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第二章 闘技大会編

閑話 ただ一人の蒼き龍 / 家畜扱いの巫女

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 彼は覚えていない。私とあった初めての日を。そして私は鮮明に覚えている。彼の言葉を、彼の笑顔を・・・。

 時は約40年ほど戻る。私は忌子として生まれた。赤い龍燐をもって生まれるはずの龍人なのに、私だけは青かった。赤と対をなす青色だ。
 別に迫害されたり、ひどい目にあったわけではない。ただ皆、私を見る目に映るのは恐怖の感情だった。
 同世代に友達はいない。両親もどこか、私を腫れものを扱うようになっていた。

 それも仕方がない事だろう。なにせ私の属性は氷。なにせ熱いところが苦手だ。火山なんかに遊びに行ったら倒れるし、お風呂は暑すぎては入れない。ぐつぐつ煮えたぎる湯舟に近づくだけで頭がクラッとしてしまう。
 同じ龍人なのに、生活に馴染めない。そんな私が孤立するまでは時間がかからなかった。

 そんな最中、勇者がこの世界召喚された。つまりは魔王が発生する。龍人は元々魔王討伐には関与していなかった。神の血を引く種族である龍人は、あまり世界に関与しないというしきたりがあった。

 世界に関与せず、ただただ孤立して生活する龍人族。そもそもその存在を知る人すら少なかった。

 しかし・・・こんな辺境に、突如として現れたのがナジリ カイという勇者だった。


「おお!ここが幻の種族・・・龍の名を関する人種がいるところか!!たのもー!!道場やぶりだ!!」

 村の門の外で、そんな馬鹿なことを言っていたそうだ。







 その後一番強いやつを出せという辺鄙な人間に、リュウコ様が相対した。
 村の人たちは興味津々で、リュウコ様とカイさまの戦いを見るために集まっていた。私もその一人だ。
 龍人族は強い人が偉い。リュウコ様は当時も最強とされていて、数百年ほど彼女に勝てる人はいなかった。

 しかし・・・それがその日、覆されたのだった。それも同族ではなく、明らかに劣る種族に・・・。

 刃の潰れた大剣を携えた男は不敵に笑い、龍人と遜色ない身体能力で戦った。リュウコ様も楽しそうに戦っていた。全力で、ブレス攻撃も魔法も使って全力だった。
 リュウコ様の攻撃を受け流し、躱し、ある時は前に接近して攻撃される前に潰す。

 あれが人の技術。無駄のない洗練された動き、最初は勇者が押されていた、しかし、時間が経つにつれて、次第に勇者が押し返していき・・・数時間後、勝ったのは勇者だった。

 勝ったカイ様はもちろんのこと、リュウコ様もどこか嬉しそうだった。
 食い入るように見ていた戦いが終わり、つい興奮して、私なんかがついついリュウコ様と勇者の元に駆け寄ってしまった。どうしても一言いいたくなって・・・。

「あの・・あの・・・」
「ん?赤ん坊か?」
「お?こいつは・・・」

 うまく言葉にできなかった。それでも何とか言葉を伝えようと・・・。

「二人ともかっこよかった・・・です」
「そうか。ありがとうな!・・・蒼い龍人とかいるんだな・・・」

 迂闊だった。嫌われ者の私が・・・はみ出し者の私がつい声をかけてしまった。
 しかし、勇者が私に向ける視線は、恐怖や侮蔑ではなく・・・憧れ?興味?目を輝かせて私を見ていた。
 
「かっこいいなー蒼い龍。赤もテンプレでカッコいいが、蒼もなかなか・・・!」
「かっこいい・・・?」
「おう!かっこいいじゃねえか蒼!強そうだし。おお!冷たい!いいなぁ~一家に一台欲しいなこの子」

