上 下
12 / 30
第二章 闘技大会編

近接部門決勝戦

しおりを挟む
 控室にてストレッチを始める。相棒である大剣は、刃は落としてあるものの、しっかり手入れしてある。
 コンディションは上々。テンションは最高潮。人族で最強を決める戦いだ。上がらない訳がない。

 大歓声が、控室からでも聞こえる。係員が扉を開ける。

 
 さて・・・行こうか!!







『紳士淑女の皆様!これより始まりますは、世界最強の人を決める戦いです。近接魔法なしと言う縛りはありますが、逆に言えばそれこそ技巧の極致。ここに立ち会えたことを、私は感謝しております。
 それでは選手入場だ!!まずはこの方。
 二刀の刀を変幻自在に操り、その美しき剣はまさに芸術!彼女の舞うような剣技には、誰もが魅了されてしまうでしょう!今日はどんな美しい剣を魅せてくれるのでしょうか!!
 剣姫!メルティィィィー!アルバァァァトス!!!』

 割れる様な歓声と共に、メリーが姿を現す。
 凛とした目に、緊張などとは無縁かのように足取り軽く。舞台の上に立つ。


『続いて選手の入場だ!!ある意味一番有名で、そしてこの世界の救世主!
 歴史上、召喚されて1年で、ここまで戦える勇者がいただろうか!豪快な剣捌き、あの大きな剣を易々と振る腕力。まさに剛健!自らを剣の神と称するだけの事はある!!今日も相手を寄せ付けず、一刀両断してしまうのでしょうか!!
 剣豪!勇ウウウウ者ケンンンンンンンシン!!』

「剣の神なんか自称してねぇし、一刀両断もしてねえ・・・」

 文句を言いつつも、片手をあげ、歓声にこたえるケンシン。
 その顔には笑みを浮かべ、相手を見据える。

「ようやく相まみえましたね・・・一年前の屈辱、晴らさせていただきます!」
「よく一年でここまで強くなったな!おしゃべりはいらねぇ。剣で語りな」

 背中から大剣を抜き、正眼に構えるケンシン。
 両刀を腰から抜き、だらりと両腕を降ろし構えるメリー。

「二天一流・・・宮本武蔵かよ」
「その大きな剣、構え、まるで伝承で聞いた、かの勇者様・・・」

 先手はケンシンだった。正眼に構えた大剣を持ち上げ、一気に振り下ろす。
 メリーは左手に持った小刀の方で大剣を側面から弾き、右手に持った大刀をケンシンの喉に向かって突きを放つ。
 それを首をひねってよけるケンシン。
 ケンシンは大剣を振り下ろした勢いで、大剣を棒高跳びさながら、大剣を使って前方に飛ぶ。
 着地するや否や、メリーに肉薄する。
 右片手に大剣を持ち、左手を沿え、左手で右手を弾くようにし、剣を横薙ぎをする。
 突如ありえない速度で迫る剣を、背面飛びをするように飛んで躱すメリー。
 躱すだけでなく、右手に持った大刀をケンシンの首に向けて振るう。

「あぶねぇ!」

 ケンシンはその剣をスウェーして躱す。

 クルっと後転し、再び構えるメリー。その目は何処かに焦点を当てることはなく、ぼーっとケンシンの全体を見ているように見える。
 ケンシンは攻撃の手を緩めることなく、剣を振るう。ありえない速度で振るわれる大剣を、メリーは躱し、弾き、反撃する。
 お互い決定打に欠け、戦闘は膠着状態に移行する。
 数十分もの間、息も詰まる攻防が続く。

 お互い初期位置で向き合うと・・・。

「そろそろウォーミングアップも終わったか?小手調べは終わりだ。本気で行くぞ」
「・・・・」

 度々反撃され、ぎりぎり躱して、押されている様にに見えたケンシンは余裕綽々の顔で、メリーは汗を垂らし、息も若干乱れていた。

 ドンッ!っと大きな踏む込み音。踏み抜かれた石畳は砕け、ケンシンの姿が消える。

「くっ!」

 胴体に放たれた斬撃を、辛うじて二刀で防ぐメリー。しかしそのまま後ろに吹き飛ばされる。
 両足を踏ん張り、舞台から弾き飛ばされないように耐える。しかし、今しがた攻撃を放っていたケンシンの姿が見えない。

「上だぞー!」

 上を見上げると、上空に剣を振り下ろそうとしているケンシンを目視、即座に前方に転がり、剣を避ける。
 しかし、再びドンッという踏み込み音と共に姿を見失う。

「後ろだぞー」

 聞こえた声を反応し、即座にメリーは刀を後ろに向かって振るう。
 しかし腕だけで振るった刀は、ケンシンに弾かれ、手から離れて舞台外に飛んでいく。

「・・・殺せ・・・」

 メリーがそう呟く。

「いやいや!殺さねぇよ!負けを認めるか?」
「何で勝てない・・・頑張ったのに・・・この一年必死に・・・」

 グスッっと鼻をすする音が聞こえる。
 悔しさで涙の止まらない彼女の頭を撫でながら、ケンシン・・・いや、カイは言う。

「そりゃー儂は40年も鍛え続けて、さらに全盛期の体まで手に入れたんじゃ。まだ18そこらの子に負けるわけないじゃろ?」

 メリーにだけ聞こえる様にボソッとそう言う。
 メリーはハッとした顔で、カイの顔を見る。

「やっぱり・・・」

 カイに手を引っ張られ、立ち上がるや否や、即座にカイに抱き着くメリー。

「やっぱりカイ様だったのですね・・・。良かった・・・」


『おーっと!メルティーが降参!!勝負は決したあああああ!近接部門優勝はーーー!
 勇者!ケンシン!!!!
 そして戦いが終わった後に熱い抱擁だああああああああああああ!うらやまけしからんぞケンシン!!
 結婚式にはぜひ!司会進行を俺に任せろ!!!皆様!盛大な拍手を――――――なんだ君は!っあっちょっやめ――――――――』

 どことなく爆発音が聞こえる。そんな爆発を気にすることなく、ギュッとカイを抱きしめるメリー。もう決して離さないという意志と共に。
 苦笑いで空をあえぎ見るカイ。

「魔王倒したら、またひっそり隠居しようかな・・・」

 そう呟き、大歓声の中、離れないメリーを抱きかかえ、舞台を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...