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第9章 覇王の追憶

第71話 龍の都

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 未だに辺りは邪龍のブレスの残り火でメラメラと黒い炎が燃え盛っている。
 邪龍は既に力なく大地に伏している。

「貴様...名前を何という」
「俺はグレースだ」
「マナ」

 マナも一応主人公なので一緒に名を名乗る、だがエミールは名乗らないそれを不思議に思ったのか邪龍が尊大にそして優しくエミールに問いかける。

「其方は名乗らぬのか?そなたは立派な戦士そなたの名を我は生涯忘れない、名乗ると良い」
「エミール...」

 邪龍の意外な言葉に俺たちは昔かなり驚いたものだ、もっと人間を見下しているのかと思ったが...。

「其方らは何をしに来たのだ?我の討伐という訳ではないのだろ?」

 この邪龍は意外と話の分かる奴なのだ、だからこその俺の相棒となれたのだから。

「俺たちは龍の都に向かうつもりだ」
「あのじじいの所にか?」
「そうだあの狸爺の所だ」
「気付いておったか!!ガハハ!」

 龍だからなのか豪快に笑う耳が痛いが俺もこんな風に笑ってみたいなと思うのは内緒だ。

「それなら我が連れて行ってやろう!こう見えて我は主を探していたのだ、我よりも強くそして我の力を完全に御せる存在をな」

 こうして邪龍は俺の配下になる、この時の俺は「竜かっこいい」としか思っていなかったが、この邪龍とはかなり長い付き合いになるのだ。

「配下を探してたって...この龍グレースの周りに居たかしら?」
「普段見せないからな」

 そして俺は異空間から武器を取りだした、禍々しい剣は明らかに常軌を逸した創りをしているその剣は生きているかの様で、顕現させただけで周りの魔力を吸い上げ瘴気を放つ。

「なにその....剣...体力が吸われて...」

 体力を吸われ過ぎたのかマナは地面にへたり込むこの剣はシーラが獲得したこの世界の覇王級オーバーアイテムではなく本物の【覇邪聖王神斬 刃皇ヘリド・ジュバン】だ。
 この剣は召喚しただけでかなりの魔力を消費し辺りの魔力をも吸収する、その為中々顕現させる事自体をしないのだ。
 自分だけならまだしも周りの人にまで影響があるのだから。

 俺は剣に魔力を吸うのをやめろと命令すると剣から返事が返ってくる。

「主よ!!お久しぶりです!!」
「うわ!喋った!!」

 意思を持つ剣が喋りだした事に驚きマナは俺の影に隠れる。

「あぁ丁度【時空の狭間】でお前の所に来ていてな」

 剣を邪龍の方へ向けると楽しそうに剣は笑い出す。

「あれは我がまだ龍の身の時ですな、いやはや懐かしい...」
「これから龍の都へ案内して貰う所だ」
「ならば我もお供しますぞ、せっかく顕現させてもらえたので!!」

 最近はこの剣を使う事の方が少ない、そもそもこの剣は強すぎるのだ、だからこそ覇王級アイテムに成長させたのだが...。

 覇王級アイテムのオリジナルであるこの剣は作った武器よりも遥かに利便性が悪いのだ。
 それに強すぎるが故に戦闘を行う必要さえなくなってしまう...無条件で相手の魔力を奪い取り糧とするし俺にしか見えない斬撃飛ばすし世界線を捻じ曲げ、避けたと言う事象を斬り斬ったと言う事象だけを残す、つまり、回避不可、視認不可、防御不可、の三拍子がそろってしまったのだ...。
 見えない避けれない防げない、残されるものは滅びのみだ。

 そんな危なっかしい武器を平時から使うかと言えば答えはNOだ。

 そして、そんな武器を使っているのはこの【時空の狭間】の最終ボスである【俺】自身なのだ、だからこそこの武器を喰らっても平気な程のHPとDEFが必要なのだ。
 結果シーラしかこのゲームはクリアしていない。

 俺達は邪龍の背中に乗り龍の都へ向かう、小一時間程邪龍を交え三人...二人と一振りで会話をする。
 実はこの後、この剣の試し斬りを行えるのだ、この後と言っても赤龍との対面の後だが...。

 やがて見えてきたのは遺跡のような場所だ、所々の城壁が崩れており、かつては繁栄していたことを物語っている。
 街全体が朽ちていて、筒抜けの天井や壁、枯れた井戸に、鳴る事がない教会の鐘。