 乱暴に頭を撫でられる。でもそれが全然嫌じゃなくて・・・。そっか。私はかっこいいんだ。

「つよくなったらまたあえる?」
「そうだなー。俺が生きてたら会えるかもしれないな。強くなったお前とも手合わせしてみたいな」
「わかった!がんばる」
「おう!頑張れ!・・・リュウコだっけ?こいつの面倒頼むよ。こいつが強くなった姿を見てぇな」
「旦那様の頼みなら仕方ないな。それに・・・私もこの子の力を見たいしな」
「旦那様って?え?ナンデ?」
「強きに従うのが掟だ。お前俺に勝った、俺お前の物」
「どこの原住民だよ。やめろよな、魔王討伐が終わるまでそういうのは無しだからな」

 そっか。みんなと違う私は・・・かっこいいんだ。特別なんだ。

「りゅうこさま」
「ん?なんだ?」
「わたしがゆうしゃにかったら・・・ゆうしゃはわたしのもの?」
「ははははは!!そうだな。お前が勝ったらお前のもんかもな。それにはまず俺に勝たねぇとな!」
「いまはまだむり。でもすぐかつ」
「いいねぇ。数百年もしたら、負けるかもな~」

 それから私は強さを求めた。龍人は体が成長するのが遅い。人の10倍は遅いだろう。200年ほどでようやくある程度の身体能力を得るくらいだ。
 だけど・・・どうしても彼が生きている間に強くならなくてはいけないのだ。

 リュウコ様の付き人として、毎日戦闘訓練に明け暮れる日々。どうしても軽くあしらわれてしまう。
 それもそのはずだ。なにせまだ未成熟だ。身体能力でかなり劣ってしまう。
 リュウコ様が勇者について魔王討伐に行くといい、村の反対を押し切り、一人出て行ってしまった。
 その間も私は鍛えた。そしていつしか、村の中でリュウコ様以外に私の相手を出来る人はいなくなった。

 リュウコ様は、片腕を無くし、魔王討伐から帰ってきた。その表情はどこか悲しげで、いつも強気なリュウコ様が、泣きそうな顔でこちらを見ていた。

「すまねぇなレイ・・・。俺が弱かったばっかりに・・・カイは壊れちまったよ・・・」

 それだけ言って、リュウコ様は引きこってしまった。片手では不便とのこともあって、私はリュウコ様の世話をすることになった。

 塞ぎ込んでいた彼女が元気に戻ったのは、エルというハーフエルフの少女を鍛えてほしいとやってきたルリエというエルフが来てからだった。
 エルの言う少女は自分よりも幼く、目は死んでおり、感情というものが抜け落ちたかのような子だった。
 しかし・・・その才能は凄まじかった。圧倒的な魔法の物量に、洗練された技術。身体能力では圧倒的に劣る彼女だが、私と対等に渡り合っていた。
 それから毎日か彼女との戦闘訓練に明け暮れ、リュウコ様はそれを楽しそうに見ていた。
 そんな無表情な彼女も、数年後にエルフの森に帰ることになり、そのころには私もエルもかなり打ち解け合っていた。そして最後の夜。

「今までありがとうございましたレイ」
「ううん。こちらこそ」

 星空の下、二人で言葉を交わす。

「エルは強くなった・・・でもなんで強くなろうと思った?」

 不思議だった。エルフの森で暮らすだけなら、そこまでの強さはいらない。なんでそこまで強くなりたいのだろう?

「お母様に言われましたから。私はエルフの森に戻り、花嫁修業を一年した後・・・勇者カイ様の元へ送られるのです」
「え?」
「変ですよね・・・まるで私は勇者様への貢ぎ物です。嫌だと駄々をこねえるわけでもなく、不思議と従ってしまう。そんな自分が嫌になりますよ」
「ず・・・ずるい!」
「へ?」
「私もカイの元に行きたいのに!エルはずるい!」
「ええ・・・会ったことあるんですか?」
「カイは私を救ってくれた人。強くなったら会ってくれるって言ってたのに・・・」

