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第35話 魔王と醤油

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「なんか懐かしい匂いがする。」

パエリがくんくん鼻を動かしている。

「これは、あれだ、醤油が焼ける香ばしい匂いだ。」

ムールが見回すとちっちゃな角が生えた少年が小瓶を手に持っている。

「なんでこの世界に醤油があるんだ?って言うか少しちょうだい。」

少年は躊躇うことなく醤油の小瓶をムールに渡す。

「たまんないねー。美味しいねー。」

パエリとムールは大喜びだ。

サーフラとジュネにとっては初めての匂い?

でも多分うどんや蕎麦を食べた時にもあったはずだけどな?

「これはね、魔国で作っているんだよ。」

少年が言う。

「魔王も転生者だったの?」

「マヨルって呼んでね。」

魔王と聞いてパエリと剣聖ジュネが身構える。

フェンリルは魔王に懐いている。

なんか少し悔しい。

魔王が音もなく魔剣を切り付けてくる。

ムールは剣を出す間もなく体術で魔王の剣をかわしながら手刀から裏拳、蹴りと流れるように攻撃する。

魔王も舞うように弧を描いているかと思うと突然直線的な鋭い突きを織り交ぜて剣を振るう。

そうして合間合間に攻撃魔法と魔法解除を使う。

パッパッパとまるでストロボをたくような光が断片的に2人の動きを見せる。

「じゃ、私も。」

とパエリが聖剣を抜こうとする。

「それはダメよ。」

パエリをお姉さんにしたような女の人がパエリの剣の柄を抑える。

「あれは挨拶みたいなもんよ。」

「あ、あれ?勇者エリア?」

ジュネが言う。

「さすがは剣聖ジュネ、私の事を知っていたのね。」

パチンと魔王マヨルが剣を納める。

「大賢者はなかなか強いね。」

「魔王マヨルも。」

古い友達みたいに微笑み合う。

「だいぶゲームをやりこんだみたいだね。」

マヨルは懐かしそうに言う。

彼はもうこの世界に何万年もいたから。


「魔王も勇者エリアもこの世界から消えてしまって何百年も経ってしまって伝説みたいになっているわ。」

ジュネが言う。

「隠蔽と結界を張り巡らして人族には干渉しないようにしているからね。」

魔王マヨルは少し寂しそうに言う。

「多分その方がいいんだよ。」

ムールは言う。

魔王は間違っていない。

どうしたって分かり合えないものはある。

むしろわかるほど一緒にいる事が無理な事だってあるし。

それでも魔王にはまだ人恋しいって思う事があるんだろうな。

元々は人間だし。

ムールは黙って捌いたサンドワームの肉をマヨルに差し出す。

「美味しいね。」

パエリはご機嫌だ。



パエリの隣で黙々とお肉を食べている大魔法使いペトロニウス グローヴズには誰も関心を持っていないようだ。



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