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第5章 厄災と救世

第32話 学院の教師

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食事を終えたのでエミールと合流するべく転移をし覇王城の一角の訓練所と言われる部屋に向かった。
この部屋は基本的に使われておらずフリューゲルがただ掃除をしてるだけの部屋だ、なのでこの部屋をエミールの修行場として貸しているのだ。

正直、『時空の狭間』に送り出してもいいと思ったが本人がそう言ってるんだ、まぁエミールが『時空の狭間』の事を知ってるかは知らんが...

訓練部屋の扉を開けるとエミールの荒い息遣いと「もう一回お願いします!」という声が聞こえてくる。

中々練習に身が入っているようだ、現在は槍の練習をしており中々さまになっている。
だがやはりチェイニーの方が圧倒的に実力が上の様だ。

少し見ていると二人とも俺に気付いたのか手を止める。
だらだらと汗をかいている様なのでタオルを生み出しそのままエミールに投げる、ついでに水も追加だ。

渡されたタオルで汗をぬぐい首に掛け渡された水もぐいっと飲み干す。
さっぱりとした顔でエミールが話しかけてくる。

「あんたもようやく起きたのね」

ようやくとはなんだ!まるで分ってた見たいで腹が立つ...

「先に風呂でも入ってくると良い、その方がお前も気持ちよく街を歩けるだろう」

それを肯定し風呂場へ走っていくエミールを横目に俺はチェイニーと世間話をした。

話した内容はエミールの修行の進捗についてだ、双子の二人ほど強くはなってないだろうがある程度は成長してると思ったのだ。

だが、現実はそう甘くは無いようだ、とゆうのもまだ修行2日目だからか技の覚えはいまいちらしい、まぁそれが普通なんだが一朝一夕で強くなれたら苦労はしない。
俺だって最初の頃はステータスが高いだけで状態異常やら精神操作やらいろいろ受けたものだ。毒にも蝕まれたし、まぁそれもすべて高いステータスがあったからこそ耐えることが出来たのだが。

魔法だって最初から使えた訳じゃない、シーラと出会いようやく初級魔法を覚えたのだ、それも一発受けてそれをシーラに解析させるというかなり脳筋思考で得たのだ。
それを一般の奴が出来るとは思わない、いや、思えない。
初めてあこがれた魔法は隕石を落とす魔法だった、あのかっこよさには抗えなかった、その後に手を付けたのが『死霊系魔法』アンデットや即死魔法などの魔法の類だ。
異世界に来た以上アンデットは見てみたい、特にスケルトン、どうやってあれは立って居るのだろうか、仕組みを詳しく知りたい。

物思いに耽っていると風呂に入り、身だしなみを整え終わったエミールが合流をした
修行してた時は髪を後ろで結んでいたが、今はそれを下ろし外行きの髪型になっている、やはりこの髪形じゃなきゃ少々落ち着かない
この際、後ろ結びのエミールにときめいて居たのは内緒だ。

今日は歩いて出かける、エミールもこの街を見て回りたいようだ、これじゃあまるで、『デート』だ。
空には青空が広がっており、まさに散歩日和。

 この街は、と言っても自分の街だが、様々な種族が街になじんでいるようだ、街を歩いていると様々な人から話しかけられる、例え挨拶程度でも、気軽に話しかけてくれる事は素直にうれしい
亜人の子供達は元気よく手を振っているのでそれを返すように手を振り足を進める

「こう見るとほんとにあんたって王なのよねぇ」

「俺を王だと思うのならその口調は治したほうがいいんじゃないか?」

「私だって公の場ならしっかりと敬語くらい使うわよ、今は私の従順な下僕でしょ」

否定したいが否定できない...昨日の勝負に負けた以上今日だけは1日従わなければならない、だが下僕になったつもりはない、願いをなんでも聞くとは言ったが覇王としての格を下げるつもりはない
なので少しだけ威圧的に一言告げる

「俺を下僕と呼ぶのなら、覚悟しておくことだ、この約定が切れた時にどちらが地獄を見ることになるかよく考えて発言をするんだな」

「じょ、冗談よ」

慌てて言い直す、よしよし、ひとまずこれで理不尽な要求はされないだろう、もしそれでも理不尽な要求をしてくるのであれば、意識を眠らせた後着せ替え人形として色々な服を着て貰おう、どんな服がいいかなぁ
とか、考えているが決して口には出さない、この関係でいい、壊れてしまうにはまだ早い。

その後、少し歩いていると一人のエルフが話しかけてくる。

「なんだか懐かしく感じてしまいますね、覇王様」

話しかけてきたエルフの正体は長老のチェルディス・ウッティンだ。

最初だけは他愛もない話をしたが後半は業務の事についてだ、エルフは物流関係の商売や交易などを担当しており今は作物などを育てるための土壌を作り上げている所だそうだ。
フレイヤの特殊スキルのおかげで食料には困らないだろう。
交易のできる範囲はまだ限られているもののメインの取引となるノエル王国との交易はきっと上手く行くだろう。
それと、エルフのお姉さん達が経営する飲み屋も出来たそうだ。今度こっそりと行かねば...