 今だリュウコ様には勝てないままだ。だから半ば飽きらめてはいた。人間の寿命は短い。私がリュウコ様に勝てる頃には、当に亡くなっている。

「そ・・・そうなんですね。悪い人ではなさそうでよかったです」
「エル。私もすぐ行くから」
「はい?」
「なるべく早くリュウコ様をぶっ飛ばして行くから・・・それまで何とかカイを死なない様にして」
「ええ・・・」
「お願い!!」
「分かりました・・・なるべく頑張ってみます」

 そして私はエルを見送り、その日から毎日リュウコ様に戦いを挑む。
 片手がない癖に隙がなく、惜しくもまだ勝てない。それでも・・・。

 待っててねカイ。すぐに会いに行く!!


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 東国。海に囲まれた小さな島国。元々は獣人がひっそりと暮らしているだけの何もない島だった。
 お腹が空けば海に入り、眠くなれば木に登り眠る。そんな自由奔放な暮らしをしていた獣人の島であった。
 そんな何もない島は、とある勇者様によって変わった。まず集落ができ、村になり、町となり、都市となり、いつしか国となっていた。
 すべての文化が一気に近代化していき、裸でただ己の本能に従って生きていた獣たちは、いつしか人と呼べるほどの知識を得て、人らしく暮らし始めた。

 そんな獣を人に昇華した勇者様を神と崇め、その血を引くものを巫女と呼んだ。勇者様はは黒目黒髪で童顔だったらしい。血が濃いとその特徴が現れる。
 巫女だからと言って、権力を持つことはないが、象徴として祭られることはある。

 私、東雲シノは赤目黒髪童顔である。神殿という巫女を匿う場所に住んでいる。よく言えば保護、悪く言えば軟禁されている。

 神殿には約100名の巫女がいる。男性の方は30名程度しかいない。ゆくゆくはこの男性30名に対して、巫女100人が当てられ、子をなし、勇者の途絶えないようにする。それがこの国のしきたりである。
 
 生まれた瞬間から巫女として保護され、将来結婚する男性も決められており、なんともつまらない人生だと、シノは思っていた。
 ある程度の自由は許されるが、それも神殿内だけ。神殿の外に出ることも許されない。
 そしてとうとう、私も子をなさなければならない歳となった。決められた男性と事をなさなければならない。
 勇者の血を引いてるだけあって、男性側は綺麗な顔立ちをしている。しかし・・・性格は終わっている。傍若無人で、女性を道具のように扱うし、高慢的な態度で嫌々女性を抱くのだ。ひたすら甘やかされて育てられた彼らは、自分こそが神だと、信じて疑わないのだ。
 私だって嫌だよ。でもしきたりだから仕方ない。そもそも何の力もない少女に何ができるというのか。

 まぁ二人ほど産めば、町で自由に暮らせるとも聞く。狐族である私の寿命は、獣人族の中ではかなり長い。ならば・・・10年ほどは我慢しても・・・そう思っていた。

 あの出会いがあるまでは・・・。






 
 とある日私は神殿の花壇で花の世話をしていた。晴れた日での出来事だった。
 お花をいじるのは私の唯一の趣味だ。季節ごとに違う花が咲き、鼻をくすぐるいい香りが心を癒してくれる。
 そんな私の幸せな時間をぶっ壊す人がいた。

 ダンッ!!と着地音がしたかと思えば、フードを深く被った人物がそこに佇んでいた。

「え?誰?」
「お?第一村人発見~・・・やべ」
「し・・・侵入者!?誰k・・・ムグッ・・・」

 いつの間にか背後に立たれ、口をふさがれる。

「落ち着いてくれ・・・。俺はちょっとこの国を建国した勇者の情報に用事があるだけなんだよ・・・」
「んーんー!」
「ああー・・・こんなにすぐに見つかるとはなぁ・・・どうしたもんか・・・仕方ない。予定変更だな」

 なんなんでしょうこの不審者は、暴れているのにびくともしないしっ!!

