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「この度、第一王子から婚約破棄されましたが、今のお気持ちは?」
ドグネス男爵令嬢が私をじっと見た。
何か言いたいことが溜まっている人の目だ。
頷いて促す。
言っちゃってください!
発言の結果起こることの責任は取りませんが、面白ければバッチリ報道してみせますから!
「正直、ほっとしました」
ドグネス男爵令嬢は、ため息をこぼすように呟いた。
おー。そうきたか。
目で続きを促す。
「もともと、婚約だって唐突だったんです。なんか急に色々物をくれるようになったなーって思ってたら、前回の学園のダンスパーティーでいきなり婚約者に指名されて……事前になんの相談も無かったんですよ!?酷いと思いません!?」
「あー、酷いですねー。それは」
相槌を打つと、ドグネス男爵令嬢は我が意を得たりとヒートアップした。
「でしょ!?そんなこと勝手に決められても困るのに…でもあんな大勢の前で宣言したから取り消せないとか言われて…」
俯いたドグネス男爵令嬢の目尻が光った。
おお、これが噂の…
その傷ついたような表情をアップで捉える。
凄いな。
これだけアップにしても、表情にわざとらしさがカケラもない。
ちなみにドグネス男爵令嬢は、第一王子の婚約者に指名される前から複数の男子生徒に貢がれていることで有名だった。
相手に話を合わせて仲よくなって、それから男爵という自らの低い地位を逆手にとって同情を引く。
王道だが見事な手口。
そこで噂されていたのがこの、
『泣きそうなのをグッとこらえる健気な姿』だ。
実物見るまでは女の涙に騙されるなんてバカだなーって思ってたけど、これは納得。
こんな顔見せられたら、経験の浅い学園男子程度、ひとたまりもないだろう。
こういう女に一度引っかかって、自分の騙されやすさを早いうちに自覚するのも社会勉強になるから、個人的には別にいいと思う。貢ぐと言っても、どうせ学生が自由に使える範囲だ。家も国も傾かない。
「そうだったんですか。大変でしたね」
とりあえず、万能な相槌で話を進める。
「そうなんです…このドレスだって…ベルメシャーンみたいで恥ずかしいから着たく無かったんですけど、王子がどうしてもこれがいいって…おまえに似合うって……」
あ、着てる本人もベルメシャーンみたいって思ってたんだ…
ちょっと親近感が湧いた。
「なるほど。それで趣味に合わないかさ張るドレスは、一度着たら売っていた?」
先ほど第一王子が糾弾していた内容を確認する。
本当はこんなフォローはしなくてもいいんだけど、ここでちょっとサービスしておけば彼女はこっちに都合よく動いてくれそうな予感がしたから。
彼女はそれに食いついた。
「っ…そうなんです!二度と着たくないのに家にあっても…置き場所もないし…それに、見る度に「あんなものを着て人前に出た」って思い出すから恥ずかしくて……」
…仮にも貴族だから「置き場所がない」はないだろうけれど、後半はかなり本気っぽかった。
流石に気の毒になる。
だって今日のドレスもだけれど、この前見たドレスもその前のドレスも、道化師くらいしか着ないだろうって感じのものだったからね…
まともな神経してたら着たくない。
そこに復活した第一王子が割って入ってきた。
「おまえだって「とっても素敵!嬉しいわ!」って喜んでただろ!?」
「仕方なくですよ!それ以外になんて言えって言うんですか!王子相手に!」
ドグネス男爵令嬢は真っ正面から噛み付いた。
これはこれで面白いけど、放っておくと話が先に進まなそうだ。
今日の本題はそこじゃないから話を戻そう。
「つまり、ドグネス男爵令嬢は今回の婚約破棄に異論はないのですね?」
「ありません」
可愛い顔して、きっぱり言いきったよ。
まあそうだろうな。
この子なら、王妃なんて窮屈な立場より、もっと気楽な暮らしを好みそうだ。おまけに相手がこれじゃ、余計に未練はないだろう。
「だそうです。よかったですね?殿下」
「…あ、ああ」
話を振ると、消化不良な顔で曖昧に頷く第一王子。
ドグネス男爵令嬢が泣いてすがるとでも思ってたのかな?
まあいい。ここらでいったん、話を整理しようか。
「第一王子殿下はドグネス様との婚約を破棄した。ドグネス様もそれについて異存はない。カレン様は、第一王子の婚約破棄は受け入れたけれど、婚約破棄の破棄は受け付けない、ということでよろしいですか?」
第一王子とドグネス男爵令嬢が頷き、カレン公爵令嬢が笑った。
「ええ。だって私、既に婚約者がおりますもの」
サラリと落とされた爆弾発言に、ホール内がどよめいた。
ドグネス男爵令嬢が私をじっと見た。
何か言いたいことが溜まっている人の目だ。
頷いて促す。
言っちゃってください!
