魔獣っ娘と王様

第31話●ニコラッドとノタリオ

「おまえさー、悪どいんじゃね。」

現国王のノタリオが元第一王子のニコラッドに言う。

「なんか思ったよりばっちりはまった感じ。」

「でもよー。ペレペルキナちゃん可哀想だったぜ。」

「しょーがないんだよ。俺は王様になんかなりたくないし。あいつは絵に描いたような才女でさー。絶対王妃になるために頑張ったって感じだろう。勉強でも剣術でも魔法でもなーんにもあいつに勝てないなんて最低だよー。」

「だけどそれもおまえのために努力してたんだぜ。」

ニコラッドはパン生地を捏ねる手を止めずにノタリオに答える。

「それが嫌なんだよ。私はあなたの為に頑張っているのにあなたの有り様は何？って感じが、他人のうちならまだしも結婚なんかしたら一生そんな目でみられるんだ。ウンザリだね。」

ノタリオとペレペルキナとニコラッドは幼馴染みで小さな頃から一緒に遊んでいた仲だ。

ノタリオも別に王様になんかなりたくなかったけど成り行きでしょうがない。

ちょくちょく王宮を抜け出して来る。

結局ヴァイグル王国第一王子ニコラッドは廃嫡されて継承権は従兄弟のノタリオに移った。

ニコラッドは平民になってベシェペメの実家のパン屋さんで職人になって嬉々として働いている。

アレイン王がペレペルキナに言った「ヴァイグル王国を滅ぼしてあげる。」と言う言葉は侍女のゴーレムから王国に伝わった。

クルヒエム王はやむを得ずノタリオに王位を譲って退位した。

ノタリオもどちらかというとペレペルキナは苦手。

優秀すぎて一緒にいると自分が情け無くなっちゃうから。

努力が裏目にでちゃうって、まあ俺やニコラッドが最低野郎なだけなんだけどね。

ベシェペメがポーっとパン焼き釜の前で椅子に座って焼き加減を見ている。

この子パンを作るのがすごく上手くて、この店も王国では美味しくて評判のパン屋さんだ。

「親父がっかりしてた？」

ニコラッドにはそれだけが気がかりだった。

母は幼い頃に他界していたから、クルエヒム王だけが家族だった。
そして王の苦労をずっとそばで見て来た。

王様になんてなるもんじゃないって言えなかったけど、ずっと思っていた。

「今は落ち着いて後宮にいるよ。肩の荷が降りたんじゃないか。」

「ペシェペメー。生地のこね具合はどう？これでいい？」
ニコラッドはパン作りの手を止めない。

ノタリオが言う。

「それにしても王国を滅ぼしてあげるって、酷いこと言うねあの魔獣国王。」

ニコラッドは笑いながら答える。

「そのぐらい言ってあげないとペレペルキナを救えないと思ったんじゃないかな。」

「ああ、魔獣国の王にいいカッコされちゃったね。あはは。」

なぜか2人とも笑う。