「お姫様・・・いや巫女様か?ちょっと攫わせてもらうわ」
「んー!?」

 スッと足を掬うようにもたれ、お姫さま抱っこされる。そしてそのまま身長の5倍はあるであろう塀を軽く飛び越え・・・私は初めて神殿の外へ・・・攫われてしまった。






「で?カイ。これはどういうことや?」

 元魔王討伐軍のニャル様が腕を組んで、正座をしているフードの男を見下ろしている。

「いやぁ・・・ははは。つい気が動転して?」
「あほか!巫女攫ってどうすんねん!?いくら勇者や言うても、取っ捕まったら殺されるで!」
「まあその時は力づくで・・・」
「はぁ・・・すまんな君。こいつは見ての通りあほやねん。明日には帰れるようにするから堪忍したってな」
「は・・はい!」

 ニャル様は有名人だし、憧れの人である。赤目に青い髪の童顔だ。耳は魔王戦でなくなったとかで、フサフサのしっぽがせわしなくフラフラと動いている。

「どうしたんだニャル?心なしか喜んでる?」
「そ・・・そないなわけあらへんやろ!!巫女誘拐してきて、喜ぶ奴がおるかい!」
「そう言えばこの子・・・若い頃のニャルにちょっと似てるな。目つきとか・・・何よりこの狐耳が・・・」
「気のせいや」
「そうか?そう言えば君。名前聞いてなかったね」
「あ・・・はい。東雲シノ。死んだお母様から貰った大事な名前です」

 巫女の子は、数年したら神殿に預けられる。物心がついたころには、神殿にいた。親の顔なんて見たことはない。
 私の親は死んだと聞いている。両親ともに魔物に襲われて・・・。

「ふーん。東雲ねぇ・・・どう思うよ。東雲ニャルさん?」
「苗字が同じ人なんていくらでもおるわ。変な勘繰りはやめぇ」
「強情な奴だな・・・まあいいやシノにお願いがあるんだよ」
「はぁ・・・」
「神殿の事を教えて欲しいんだよ。あとは君の知ってる勇者様?の話も詳しく」
「別にいいけど・・・何が聞きたいの?」

 それから私は彼に色々話した。神殿での内部状況、勇者様の伝承、建物の構造などなど。
 彼は真剣に聞きつつ、メモ用紙に何か書きこんでいた。
 後、何故かいつの間にかニャル様の膝の上に座らされ、後ろから抱きしめられていた。恐れ多い・・。

「ありがとう。大体わかった。あとニャルはさっさと認めろよ。シノはお前の娘さんなんじゃねえの?」
「え!?」
「ちちち・・・違うわ!!」
「いやいや。なんでナチュラルに甘やかしてんだよ・・・初対面でその距離感はおかしいからな?」

 ええ!?かの英雄ニャル様が、わわわ私の母親!?
 ギュッと後ろから力強く抱きしめられる。お母さん?

「ああ・・・巫女は娘との縁は切らないといけないんだっけ?しきたりとかで・・・くっだらね。この国を建国した勇者も、そんなこと望んでないだろうに・・・よし!気に入らねぇからぶっ潰すか」
「あぁ・・・カイが嫌な顔してるわ・・・ろくなことにならん奴や・・・」
「お母さん?」
「っ!?ちち違うって言うてるやろ?可愛い子を見るとめでたくなる病やねん。何にも言わず撫でられとき!」

 ニャル様に頭を撫でられる。言われたとおりに黙って撫でられることにした。気持ちいい。
 そしてフードの男はいつの間にかいなくなっており、私はニャル様の気が済むまで撫でら続けた。

 夜になり、ニャル様の作ったご飯を食べ、一緒にふろに入り、一緒のベットに入った。
 ベットでニャル様に抱き枕のようにされていたが、悪い気はせず、何なら少し心地よかった・・・。

