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第25話 いつものこと
しおりを挟むコージが寝付いた頃、そーっとドアを開けてそろそろとベッドに近づいてくる。
マヨネは夜目が効くのでマリタお嬢様が枕を抱えて近づいてきているのが丸わかりだ。
マヨネの左右にコージとチャオがいるからコージを引っ張ってマリタお嬢様の場所を開ける。
マヨネがそんなことをしている事はマリタお嬢様には分からないだろう。
チャオが薄目を開けて必死になって笑うのを我慢している。
マリタお嬢様は暗い中カーテンの隙間から入る月明かりでコージの寝顔をジーっと見てから静かに体を寄せて横たわった。
ここ最近のいつもの事。
ところがマリタお嬢様はとてつもなく寝相が悪い。
朝には必ずベッドから落ちている。
クッションを置いてあるので初日以外は大きな音もしていないしマリタお嬢様がケガをする事もない。
クッションはマリタお嬢様が眠った後チャオが置いている。
コージが目覚める頃にはマリタお嬢様はベッドから落ちてしまっているのでコージだけが何も知らない。
朝日が部屋に差し込む頃チャオが起き上がる。
チャオが起き上がると待ち侘びたようにマヨネが飛び起きる。
マヨネはベッドから落ちているマリタお嬢様をそっと持ち上げてお嬢様の部屋に行きベッドに寝かせる。
もう日課になっている。
チャオがマヨネの頭を撫でる。
「朝ごはんは何にしようかな?」
少しするとマリタお嬢様が目覚める。
「あら?なんで私ここに?」
「ねえねえ、これ新製品?何に使うの?」
ヘルミーネお嬢様がショーケースを覗き込んでいる。
コージはいつものように「あー」とか「うー」とかしか言わないのでチャオが説明する。
「これは人間を獣化するおもちゃよ。」
「えー。なんで?危なくないの?」
「姿を変えるだけだから大丈夫。それに少し時間が経つと元に戻るから。」
と、まだ説明の途中なのにポンっとヘルミーネお嬢様がキツネになった。
「あーははは。面白いー。」
お店の中を飛び回っている。
「あー、外には出ない方がいいとー。」
もう全然話しを聞いていない。
出ていっちゃった。
「きゃー。」
外でヘルミーネの悲鳴がするとドタバタと裸のお嬢様が駆け込んで来た。
「なんなの急に人間に戻るし、服はないし、通りに誰もいなかったから良かったけど。」
ヘルミーネお嬢様がすっぽんぽんのまま仁王立ちして怒っている。
「あー、うー。」
コージが真っ赤になって店の奥に逃げて行った。
入れ違いにマリタが出て来る。
「ヘルミーネあんた店の中でなんて格好してんのよ。コージが逃げて行ったわよ。」
ヘルミーネお嬢様ははっとして落ちている服を拾う。
「み、見られたかしら。」
マリタお嬢様とチャオが同時に言う。
「たぶん、しっかり。」
ヘルミーネは真っ赤になった....が、
「ま、いいかコージなら。」
と言う。
「獣化出来るって言うのはコージの願望かしら?ケモ耳やしっぽが自分に生えてくるのよ。変態でなくても楽しいわ。でも服がね。」
ヘルミーネお嬢様は言う。
「だから最後まで説明を聞かないから...。」
「この首輪に付いているダイヤルでなりたい動物と獣化時間を選んで首に付けるの。」
「この首輪は小さなマジックポケットになっていて獣化している間は衣服や持ち物を収納して獣化が解けたら元の状態に着せてくれる様になっているのよ。」
「それから防衛機能のおまけ付き。」
「動物を虐待する人や魔獣から守るのよ。」
「首輪が付いていれば野良じゃないってわかるし。」
チャオが説明しているのにヘルミーネお嬢様はもううわの空になってニヤニヤしている。
「コージに付けて見たいわね。なんの動物がいいかしら?うふふ。」
「そうね。面白いわね。」
とマリタお嬢様ものってくる。
2人で何やら楽しそうに悪だくみしている様子。
昼食後、お客さんも来ないのでコージは工房に入ったまま。
どこにいても安全なテントを作るらしい。
チャオは売り物のHP回復薬を作っている。
コージの作ったマニュアルがあるので材料があれば誰でも作れる。
マヨネはカウンターの椅子に座ってじっとしている。
お店の外を通り過ぎる人達を観察している様だ。
ひと段落ついたのかコージとチャオが工房から出て来る。
「ヘルミーネお嬢様はまだいたの?」
チャオが言う。
「いけないのかしら?どうせ他にはお客さんがいないんだし。」
そう言って何やらマリタお嬢様に目配せしている。
マリタお嬢様がコージの後ろに立つとまもなくポンっとコージが小さくなった。
「やったーっ」
二人が歓声を上げてテーブルの上を逃げ惑うハムスターを捕まえる。
ヘルミーネお嬢様が手の平の中のハムスターを見て
「かわいいーっ、ふわふわー。」
とか言っている。
「わたしも、わたしもー」
とマリタお嬢様が手を出す。
「やめて、やめて。」
とハムスターのコージがもがいている。
あんまりコージがあばれるのでヘルミーネお嬢様の手からハムスターが落ちた。
マリタお嬢様のブラウスの胸元にすとんと入ってしまった。
「あはは、あばれないで、くすぐったい。」
「あら、え、そっちはダメ、あーははは。」
ポンっとコージの獣化が解けた。
マリタお嬢様がコージの顔の上に座り込んだ状態になっている。
慌てて飛び退いてコージを起こす。
真っ赤になったコージは首輪を外して
「あー、うー、こ、これは非売品にする。」
と言ってインベントリにしまい込んだ。
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