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第28話 世界樹
しおりを挟む世界樹と言っても伝説にあるような世界を支えるというような大仰なものでもないようだ。
それでもバカみたいにデカい。
見たところ木の幹というより壁のようなもので左右の両端がわからないぐらい太い。
見上げても木のてっぺんは見えない。
幹には都合の良いことに階段状の凹みや梯子などがあるし、蔓のようなものが無数に垂れ下がっている。
彼らはこの蔓を利用して昇降機の様なものを作っていので容易に登り降りが出来るようになっている。
まあ彼らは魔法が堪能なのだからそんな事を気にすることはないのだろうが設備はしている。
かつては彼ら以外の者の出入りがあったのだろう。
また、幹には沢山の空洞があって居住できるようだ。
木の葉が空を覆うように生い茂っているので日中でも薄暗い。
「なんだか勇者様は小さくなったみたいじゃのう。」
エルフの里長はなんだかじじくさい話し方をする。
「見た目はあんたも変わらんぐらいの子供だろうが。」
ムールは言い返す。
「それでもわしはすでに2万年は生きてきているでのう。」
「前の勇者も女の子だったのか?」
「そうじゃのう。その前は男前の兄ちゃんだったような。人間はすぐに死んでしまうからのう。」
「まあ、ゆっくりしていけばいい。」
「ああ、それからせっかく来てくれたんじゃから世界樹に魔力のチャージをして行っておくれ。」
そう言ってさっさと世界樹のうろに作った部屋に入ってしまった。
あんまり人族なんかに興味がないのだろう。
エルフなんてだいたいニートで引きこもりみたいだし。
世界樹への魔力チャージとエリクサーを入手するのがこのクエストの目的だしね。
なんかイベントがあったような気がするんだけどな?
なんだったっけ。
「これこれ、ここが魔力をチャージするところ。ここに手の平をつければいいんだよ。パエリ、ちょっとやってみて。」
「これ私がしなくちゃいけないの?ムールがすればいいのに。」
パエリが嫌がっている。なんでだろう?
「これは勇者限定のイベントだからオレが代わることはできないんだ。勇者の聖魔力が必要なんだから。」
パエリがしぶしぶ世界樹の幹の凹みに手を当てる。
「きや。」
そう言ってパエリがぱたりと倒れた。
「え?なんで。」
世界樹がビリビリと振動し始める。
地面も地震のように揺れる。
ムールはパエリの頭を抱えて鑑定をかけていく。
パエリのMPが0近くまで下がっている。
代わりに見たことの無いステータスが生えていて、そのインジケータの数値が上がっていってる。
SMPってあれか?聖魔力のことか? 通常の魔力から完全に分化したのだろうか?
冷たくなっていたパエリの頬が少しずつ温かくなって来た。
驚かせやがって。
ロストヒストリーワールド・ゼロにそんなイベントはなかったじゃないか。
アップデートしているのか?
サーフラが近くの露店の人に水をもらって来たのでパエリの口につけてやる。
パエリがぱちっと目を開いて水の容器を取ってごくごく飲み始めた。
「夢を見たわ、ユグドラシルって名乗る女の人が私を世界樹の上に連れて行ったわ。」
「何にもないの。濃い青色の空があるだけ。ひどく寒いの。その内強い光が射してなにもわからなくなった。」
それがなんの儀式だったのかオレにもわからない。
運営なのか神なのか彼らの目的は計り知れない。
それでもパエリを道具のように扱われたような気がしたしそれに自分も加担したような気がした。
ひどく気分が悪かった。
「ムール、お腹が空いたわ。何か食べに行きましょう。」
ムールは考え込んでいて返事をしないで黙っている。
「ムール、怒ったの?怖い顔をしているわよ。」
ムールははっとして表情を変えて笑って見せる。
「ううん、そうだね、何か美味しいものを食べようね。」
サーフラが黙ってムールのおでこをこづいた。
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