 ただ、終始外が騒がしかったのが気になった。






 翌朝、ニャル様の作った朝ごはんを食べる。白米、味噌汁、焼き魚に納豆。オーソドックスな東国の朝ごはんだ。

「美味しいよお母さん」
「そうか。それはよか・・・お母さん違うからな?」

 ニャル様は動揺して手に持ったコップが震えている。うん。この人私のお母さんだよね。
 死んだと聞いていたお母さんが生きていた。しかもこの国の英雄であるニャル様だ。誇らしくない訳がない。

「お母さん。お父さんも生きてるの?」
「おおおお母さんやないって・・・あんたも巫女ならわかるやろ?」
「そういうことかー・・・」
 
 つまり、勇者の血を引いた誰かとの子なのだろう。要はただの種馬。神殿を出た時点で関係性はなくなったのだろう。

「お母さん、魔王討伐の話とか聞いてもいい?」
「お母さんやな・・・まあええか。魔王討伐言うてもな、私は運よく生き残っただけや。あと数センチ攻撃がずれてたらしんでたやろうな。魔王は当時の勇者が一人で倒した。私ら魔王討伐軍なんか邪魔でしかなかった」
「そんな・・・」
「英雄言われたかて、そんなもんやで?疲労困憊で国に帰ってきたら、子供産めとか言われるしな・・・散々な人生やで。まあしっかり休養して、一人だけ産んだら追い出されたけどな。ほら。私耳ないやろ?欠陥や―いうてな」

 はははは。とお母さんは笑う。
 そんな・・・頑張った人をそんなふうに扱う神殿なんて、潰れてしまえばいいのに・・・。

「そないな悲しそうな顔したらあかん。せっかくの可愛いお顔が台無しや」
「でも・・・」
「暴走するこの東国を、もうだれも止められへんねやろうな・・・。今回の魔王討伐も参加させへんらしいし・・・建国した勇者様が、今のこの国をみたら、どう思うんやろか」

 前回の魔王討伐で、少なくない数の巫女が亡くなった。それを危惧して、今後魔王討伐には参戦しない。そして・・・東国の鎖国を決めたそうだ。
 
「あれ?そう言えば鎖国状態のこの国に、なんで普通の人がいるの?」
「あー・・・あいつはそのな・・・」
「ただいまー!!」

 バンッ!と大きな音を出し、玄関の扉が開く。開いたドアの先には先日私を攫ったフードの男。

「一晩も何してたんや・・・」
「ちょっと勇者の名前を使っていろいろとぶっ壊しに行ってた」
「勇者?」
「言うんかい!・・・シノ。こいつはカイ・・・やなくて今はケンシンか。今回の魔王討伐に行く勇者や。ただのあほや」
「ええー!?」
「勇者に向かってあほとは失礼な!」
「はいはい。お偉い勇者様。朝ごはん食べるんか?」
「いや、ここでやることはもう終わったから、すぐ出発するわ・・・見つかると面倒だし」
「いま最後にボソッとなんか言うたか?」
「言ってないぞ!あと・・・シノ、ニャル。もう堂々と親子やっていいぞ。そういう糞みたいなしきたりは俺がぶっ壊してきた」
「「はい?」」

 どういうことだろう?一晩で何を壊してきたのだろうか?

「後始末はメイとニャルに頼むわ・・・。そう言えば神殿で聞いたんだが、シノは回復魔法のスペシャリストなんだってな」
「え・・・まぁ」
「だったら今度の大会出てみないか?お友達も増えるだろうしな。こんな閉ざされた世界に籠ってないで、いろいろ見て回ったほうがいいと思うぞ」
「でもそんなこと許されないし・・・」
「誰からの許可もいらない。お前がやりたいならやればいい。俺はそう思うぞ!・・・と長居するのはやべぇ・・・じゃあな!また会おう!!」