発言の結果起こることの責任は取りませんが、面白ければバッチリ報道してみせますから!
「正直、ほっとしました」
ドグネス男爵令嬢は、ため息をこぼすように呟いた。
おー。そうきたか。
目で続きを促す。
「もともと、婚約だって唐突だったんです。なんか急に色々物をくれるようになったなーって思ってたら、前回の学園のダンスパーティーでいきなり婚約者に指名されて……事前になんの相談も無かったんですよ!?酷いと思いません!?」
「あー、酷いですねー。それは」
相槌を打つと、ドグネス男爵令嬢は我が意を得たりとヒートアップした。
「でしょ!?そんなこと勝手に決められても困るのに…でもあんな大勢の前で宣言したから取り消せないとか言われて…」
俯いたドグネス男爵令嬢の目尻が光った。
おお、これが噂の…
その傷ついたような表情をアップで捉える。
凄いな。
これだけアップにしても、表情にわざとらしさがカケラもない。
ちなみにドグネス男爵令嬢は、第一王子の婚約者に指名される前から複数の男子生徒に貢がれていることで有名だった。
相手に話を合わせて仲よくなって、それから男爵という自らの低い地位を逆手にとって同情を引く。
王道だが見事な手口。
そこで噂されていたのがこの、
『泣きそうなのをグッとこらえる健気な姿』だ。
実物見るまでは女の涙に騙されるなんてバカだなーって思ってたけど、これは納得。
こんな顔見せられたら、経験の浅い学園男子程度、ひとたまりもないだろう。
こういう女に一度引っかかって、自分の騙されやすさを早いうちに自覚するのも社会勉強になるから、個人的には別にいいと思う。貢ぐと言っても、どうせ学生が自由に使える範囲だ。家も国も傾かない。
「そうだったんですか。大変でしたね」
とりあえず、万能な相槌で話を進める。
「そうなんです…このドレスだって…ベルメシャーンみたいで恥ずかしいから着たく無かったんですけど、王子がどうしてもこれがいいって…おまえに似合うって……」
あ、着てる本人もベルメシャーンみたいって思ってたんだ…
ちょっと親近感が湧いた。
「なるほど。それで趣味に合わないかさ張るドレスは、一度着たら売っていた?」
先ほど第一王子が糾弾していた内容を確認する。
本当はこんなフォローはしなくてもいいんだけど、ここでちょっとサービスしておけば彼女はこっちに都合よく動いてくれそうな予感がしたから。
彼女はそれに食いついた。
「っ…そうなんです!二度と着たくないのに家にあっても…置き場所もないし…それに、見る度に「あんなものを着て人前に出た」って思い出すから恥ずかしくて……」
…仮にも貴族だから「置き場所がない」はないだろうけれど、後半はかなり本気っぽかった。
流石に気の毒になる。
だって今日のドレスもだけれど、この前見たドレスもその前のドレスも、道化師くらいしか着ないだろうって感じのものだったからね…
まともな神経してたら着たくない。
そこに復活した第一王子が割って入ってきた。
「おまえだって「とっても素敵!嬉しいわ!」って喜んでただろ!?」
「仕方なくですよ!それ以外になんて言えって言うんですか!王子相手に!」
ドグネス男爵令嬢は真っ正面から噛み付いた。
これはこれで面白いけど、放っておくと話が先に進まなそうだ。
今日の本題はそこじゃないから話を戻そう。
「つまり、ドグネス男爵令嬢は今回の婚約破棄に異論はないのですね?」
「ありません」
可愛い顔して、きっぱり言いきったよ。
まあそうだろうな。
この子なら、王妃なんて窮屈な立場より、もっと気楽な暮らしを好みそうだ。おまけに相手がこれじゃ、余計に未練はないだろう。
「だそうです。よかったですね?殿下」
「…あ、ああ」
話を振ると、消化不良な顔で曖昧に頷く第一王子。
ドグネス男爵令嬢が泣いてすがるとでも思ってたのかな?
まあいい。ここらでいったん、話を整理しようか。
「第一王子殿下はドグネス様との婚約を破棄した。ドグネス様もそれについて異存はない。カレン様は、第一王子の婚約破棄は受け入れたけれど、婚約破棄の破棄は受け付けない、ということでよろしいですか?」
第一王子とドグネス男爵令嬢が頷き、カレン公爵令嬢が笑った。
「ええ。だって私、既に婚約者がおりますもの」
サラリと落とされた爆弾発言に、ホール内がどよめいた。
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