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夏3 蚊

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夏といえば蚊だ。

清少納言もそう書けばよかったのに。気取り屋め。
それとも昔は蚊がいなかったのかな?
そんなバカな。羨ましすぎる。

ってくだらないこと考えるくらいに蚊が多い。
なのでうちは、ラケット型の蚊取り器を常備してる。ボタンを押しながら振ると、当たった蚊を電気でバチッて殺っつけるやつ。
それが主な部屋や玄関などに一つずつ置いてある。音がしたら即殺れるように。

バチバチ音がするほどの蚊の多さにうんざりすることもあるけど、その分その後快適に過ごせるから気に入ってる。

この蚊取り器は、夕方外に出るからお盆の必需品でもある。
そういう時に殺生ってダメな気もするけど、蚊は無理。

そう。
そろそろお盆なので、準備をしている。
ばーちゃんが厳選したナスとキュウリに脚を付ける。本当に動物っぽくて笑える。他にも飾ってお供えして。
何となく今日は、氷もお供えしてみた。向こうもやっぱり暑いのかな?って思って。


お盆に入って迎え火を焚いた後は、少しソワソワする。じーちゃんや両親も今うちに来てるのかなって。

お盆の間は、ご飯にもちょっと気合いが入る。特にばーちゃんは、じーちゃんが好きだったものをたくさん作る。
おかげで僕も、じーちゃんの好物をいろいろ知っている。


お盆も最終日になった。
今日はご先祖様が帰っていく日。

夕方になったので送り火を焚く。
薄暗い中、パチパチと爆ぜる火を見ていたら、ふと怖くなった。

ばーちゃんが死んだら、これ全部僕一人でやるの…?
準備も迎え火もお供えも送り火も。
全部全部たった一人で…
そんなの寂し過ぎるよ…

そっとばーちゃんの顔を盗み見た。
ばーちゃんは、どことなく楽しそうに暗闇を見つめている。じーちゃんの姿でも思い浮かべているんだろうか。
冬に倒れたのが嘘みたいに、今は元気そう。
うん、ばーちゃんはもう元気なんだ。だからーー

まだ連れてかないで。
お願い。

あの世に帰っていくご先祖様たちに、必死にお願いした。

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