 そういうとケンシン?は一瞬で姿を消した。いろいろと意味は分からないが・・・私はどうやって神殿に帰ればいいんだろうか・・・。帰らないと怒られるのに・・・。

「ああ・・・嫌な予感しかせぇへんわ・・・とりあえずシノ。神殿に向かおか・・・」
「うん」

 お母さんと手を繋いで神殿に向かう。もうすぐまたこのぬくもりが消えるとなると、少し寂しいが、そういうものなのだからと納得してしまう。

 しかし・・・そんな色々考えていたことは、全て吹っ飛んでしまった。
 

 そう、まるで今目の前にある神殿のように吹き飛んでしまっていた。


「あれ?こんなところに廃墟なんて有ったっけ?」
「あはは・・・おかしいなぁ・・・確か昨日までは神殿があった様な気がするんやけど・・・」

 目の前には廃墟。建物が修復不可能なほど壊されており、住んでいたであろう巫女の姿は一人たりとも確認できなかった。

 そして意志消沈して震えている人たちが数名。完全に目が死んでおり、この世の終わりかのような顔をしている。

「あのどあほーーーーーーーーーーーー!!どないせぇっちゅうねん!!!!!」

 お母さんの声が、空に響いて溶けて行った。



 後日談。
 神殿が廃墟になってから数日後、どうやら巫女達はお母さんの元にそれぞれ帰ったらしい。意志消沈していた人たちは療養所で静かにしている。
 王都からメイ様が転移魔法で東国に訪れ、悪しき習慣の証拠を提示し、東国の処遇は王国が受け持つことになった。勇者が出した被害を補填するとともに、交易を復活させ、東国を監視するために監査官が数十名この国に滞在することになった。

 結果から言うと、勇者至上主義は消え去り、各々が自由に暮らしていけるようになった。
 しかし、勇者至上主義が消え去るまでは数年はかかるとみられ、結局今回の魔王討伐、しいては勇者との接触を当分禁止するという。

 あと、鎖国によって封鎖されていた転移魔法陣が解放されたことで、お母さんの友人たちが来てくれた。
 お母さんの境遇を知るや否や、酒盛りが始まって、ひたすら勇者の愚痴をひたすら言い合っていた。
 そして・・・。

「私はレイ。龍人」
「エルです。ハーフエルフでカイ様の妻です」
「東雲シノ。獣人だよ・・・ってエルはもう夫がいるの?」
「ええ。愛しの夫がいますね」
「エルはずるい。私も大会で優勝したら妻になる」
「させません」
「エルは出る大会が違うから無理」
「くっ・・・なんなら今から総合の方に・・・」
「だめ。約束破るの?約束破るような人はカイの傍に居る資格はない」
「くっ~~~!何なら今ここで決着をつけますか!?」
「上等」
「待って待って!?なんでいきなりケンカになるの!?」

 突然立ち上がり、喧嘩を始めようとする二人。もちろん止める。

「「この雌にわからせないと」」
「まぁまぁ落ち着こうよ。ほら私に免じてね?」
「むぅ・・・」
「こんな喧嘩っぱやい人を好きでいてくれるのかなー?」
「むむ・・・」
「仲良くしよ?きっとその方が喜んでくれると思うよ?別に妻は一人しか持ってはいけないって決まりもないんだし」
「今日は見逃してあげましょう」
「こちらのセリフ。シノに感謝すればいい」
「あはは・・・。そうだ!エルにお願いがあるんだけどさ!」
「なんでしょう?」

 私にちょっとおかしな友達が出来た。そして私はエルにお願いし、一緒に王都に飛んでもらうことにした。
 もちろん大会に出るためだ。ケンシンが言うように、私はいろんな景色を見に行きたくなった。
 そして、ケンシンと旅が出来たら、きっと楽しそうだし。それがたとえ魔王討伐という危険な旅であっても・・・。
 この国をぶっ壊してくれたことには感謝してる。彼の事を考えると心拍数が上がる。不整脈だろうか?
 彼と再会することにワクワクしつつ、新しくできた友達と交友を深めた。
 
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