 だが、そこには生命体が住んでいた、人間ではなく二足歩行をしたトカゲのような奴らだ。
 彼等は竜人、人と竜の交わった種族でありどちらかと言えば竜に寄った種族だ。

 俺たちが邪龍に乗ってきた事に驚いてかざわめきが広がる。
 大勢の竜人達が集まり赤龍が居ると言われている神殿への道を塞がれてしまった。

 俺たちは邪龍から降りると邪龍は竜人達の前に立つ。

「そこをどけ虫けらどもよ!このお方は赤龍の狸に会いにきたのだ!お前らに構ってやれる時間はない!!」

 竜人達は邪龍が敬っている俺達よりも邪龍の発言が気に入らないらしく邪龍に敵意を向ける。

 すると剣が震え始めカタカタと音を立てる。

「まったく相変わらず力量差のわからない馬鹿共には腹が立ちますね、どうぞ我をお振りください!!」

 こんな所でお前を振ったら大量虐殺なんてもんじゃない、無実の民を殺すのは俺の趣味じゃない、まぁそれが俺じゃなければ別に構わんのだが。

「お前に最初の命を下す」
「っは!!」
「そこの竜人共の足止めをしておけ、俺は狸と話を付けてくる、いいか、殺すなよ?もし一人でも殺したら即抹殺するからな?」
「お、お任せを」

 話が終わると邪龍は【龍種覇気】を発動させる、それによって神殿への道が綺麗に開かれる。

「ほんとによかったの?あの感じ殺しちゃいそうだけど...」
「失礼な!!この我がそんなミスをするはずがないだろう!!主からの命令は絶対だ!!」

 俺の持つ剣が震え勝手に浮かびあがる。

「まぁ確かに今生きてるなら抹殺はされなかったって事なのよね」
「さっきから言わせておけば...主よこの失礼な吸血鬼の小娘はどなたですか!!」

 剣だけで戦ったとしても今のマナはこの剣に勝つことは出来ない、そもそもゼルセラでも無理だろういや、シルビアと同等程の力を秘めているこの剣に勝つ方が大変なのだ。
 まぁ、破壊されないだけで戦闘行為は出来ない。だからこそゼルセラ達が負ける事は無い、その代わり勝つことも出来ないのだ。
 能力値だけで見れば圧倒的な強さをこの剣は誇るのだ。
 だからこそ、この剣の反応はもっともなのだ...ただ...。

「マナは俺の伴侶...妻....だな」

 驚いたのか剣は地面に突き刺さる。

「なんと...主にも遂に伴侶となる女性が出来たのですね....我は嬉しく思います...ですが...主の伴侶にしては少々過ぎるのでは?」
「脆弱って私に言ってるの?!勝負してあげようじゃない!!」

 俺の妻は何故剣と張り合っているのだろうか...。

「勝負だと?いいだろう!その挑戦受けて立つぞ、ではほれ、我の柄を握るのだ」
「おいジュバン!!それは...」
「ご安心召されよ、我はこれくらいで負けたりはしません」

 いやそうじゃない、お前の心配なんて一ミリもしていない。

 恐る恐る剣の柄を握ろうとする。
 俺の静止も聞かずマナは握ってしまった...どう考えてもマナの魔力が吸われてマナの負けだろうに...。

「ぐわっ!!何をする!!よせ!!!止めろ!!」

 マナが剣を握ると俺の予想だにしていない事が起きた、剣が急に慌て始めたのだ。

「ジュバンどうした?」
「わ、我の魔力が!!」

 俺が視線をマナに送るとマナはすんなりと柄から手を離した。

「主よ...我の魔力が!!我の魔力...が....」

 剣の柄を手に取ってみると、あれだけあった魔力がほとんどすっからかんになっている....それに持っていたスキルも全て失われている。
 既にこの剣は魔力を帯びない多少頑丈な剣に過ぎないのだ。

「随分な変わりようだな...何をしたんだ?」

 俺がマナに聞けばマナは素知らぬ顔で肩を竦める。

「魔力を奪われそうになったから魔力の接続を遮断して逆に全部貰ったのよ副産物付きで」

 そういい俺にVサインを向ける。
 俺の予想とは違ったがこれでジュバンに俺の妻の偉大さを教える事ができただろう。
 多少、ジュバンの方がダメージが大きい気がするが、まぁそれは後からでもどうにでもなるだろう。

 問題はマナだ...ジュバンから吸い取った能力を手に入れた、ステータスはシルビアに多少劣るくらいだ。
 そしてスキル....これが異常だ、ほぼすべての攻撃にスキルが乗っかる形に進化している。
 つまり、マナの攻撃は回避することも視認することも出来ないのだ。

 さて、ここで一つ、不可視化された魔法陣を何個も同時展開し攻撃をする。見えないし回避できないその魔法は盾や鎧を貫通し直接本体にダメージを負わせる、それは流石に反則を通り越してチートだ。

 元々のスキルが反則なのにチートスキルが合わさったらそりゃあもう手が付けられない。

 これは...ゼルセラを超えたか...?。

 これは俺にとって嬉しい誤算だ...素直にそう思えればどんなに幸せなことだろう。
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