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第9章 覇王の追憶

第67話 妹の思い

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 死の街と化し家屋から未だに消えない火が燃え盛っている。
 そんな街のかつては大通りだろうか今は道の小脇に人の死体が置かれている、血と肉が腐ったような独特な臭い、正直嗅いでいていい物では無い。
 後ろをついて行ったはずが、いつの間にかエミールは姿を消す。

「グレース!!エミールがどこにも居ないわ!!」
「あぁだがまずはこいつらを始末してからだ」

 大通りの両脇に捨てられていた死体がいくつも起き上がり大群と化す。

「すごい量...はやく倒してエミールの所に行かないと」
「【血之鋭槍ブラッドスフィア】!!」

 辺りに溜まっている血を操り何本もの槍を作り出す、その槍はマナの手の動きに合わせ死者たちを蹂躙し続ける。
 死者達を倒し終えた頃には焼けた家屋の業火を消すように雨は降り続く。
 進めば進むほど雨はより激しさを増していった。。

 大通りを抜けると何故か一軒だけ綺麗な家屋の前で立ち尽くしているエミールの姿があった。
 辺りには死体が転がっており、その剣からは真っ赤な血が地面に滴っている。
 大地に広がる血は雨と混ざり大きな血溜まりを作っている。
 両断された二つの死体をじっと見つめる。

「私の家族だったんだ...不死者アンデットになっちゃったけど...私の...大切な...」

 そっと血溜まりの中からネックレスと指輪を掴み拾い上げる。

「これね...私がお母さんに上げた聖女様の加護の掛かったネックレスと妹が聖騎士になるからって特別に上げた私の聖騎士の指輪なの...」

 声が徐々に掠れていき徐々に言葉が聞き取りづらくなっていく。
 あの時も俺は何を言ってやればいいかわからなかった。
 母親と妹は始祖の魔法から難を逃れた、だが、完全には防ぎきれず半不死者となった。
 肉体は動き続けるがそこに彼女たちの意思は残されていない。
 過去の面影を残し呻き、聖なる力に照らされてか動くこともできず口を動かすだけだ。

 だが聖なる力によって奇跡もあった、すでに知性なんて存在していないはずの妹の死体から涙が零れた、それが雨なのか本当に涙なのか、エミールにも俺にもわからない。
 変わり果てた大好きな家族を目の当たりにしてさらに自ら引導を渡したのだ。
 大好きな家族を自らの手で殺した時の心の悲しみは誰にも救う事は出来ない。

「許せない....この国を襲った魔王だけは...絶対に...」

 妹の懐から紙が落ちる、エミールがそれに目を通すとその手紙を俺たちに渡す。
 所々血で読めなくなっているが、大体の事は書いてあった。

 ―――お姉ちゃんへ

 この国は今魔族から侵攻を受けています。魔王は始祖の......です
 私は聖騎士見習いとして他の聖騎士達と城門の守備に当たっていました
 ですが、やつらの別動隊は...から来たんです。聖女様の結界を破壊して
 私は急いで家の方へ向かいましたがその時には既に魔王が通り過ぎた後でした
 家の中から魔族がお母さんを引き摺って出てきました、その時私は我を忘れて突撃し無残にも致命傷を負いました
 悔しさで視界が滲む中お姉ちゃんから貰った指輪が突然光だし傷は癒えさらに力が溢れ普段よりも私は格段に強くなれたと思います
 お姉ちゃん、あの指輪を貸してくれてあ..とう、お陰でお母さんの敵を討てたよ
 辺りの魔族は倒したけどね...たぶんお姉ちゃんとはもう会えなさそう、ごめんね
 左腕も無くなったし片方の目がたぶん潰れてる、だから、この手紙がちゃんと書けてるかがちょっと心配
 あぁまた....が来たみたい....は守るから絶対にだからもう少しこの指輪を貸して....ね

 最後に私の大好きなお姉ちゃんへお母さんを守る約束守れなくて...さい 
 エイカ

 手紙を読み終えると妹の幻影が映し出された。

 手紙を書き終えたエミールの妹はその手紙を懐にしまい剣を手に取る。
 家の入り口に立ち結界を張った、魔を寄せ付けない聖なる結界【聖之領域ホーリーフィールド
 そして、分断された魔族たちは領域に蝕まれ朽ちていく領域の外に居た魔族は結界の破壊を試みるが、その強固な意志にも似た結界を破壊する事は終に敵わなかった。
 思いが強さに変換される【聖騎士の指輪】。

 思いの強さがどれほどのものだったのかを今でも妹は展開されている【聖之領域】で証明し続けている
 家には火が放たれていないそれどころ傷さえない、聖なる領域は死者たちの進行を止め魔族を退け炎でさえも遮断している。
 エミールの妹は守り切ったのだ、もう護るべき者の居ない空っぽの居場所を...。

 エミールは妹の遺体を抱える左腕も無くその体には無数の傷が刻まれかわいい顔は酷く汚れているそんなかけがえのない愛する者、護るべき者の身体を抱えて。
 エミールは天に吠える。

 それはこの世界の不条理を恨んだのか、失った悲しみを嘆くように、或いは怒りに心が壊れないように。
 この世界を憎み恨み彼女は啼いた。
 この理不尽な世界では力がすべて、ならば大切な家族をそんな理不尽から守るために彼女は力を求めた護るべき者はもう―――在りはしないというのに。


 その後、付近の魔族を一層し、エミールの家族を丘の上に埋葬した母親が生前よく来ていた場所だとエミールは言う。
 今はもう、焼けた街しか見えはしないがきっと生前は美しい景色が広がっていただろう。
 丘の上で風に髪を靡かせながら剣を取りだす。
【誓いの聖剣】誓いを果たせずに命が果てた時もう一度ここに戻るという代物。
 かつて勇者が城に残してきた姫に誓いをたててこの剣を大地に突き立てたという。
 勇者は魔王との壮絶な戦いの末、勇者は敗れ国は滅んだ。だが誓いをたてた姫と勇者はこの剣の元に集まり魂だけは共に召されたと言う、とても悲しい伝承だが二人で召されたのなら案外幸せだったのかもしれない。

 そんな聖剣を家族の墓標の前に突き立てる、それは【誓い】最後まで共に在るというエミールなりの決意の証に他ならない。

「お母さん...待っててね...エイカもお姉ちゃん頑張るから」

 俺は誓いの内容は聞いていない、復讐、蘇生、あるいはそのどちらもなのか...俺は未だにわからない。

「私は行きます、貴方の目的はわかりませんが、またどこかでお会いするかもしれませんね」

 決意を固めたエミールに俺はあの時と同じように返す。

「俺も行くさ、俺に目的はない、だったらその旅を共とするのもまた一興だろう」
「そうですか...わたしだけでは確かに心細かったしあなた達が来てくれるなら私も心強いです」

 俺とエミールの会話を只聞いていたマナが不満そうに口を開く。

「この物語ってグレースを元にして作ってあるのよね?」
「あぁまぁそうだな、多少ゲーム仕様に変更してはいるが概ね起こった事象は変わらないはずだぞ」
「ふーん、じゃあエミールが最初の女なんだ」
「まぁ、そうだな」

 そういいマナは不満気に唇を尖がらせる。

「最初の目的地はエルフの里ね、魔王の進行があると赤龍様が予言されているの」

 そう、魔王の進軍は予言通りエルフの里だそしてそこでもまた新たな出会いが待っている。
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