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第一章 元勇者はもう一度勇者に戻る

閑話 エルの愛する人

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 最初はお母様からのお願いだった。誰かの奴隷のお母様。そのお母様の主人に仕えてきて欲しいという。あとでお母様も来るらしい。
 リーディア様やリュウコ様から、なるべく長生きさせてあげて欲しいともお願いされました。

 お母さまの恩人であるリーディア様と小さい頃から遊んでいただいたリュウコ様のお願いを無下にするわけにもいかず、大英雄と言われる勇者カイ様と言う方のお世話をすることになりました。

 そもそも20年前の事を覚えているのでしょうか?魔王討伐を終え、辺境に一人で生活しているという元勇者様。誰ともと関わることなく、もうかれこれ40年ほど生活しているという。

 そしてそんな彼を気にかけているが、彼に迷惑をかけたくないという理由で会いに行かないのが元討伐軍所属の人達。

 ハーフエルフはエルフほではなくても長命です。人の5~10倍はゆうに生きる。なのでたかだか30年程度お世話をするくらい何とも思っていません。

 お母様から頂いたメイド服を着て、準備された荷物を背負う。転移魔法を習得しているので、座標を認識出来ればいつでも帰ってこれる。なのでそこまで荷物は必要ない。

 近くの町まで馬車を乗り継いで数週間。そこからさらに山に入る。
 山に道はなく、獣が通った後が所々道に成っている。地図と太陽の位置を確認しながら進む。
 途中魔物に襲われるが、難なく対処する。元討伐軍の方々に鍛えられた私にとっては他愛もない事ですが、高位の冒険者でもないとなかなかきつい山でしょう。
 こんなところで一人で生活・・・さすがは勇者様と言うべきなのでしょうか。

 数日歩くと、少し開けた場所に出る。木の丸太で組まれた家。そこまで大きい物でなく、人一人が暮らすのには十分と言える程度の大きさ。
 家の横には小さな畑があり、その前に一人の人物が立っていました。
 
「カイ様と言うのはあなたで間違いないでしょうか?」
「へ?」

 こちらを振り向く男性。白くなった髪はだらしなく伸びており、同じく白いひげも伸びっぱなし。皺だらけの顔に、それに見合わない引き締まった肉体。背筋はピンッと伸びており、まるで歳を感じさせない立ち振る舞いだった。

 とてもやさしい穏やかな目をした彼。渡した手紙を読むと、一筋の涙が零れる。
 彼の人生は耳にタコができるほど聞いている。救世の英雄。誰よりも傷を負い、耐えられなくなった彼は姿を消し、この山奥で一人寂しく生活している。

 私はただ単に魔王討伐という大役を果たし、残りの人生をのんびりと暮らしたいだけの人かと思った。
 彼ならどこででも暮らしていける力はあるのだから。
 私は何かを勘違いしていたのでしょうか?これからいろいろ彼の事を知っていけるでしょう。
 
 こうして彼との生活が始まった。







 彼と生活して一年。最初は不便すぎる生活に耐えられず、たびたび実家に帰っていた。
 排泄物は溜めて畑に、お風呂は週に一回だけ、ご飯は魔物肉に塩だけ、後は山で採れた果実や山菜、畑で採れた野菜。
 ふかふかのベットなんてなく、硬い板の上にシーツを引いただけだった。
 ただ、カイ様が常に私を気遣ってくれているのはわかる。たまに頭を撫でてくれる。その手は大きく、暖かかった。



 
 彼と生活して二年。度々生活用品を持ち込み、生活の改善をした。それから私は実家に帰ることが無くなった。
 一緒に山に狩りに行ったり、何にもすることなく山を散策したり、たまに街に出かけることもあった。
 特に目新しいものがあるわけでもないですが、なぜかとても楽しかった。




 愛しのカイ様と生活して三年。カイ様の事なら何でもわかるようになりました。目線、呼吸、体の始動ですべてを察知し、先回りして動く。
 こんなことが出来るようになったのも、カイ様に剣の指導をしていただいたからでしょう。
 あぁ・・・もっと早く出会っていれば・・・。あと20年程度しかご一緒できないとは・・・。
 老人に恋をする奴がいるか?はっ!見た目だけでしか選べないなんて・・・なんとも悲しい事でしょうか。



 夫(仮)のカイ様と同棲を初めて四年。カイ様は御歳もあって、性欲がもうないようです。私が毎晩添い寝をしているのに、まるで寂しがりやな娘の様な扱いをされます。私に魅力がないのでしょうか・・・まあ確かに胸はあまりないですが・・・。
 毎日ごはんを作り、家事をし、カイ様の介抱をする。まるで夫婦・・・まるでじゃないですね。夫婦(仮)ですし。
 手は出してくださいませんが、それでも寝食を共にするだけで幸せでした。
 あと数年すれば、リーディア様達も覚悟を決めて、この地に訪れるでしょう。
 それまではカイ様を独り占め。ふふふふ。
 願わくば覚悟が決まるまでもう少しかかるといいのですが・・・。

 そんな少し悪いことを考えながら、私は今日もカイ様の眠るベットに潜り込むのでした。
 
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