転生勇者の異世界見聞録

第110話 海賊と海鮮丼1

頭蓋骨に２本の大腿骨をクロスさせた旗を掲げた黒塗りの船団がクラーケンに取り囲まれている。

「あれはもう絶体絶命だね。」

わし達はアサンに乗って眺めている。

カニ料理で有名なドルツリア大陸の北海岸のホビエの港街で豪華海鮮丼が限定メニューでやっていると聞いて向かっているところじゃったが。

アサンが海を飛ぶとクラーケン達も嬉しそうについてくる。

海賊達は観光船をとり囲んで大砲を撃ち鳴らしていたんだけれどクラーケンがやって来て形勢逆転。

好奇心の強いクラーケンには旅客船などには近づかないようにアサンがしつけている。

でも海賊や盗賊、軍船などについては遊んでいい事にしている。

今のところクラーケンは「待て」の状態なのでただ取り囲んでいる。

海賊船は15隻、船長なのか海賊のリーダーなのかはわからないけど勇ましくクラーケン相手になんか言っている。

面白いので近づいて見る。

海賊船のうえには当たり前だけど海賊が沢山乗っている。

なんだか神に祈っちゃっている奴までいる。

だってもう逃げ場も勝ち目も無いからね。

クラーケンのごはんになったり、海に沈んでしまうぐらいしか未来は無い。

「俺達は、金持ちや貴族から奪って貧乏な者を救う義賊なんだぞ。」

と海賊のリーダーらしい奴が言う。

「こいつらもわしを慕ってついてきたいい奴らなんだ。」

「頼むから助けてやってくれ。」

などと命乞いを始める。

「ふーん。あの観光船の人もあんた達に助けてって言ったら助かったのかい？」

わしは知っているぞ。

こいつらが無抵抗の村人や女子供から全てを奪い陵辱し惨殺するのを。

わしは神ではないので裁くなどと言う偉そうな事は出来ん。

ただわしが持っている嫌悪感に従うのみじゃ。

正義とか言う事じゃない。

それをする力があるのでこいつらを殱滅するのじゃ。

わしの傲慢な力でな。

クラーケン達はお預けを解かれたわんこのように海賊船に飛びついた。

たちまち船は引き千切られ、海に引き込まれてやがて静かになった。

あれ、わし何もしとらんが？

観光船は旅を再開した。

わしらもホビエの港街を目指す。

まるで何もなかったかのように。

クラーケン達は久しぶりにおもちゃがもらえたわんこのようにご機嫌じゃ。

海上を飛ぶようにジャンプし滑空してついてくる。