今回の外出の目的は学院の先生方への挨拶周りだ、ゼルセラも連れてきた方が良かったかもしれないが、挨拶くらいなら大丈夫だろうと言う安易な考えだ
その後は、エミールとお出かけだそうだ、デートに行きたいのならばそういえばいいのに素直じゃ無い奴だ―――まったく...かわいいやつだな


その後もしばらく歩き自分の領土をでて王都へと入る、そこは一目で判るほど大勢の人で賑わっている、民兵だけで戦争をした場合でもこちらが圧勝できるだろうが、やはり街としてはこちらの方が上かもしれない
歩いていても頭を下げる奴はいないから気楽に歩くことが出来る、いずれは自分の街もこうなるだろうと願っているがそれは難しいだろう。
街の活気自体は大丈夫だろうが自分の街は良くか悪くか忠誠心がありすぎるんだ、強き者が絶対の世界に居たのが原因だろうが徐々に慣れていってもらわないと...。

さらに歩き続け大きな門の前にまで辿り着いた、生徒の姿は無いがここが学院なのだろう
この学院は魔法科と武術科と総合科で分かれており魔法科のトップは『リーエン・シュラウド』四騎士の一人で勝手に弟子になった女だ。
何を教えればいいのかわからないからどうしようかと悩んでいるのだが...最終手段としてあの修行部屋に閉じ込めとけばいいだろう。

学院に入り魔法科の棟に行くとすぐにリーエンが迎えてくれた、よくここを嗅ぎ付けたもんだ...感心感心。

「師匠よくぞおいでくださいました、それとあの件、手筈通りに...」

あの件と言われても何の事だかわからないが、ここで自分がわかってないと話がややこしくなるので適当に返事をしておく、この様な時に使える常套手段は褒めることだ。
つまり―――

「うむ、よくやった」この一言だ。

その後はリーエンの案内で学内を歩いて回った、書庫、食堂、研究室、実験室、その他も様々な部屋が用意されている
授業で使うだけの部屋だけではなく生徒たちが自分達で研究したい事する為の部屋が用意されている、話を聞いた感じ部活のようなものだ、風魔法を研究する会、とかその中で一番異質だったのが

―――剣姫剣術研究会、エミール様研究会...なんだこれ?

隣でエミール自身ひどく動揺している様なので本人公認の研究会ではないようだ、たしかに自分のファンクラブは恥ずかしいよな...

様々な研究会の部屋を抜けるとリーエンが歩みを止め案内はここで最後とばかりに扉の前に立つ。

「ここには学院指導員達が集まっております、多少不安の種がありますが概ね大丈夫だと思われます」

その不安の種が気になるんだが...何かあればエミールが何とかするだろう、アホに見えるが外面はしっかりしている...はず。
リーエンが扉を開くのでそれに続き堂々とした歩き方で中に入る。
そこには、多くの教師達が既に席に着いていた、入って思ったことは一つ、あまりにも空気が悪い

そんなに俺は嫌われているのか?

はっきり言ってコミュ力が無い俺が教師と話をしたら馬鹿がばれそうな気がする...ボロは出さないようにしないといけないプレッシャーが圧し掛かる
ここは俺から何か言った方がいいのか?と考え深呼吸をし言葉を発しようとした瞬間に横から口を出される。

「こんにちわ!私はエルメン・フォン・テティスって言うのこれからよろしくお願いしますね!学院長!」

うお!?俺の勇気が無駄に...少し虚しく思いながらも声の方を見ると明るい性格が似あいそうな元気な女性が満面の笑みで話しかけてきていた。
すごいなこの人、と思う反面何か裏がありそうだな、という二つが即座に頭に浮かぶ。

対人の会話だと相手の思考が全く読めない、純粋な気持ちなのかそうでないかだ、このような時の対処法は既に考えてある。
それは―――

―――相手の心を読む。

最終手段、もしくは反則行為だろうがやむを得ない、相手の心の叫びを見るとしよう


(あの‼クソ無能共が!どうしてこいつの強さがわからないんだ!せめて私だけでも嫌われないようにしないと、まだ、死にたくない!他の無能共の命なんてどうでもいい)

え?ちょっと待って、この人怖い。

屈託のない笑顔の裏でこんな事考えてんの?それに周りの教師仲間の事を『クソ無能共』とか言ってたけど...もしかしてこの女性は相手との力量差がわかるのか?

