる。
それがありがたかった。
今、こんなことで「行儀が悪い」なんて叱られたら暴れてしまいそうだ。
書面での手続きも完了し、彼との婚約が正式に白紙に戻った翌日、お父様に呼び出された。
お父様も、二年後には結婚する予定だった婚約が解消されてしまい、最近は疲れた顔をしていた。
お父様も、こんな廃棄物を娘に持って大変ね
そんなやさぐれた気分で向かった執務室で、驚くほど上機嫌なお父様に出迎えられた。
「喜べ!おまえの婚約が決まったぞ!」
耳を疑った。
そんな簡単に都合よく年頃の男がつかまる訳がーー
「相手はなんと、おまえの元婚約者の新しい婚約者の元婚約者だった男だ!」
ややこしい言い回しに、しばし黙り込む。
私の元婚約者の新しい婚約者の元婚約者…つまり…私の婚約者を「運命の人」と見定めた女に振られた人…
「振られた者同士っ!?」
「その通り!」
お父様は変なキメポーズで答えた。
何だろう。徹夜明けとかで変なテンションなのかもしれない。
ちょっとお酒臭いし。
胡乱げな目で見つめる私に、お父様は大きく頷いてみせた。
「いやな、昨日ようやくあの忌々しい手続きが終わってクラブでヤケ酒かっ喰らってたら、同じようにヤケ酒飲んでる奴がいてな?つい一緒に飲み始めて話を聞いたら、息子が婚約者に振られたって言うじゃないか。で、うちもだ!って言ったら最初は信じてなかったんだけど「ならうちのと婚約するか!?」って言ったら「ああ、いいだろう。そんな都合のいい娘がいるなら喜んで!」なんて言いやがったからな!これ幸いと婚約をキメてきたってわけよ!カーッ!めでたい!!!」
「………」
…お父様の名誉の為に一応弁解しておくと、普段のお父様は決してこんな人ではない。どちらかと言うと真面目で厳格なタイプだ。
今はちょっと………色々タガが外れてしまっているのだろう…主に私が原因のストレスで…
見るに耐えず、そっと目を逸らした。
…でも売り言葉に買い言葉で婚約を決めないで欲しい。
そう思ってチラリと視線を戻した。
「それでその婚約は、どれくらい正式な物なのですか?」
口約束程度なら、今からでも覆せるかもしれない。
そんな希望は、即打ち砕かれた。
「超正式なやつだ!そん時クラブにいた連中に証人になってもらって、書面もきっちり作成して、朝一で貴族院に提出してきたからな!」
「超」ってお父様…。
っていうか仕事が早すぎる!
一番正式な奴じゃないですかそれ!
呆然とする。
けれど
「だからもう、気に病むな」
不意に向けられた優しい笑みに、泣きそうになってしまった。
お父様も、随分心配してくれていたから。この一カ月、碌に出かけもせずに塞ぎ込んでいた私を…。
ちょっとしんみりしたけれど、でも流石にこれはないんじゃないだろうかと思い直す。お酒の勢いで娘の婚約をキメてくるなんて。
でも今さらどうにもならない。
今からこの婚約を解消しようとすれば、元婚約者と同じ手続きが必要になる。
二度も立て続けにあれは嫌だ。
何枚も何枚も書類を埋めて。
返事を待ってまたそれに対する返事を…。
それに、相手も同じ立場だと思えば、少し気が楽かもしれない。
「わかりました」
あきらめて素直に頷いた。
折角お父様が私の為にまとめてくれた縁談だ。この後何年も婚約できないよりずっとマシだ。ここはひとつ、前向きに受け止めよう。
そう思って真っ直ぐお父様を見た私に、お父様は満足そうに頷いた。
「今日の午後、早速その婚約者殿がいらっしゃるから、しっかりやれよ!」
「今日!!?」
早速すぎる!
本当、仕事が早いってばお父様!!!
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