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8話 部活見学

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結局アリスを引き止められず、行き場をなくした俺は、暇つぶしに部活見学でもしてみることにした。こういうのは新入生らしいだろう、とか思いつつ。

「部室棟はこっちだっけな……」
パンフレットを片手に、どんな部活があるのかチラッと確認してみる。

野球部、サッカー部……まあ普通っちゃ普通だけど、なんだよこれ。オカルト研究部に昼寝部って……。なんか変なの多いな、おい。

「お、君は佐藤くんじゃないか!」

突然、名前を呼ばれて振り返ると、同じクラスの男子が立っていた。確か……えっと……

「君は……えーっと……」

「ああ、鈴木だ。よろしく」
彼はスッと手を差し出してくる。

「よろしく」
俺も手を握り返しつつ、「で、何してんの?」と聞いてみた。

「いや、俺は部活見学しに来たんだよ。佐藤も新入生だろ?どこか見学しにきたのか?」

「いや、もう今朝入部届け出しちまったよ」

「早いな。どこに入ったんだ?」

「新聞部さ。兄もいたからさ」

「ああ、そうなんだ……なるほどね」

「それより佐藤くん、そのパンフレットだけで情報集めるの、あんまよろしくないぜ?」

「は?なんで?」

「学校のパンフレットは、まあ、隠してること多いからね。そのまんま信じると、後でビックリするかもよ」
そう言うと、鈴木は黒い表紙の小冊子を手渡してくる。

「これ、学校の『裏パンフレット』。こっちにはリアルな情報が載ってるから、参考にするといい」

なんだこれ……。ちょっと怪しみつつパラッと開くと、カメラ部、男子更衣室で盗撮してただと!?……これがリアル情報?

「この学校、なかなかネジ外れたやつが多いからさ、佐藤くんも気をつけるんだな」

裏パンフにぶっ飛んだ情報が載ってるなんて、ちょっとこの学校ヤバくないか?

「ではな、佐藤くん。もし機会があれば新聞部にも来てくれよ」
鈴木がさっと手を振って立ち去る。

「ああ……わかった」

それから怪しげな部室がちらほらと並ぶ中、苦笑いしながら通り過ぎていく……と思っていたら、一つだけ雰囲気の違う部室が目に入った。

「茶道部?」

なんかこう、気品が漂ってるっていうか、他の部活とは違う空気感がある。部室の扉が少し開いてて中が見えた。そこには着物を着た、美人の人がいて、サイドテールの黒紫の髪が映えてる。どうやら俺に気づいたらしく、ふわっと手を招いてきた。

「もしよろしければ、お茶を飲んでいかれませんか?」

その柔らかな声に誘われて、俺はちょっと緊張しながら部室に足を踏み入れた。
 彼女に促されるまま、俺は畳の上に座る。彼女が俺が座ったのを確認して、すっと茶菓子を出してくれた。

「どうぞ……」

「あ、ありがとうございます」

言葉遣いが上品すぎて、こっちまで背筋が伸びる。おそるおそる菓子を口に運んでみると、これが想像以上に美味い。

(美味しい……)

自然と笑みがこぼれてしまう。

 俺の反応を見て、彼女はふわっと柔らかく微笑んだ。
 彼女は茶碗を手に取ると、茶杓で抹茶をすくい、軽く茶碗に落とした。お湯をそそいでから茶筅を手に取り、手首を使ってリズムよくくるくるとかき混ぜ始める。

カサカサっとした音が静かな部室に響いて、抹茶の粉が徐々に細かな泡立ちに変わっていくのが見てとれる。手元の動きはスムーズでつい見とれてしまう。

しばらくして、ちょうどいい感じに泡がたったのを確認すると、茶筅をさっと引き上げて俺の前に茶碗を差し出した。

「どうぞ……」

「ど、どうも……」

 俺は茶碗を手に取ったものの、「えっと…これ、回すんだっけ?」と小声でつぶやいてしまった。

「ふふ…そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ。作法も大事ですが、一番大切なのはお茶を楽しむことです。」

優しい笑顔でそう言われて、なんだかホッとする。

 俺はそのまま茶碗を傾けて、一口飲んでみた。

(美味しいな……)

口の中に広がる、ほのかな渋みと柔らかい香り。普段飲むお茶とは全然違って、なんか特別な感じがする。

「もしよろしければこちらもどうぞ」

彼女は背を向けて何かを取ると、俺の前に置いた。

「ありがとうござい……」

その瞬間、目に飛び込んできたのは、男同士が抱き合っている本が3冊。

「えっと……」

「どうかなさいましたか?」
彼女はキョトンとする。

「なんですかこれ……」
俺は困惑する。

「お好きかなと思いまして」

「そんな訳ない!」
思わず声が荒れる。

「あ、なるほど」
彼女はポンと手を打って、さっそく本を回収し、また別の本を取り出す。これがいわゆるおとこの娘ものだ。

「こちらでしたね」
彼女は自信ありげににっこり。

「違う、そうでも無い!」
思わず声を荒げる。

「おかしいですね……我が部の至高の作品で、コミマでも多くの男性の方に買って頂いた物なのですが……」

「俺にそんな性癖はない!」
しっかり否定する。

「性癖はあるものではなく、作るものですよ?」

得意気に言われて、ますます焦る。

「作るつもりありません!お茶は美味しかったですが、失礼します!」

俺は急いでその場を後にする。あの優雅なお茶の時間は一体何だったのか、頭の中で混乱が渦巻いていた。背中に冷や汗がにじみながら、早くここから逃げ出さないと、と思った。

「行かせません……!」

彼女はどこから取り出したのか、ロープのようなもので俺を羽交い締めにする。

「こんな良い被写体を……新入生逃すわけにはいけません!」

「今、被写体って言った!ねえ!何する気!何するの!」
心臓がバクバクしてきて、焦りが増す。

「そんなの……」
彼女はチラッとさっきの本を見やる。

「いやだああああ!」
俺はじたばたとする。もう、まるで逃げられないみたいだ。必死で抵抗するも、そのロープは思ったよりも強い。

「新入生を離しなさい、茶道部!」
ドンと部室の扉を開けて、風紀委員がぞろぞろと入ってくる。

「む、風紀委員……」
茶道部の彼女はびっくりした顔をして、持ってたロープをちょっと緩める。

「全く、例年凝りもなく新入生を拉致して……」
風紀委員のリーダー格の赤髪セミロングの女の子が前に出てきて、周りの風紀委員に指示を出す。

「そこの彼、ロープを外してあげて」
その声に従って、俺はロープが外される。解放された瞬間、ホッと胸の緊張が解けた。

「あ、ありがとうございます……」
安堵のあまり、声がちょっと震える。

「良いから早く逃げなさい」
リーダーの彼女が真剣な表情で言う。周りの風紀委員たちも頷いて、俺を急かす。

「はい!」
急いで部室を飛び出して走り出したけど、すぐにストップさせられた。

「走って逃げるな、歩いて逃げろ」
彼女がジロッと俺を睨む。

「は、はい!!」
思わず声が裏返りそうになりながら、急いで足を止める。心臓がバクバクしてるけど、これでやっと自由になれる。お礼を言う余裕もなく、俺はゆっくりその場を離れた。


 
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