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第49話 上級ダンジョン 2
しおりを挟む往路はやはり馬車。
以外とアスタロト様は楽しんでいるみたいだ。
転移魔法が使えるのだからこういう移動手段は焦ったいのではないかと思ったのだが。
「俺には時間がたっぷりある。転移して一瞬で行こうが馬車でとぼとぼ行こうが大差ない。」
そう言って車窓の外を興味深そうにじっと眺めている。
上級ダンジョンは大山脈とは方向違いで大草原を超えてさらに南西の方角。
海を越えた小さな島にあると中級ダンジョンのマスターは言っていた。
大草原は一面に成人人族の膝くらいの高さの多種多様な草が群生していて、ところどころに頭を超える高さのブッシュがある。
草食動物が豊富にいて、それを捕食する魔獣も多い豊かな地域だ。
ほぼ平地なので縦横に街道がある。
ゴーレム馬の蹄の音だけで比較的に走行音が静かなこの浮遊馬車は徐々に人族の間で普及して行っているようだ。
錬金術師や技術者達に浮遊回路の理論が特許権フリーで開示された事がその理由だ。
かつていた世界では物質を後方に投げ出しその反作用で加速して翼を用いて浮力を得ていたが、この世界では元々浮遊魔法があったせいでそんなエネルギー効率の悪いことは余り真面目に取り組む技術者はいなかった。
浮遊大陸の存在もあって「浮遊石」もあった。
希少だった「浮遊石」が錬金術で作れるようになるとたちまち市井に普及した。
舗装技術が拙いので街道がでこぼこだしね。
ムールは「浮遊石」を使わずに「浮遊陣」を馬車に刻んで浮かせている。
例によって馬車には好奇心旺盛な小動物や精霊が並走している。
アスタロト様がいるせいなのか車窓を開けても飛び込んでくることはない。
ほのかな光が飛び回っているぐらいにしか見えないが、いくつかの精霊がアスタロトにまとわりついている。
ゴーレム馬が静かに足を止める。
「無粋な。」
とアスタロトが呟く。
すでに馬車は盗賊の集団に取り囲まれているようだ。
ムールは馬車を降りて周囲を見回す。
「なんだ、子供か?」
「護衛もなしに女子供だけでどこへ行くつもりだったんだ?」
「まあ、俺たちにとっては好都合だがな。」
「いつもこんなに簡単なら助かるぜ。」
盗賊達は完全に油断して下卑た笑いを浮かべている。
自分達が討伐されるなんて思いもしない。
実際、大人っぽいのはジュネだけであとは子供ばっかりだしね。
ムールは何も喋らない。
盗賊になった事情は人それぞれあるのかもしれないけれど、盗賊は情けをかける相手じゃない。
その場で勝手に処刑する事すらこの世界の法は許しているし、捕らえても死刑だ。
ムールは範囲魔法で処理することを選択した。
上空に巨大な魔法陣が構成される。
ところが魔法が発動する前に声を掛けてくる者がいる。
「待て、それはおまえがする仕事じゃない。」
そう言ってムールの魔法を打ち消した。
取り組んだ盗賊の外側から混乱した彼らの悲鳴が上がっている。
「見て楽しいものじゃないから馬車に乗っておけ。」
いつのまにか隣に金糸で袖や襟に魔法陣が描かれた黒いローブを着た少年が立っている。
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