「お前は俺との力の差がわかっているようだが、怖くはないのか?」

「怖い?とても誠実そうだったので、そんな事おもってませんよ~」
(怖いに決まってんだろこのバカが!!)

この人、頑張って生きてるんだなぁ...ここまで変化があると逆に面白くなってしまう、つい口元が緩んでしまったくらいだ。
それを不思議に思ったのかエルメンが首をかしげる、これも演技だな...。

「いや、他意はない...ただ『バカ』と言われたのは久しぶりだったのでな」

「え?」
(え?)

この時初めて表と裏がシンクロした、そのことに少し感動を覚えてしまう。

「どうゆうことですか?」
(え?まさか心を読まれた?ま、まさか...そんなこと...)

「今考えてる事が正解だ」

「あの...そうゆうつもりじゃなかったんです」
(あぁ死んだ...ずるいよ...心読むなんて...ごめんなさい...)

困惑した表情を浮かべているが内心はもう折れているようだ...。
そんなつもりじゃなかったんだが、正直、気に入った、そもそも、殺すつもりなんて一ミリたりともなかったんだから。

「そう悲観するな、殺すつもりなんて最初から微塵も無い、気に入ったぞ、エルメン君はどこのクラスを担当しているんだ」

安堵の息と歓喜の声が聞こえてくる、もちろん心の中の叫びだ

「私は魔法科のSクラスを担当しています」

ほう...Sクラスは魔法科のトップクラスつまりはこの学園ではかなりの実力者と言う事になる
俺とて最初からすべての魔法を習得していた訳ではなく実用性のある魔法しか覚えてこなかった、自分の人工知能であるシーラが全知全能に進化した時にすべての魔法を習得した訳なんだが
すべての魔法を記憶しているわけでは無い、いや、脳の片隅にはあるのだが、使う気にならない物ばかりだ。
このエルメンという女性は数多くある魔法を他よりも多く収めてきている、恐らくリーエンと同等の実力者だろう。

魔法科はキーラが通う学科でもあり恐らくこのエルメンが担当になるだろう、ちなみにシーラやミーシャ達は総合学科だ、武術も魔術もほぼ極めている彼女らには普通の授業は退屈だろうそれでもミーシャやマーシャには普通の生活も送ってもらいたいそうゆう思いから学院に通わせることになった

「ならば俺の妹の事を任せるとしよう」

「え?は、はい!」
(責任重大じゃん...やりたくないよぉ...)


心の中でこんなことを言ってるがきっとやるときはやる子なのだろうと思い話を変える

「総合科のSクラス担当は居るか?」

「はい、ここに居ります」

声を上げたのは眼鏡をかけた薄紫髪のイケメンな男だったきっと優秀なのだろう
魔法科と武術科は分かるが正直総合科はよく分からない魔法を極める魔法科と武術を極める武術科ならば総合科は両方極めるのかそれともどちらも中途半端で終わるのか、そこだけが疑問だった。

「総合科はどんな所なんだ?」

「はい、総合科は戦闘に特化した訓練を修めます、ですから魔法も戦闘で利用できる魔法を習得できる様な訓練をし武術も同様です、魔法使いが身を守る術を学ぶ、最終的目標としては魔法戦士と言う職業に近いでしょうか」

「なるほどな、魔法を全体的に学ぶ魔法科と肉体的な強さを求める武術科、そしてそれらを戦闘に特化させた総合科、というわけだな」

「はい、おっしゃる通りです、お時間が許すのなら総合科の私が相手になりましょうか?」


はっきり言って失望した。
戦闘に特化させたクラスのトップに居る男の力量がわかってしまったからだ、それを察知したのか近くに居たエルメンがひどく動揺し心の中で罵詈雑言を言い続けている。
賢いものならばエルメンの様に取り入ろうとする、だが力量差がわからない者、それも自分は強いと思っている者は挑んでくる、それがどれ程愚かな事かも知らずに。

「それには及ばん、お前の力の底が知れた所だ、せいぜい、俺の妹に格下だと思われない事だな、立場が逆転するぞ」

「そ、それはどうゆう...」

「簡単だろ、お前が教える側から教わる側になると言う事だ」

そっと脳内でシーラにこの男に教わることがあるか聞いてみる

(あるとすれば、愚者がどのような考えを持っているかぐらいですかね、ミーシャ達に悪影響を及ぼす程の愚者であるのならば、私が変わった方がマシです)

シーラの言う通りだ、最終手段としてはシーラを教師にするかゼルセラを教師にするか、ふむ、考えても仕方がないので話題を変えよう
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