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復活の厄災編

第三十一話 神巫の巫女②

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 霊長の里のシンボルである巨大な大木、守護結界を維持する能力と里の反対域に生息しているダークエルフの進行を抑えるための防護壁の役割を持ち、皆からは御神木とも言われいる。
 その御神木の頂上、木の幹が神秘的な形を成して道を作っている箇所があった。たった20段の階段なのにその道は手すりもなく少し下を覗けば急斜面でできた崖のような作りの木の幹が見てとれる。

「おい!揺らすなよ!バランス崩したら終わりだぞ!」
「後ろに力入れんな!倒れるだろうが!」

 そんな恐怖の道を、俺とアルノアはお互い張り詰めた状態で進んでいた。一段上がる度に反論の言葉を述べながら…。

「クロムさん、アルノアさん、いつまでもそこで話していても怖いのは消えませんよ!あと7段くらいです、頑張ってください!」
「聞いたか?あと半分だとよ。ここで俺と無駄話で足止めくらうくらいならさっさと行くぞ!」
「全然半分じゃないだろ、つべこべ言わずに早く行ってくれよ、後ろが仕えてるんだよ。」

 そう言いつつ俺の腰をがっちりと掴んでいるアルノア、まるで岩を引っ張っているような感覚に疲れて彼女の言うとおり早く行こうとした途端…

「ちょっと待て!急に行ったらバランスが崩れるだろ!」
「早く行けって言ったのはお前だろうが!」

 アルノアは強い力で俺の体を引っ張り、今の姿勢を維持しようと頑張っている。
 この一向に前に進もうとしないアルノアと前に進むことができないクロムのいざこざはあと10分続いた。

 ーー霊長の里・御神木頂上

「はぁ…はぁ…もう会いに行くだけなのになんでこんな疲れなきゃならないんだ。」
「次来る時は代表者1名にしないか、もちろん私はパスだけど…。」

 俺とアルノアは頂上に着くと膝を地面につけてへたり込んだ。足が震えだすほどの恐怖体験をした後だ、緊張の糸が切れてしばらくはまともに立つことすら出来なかった。

「それにしても…こんな場所に住んでるだなんて生活しづらくないのでしょうか?」
「ちょっと信じられないですよね、20年前に勇者と肩を並んで帝国軍を殲滅させた神巫の巫女ですよ。そんな英雄ならもう少し豪華な家に住んでいたっておかしくないのに。」

 レズリィとコハクの目の前にある家は、人が生活するには少し小さすぎるほどだった。
 御神木の頂上というスペースがあまりない場所に無理矢理家を建てたような感じがあり、まるで雨風を凌げればそれでいいと思える造りで、これが英雄が住んでる場所とはとても思えなかった。

 ガタガタ。
「すみません、私達勇者パーティーの者でアマツさんに会いに来たんですけど。」

 レズリィが入口である木製の引き戸をノックしたが何も反応が無かった。もう一度ノックし呼びかけをしても先程と同じよう何も反応がなかった。

「留守でしょうか…えっ、あれ?」

 ふと引き戸に手をかけると扉は簡単に開いた、少し隙間ができたことに焦って手を離しレズリィはこの事を皆に知らせた。

「鍵が空いてます、もしかして中にいるのでしょうか?」
「せっかくの機会だ、少し中にお邪魔してみるか。」
「ちょっ!クロムさん、さすがに中に入るのは…。」

 俺はレズリィの静止の言葉を聞かずに引き戸に手をかけ開いた。

 ガラガラ…
「これは…。」

 家の中は中央に囲炉裏があり、奥には押し入れとちょこんと机が置いてあるだけの簡素な空間だった。
 目に入る情報はそれだけであり、物や食物はなく生活感がまるでなかった。空き家だと思われてもおかしくない。

「誰もいませんね。」
「いや、誰もいないどころかここで生活してるのか怪しいぞ。人が最近までいたっていう形跡がまるでない。」

 皆が空虚な部屋を眺めていると、クロムは靴を脱ぎ出し家の中へ入って行った。その強気な探索姿勢を注意しようとした瞬間、クロムが皆を呼びかけた。

「皆…これを見てみろ。」

 クロムは部屋の角奥にある机を注目させた、何かあるのかと不思議に思った皆はそこに向かうとその机に物が置いてあるのが見えた。

「これって…魔石?」
「いや、これはただの魔石じゃない、遠くの人に声を伝える通信用の魔石《マジックダイヤル》だ。サピエルが使っていたところを見たことあるからわかる。」

 アルノアが机の上に置いてある黄色の魔石の用途を述べると、突如魔石が光だし中から凛とした女性の声が響いた。

「この家に来客なんて珍しいわね。」
「良かった、ここに来て無駄足だったなんて思わなくて。」
「まずは自己紹介、ここに来た理由でしょ。さっさと言いなさい。」

 急かすような言い方で話しかけてくる人物、顔も姿も見えないがフォルティアとは違う強者感が漂っていた。
 この人がアマツ・サギリ…伝説の巫女が目の前にいるよう感覚に皆は一瞬気圧されそうになる。

「俺はルカラン王国からやって来た勇者クロムだ、神巫の巫女であるアマツに救援を求めに来た。今パンデルム遺跡で帝国軍が厄災魔獣を解き放とうとしている、未曾有の大災害を防ぐために力を貸して欲しいんだ。」

 なるべく問題を簡潔にどのような状況なのかアマツに説明した。
 その返答を待っていると少しばかり沈黙が流れた、俺はアマツにこの声が届いているのか心配になり魔石を手に取って声を発した。

「あの…アマツ…さん?」
「あんたの言葉を聞いてなんとなく察しがついたわ。あんた…助けを求めてる人全員に手を差し伸べる馬鹿ヒーローでしょ。」
「なっ!?馬鹿…?」
「話の内容は分かったわ、率いる帝国軍と渡り合う火力と厄災魔獣がもし復活した時の保険で私を呼ぼうと考えたのでしょう。」
「保険って…そういう意味じゃ。」

 ダァァン!ズダダダダダ!
 魔石からアマツの声以外に魔法特有の攻撃音が響き、只事ではないことに皆が驚く。

「攻撃音!?もしかして戦闘中か?」
「別に心配されるほど柔に落ちぶれちゃいないわ、それよりあんたの話だけど…。」

 ズダダダダダ!ギャァァァァ!

「あんたら人間って…。」

 ドガァァァァ!ウワァァァァ!

「まずそっちの問題を片付けてから話さない!?気になりすぎて話に集中できない!」

 話の合間からでも流れる戦闘や叫びの音が気になって、俺はアマツにどうにかできないかという意味を込め注意をした。すると…

 ドガァァァァァァ!!
 一際大きな爆破音が流れ、その衝撃が魔石からでも伝わるほどに大きく振動した。
 そして何事もなかったように涼しい声でアマツは語り始めた。

「あんたが集中出来ないって言うから、邪魔されないよう目の前の敵達を消し飛ばしといたわ。これでいいかしら?」
「えっ、何?怒ってるの?俺のせいなの?」

 彼女の口から消し飛ばすという言葉に怖気つき、俺が何か怒らせてしまったのかと変な緊張感が体に走った。
 だが彼女はクロムに自身が感じる怒りを話すことはなかった、逆にもっと恐ろしい言葉を突きつけられた。

「さっきの話だけど…私はね、あんたの話を聞いてがっかりしたのよ。」
「がっかりって…どういう意味だよそれ。」
「あんたら人間ってなんでそんなにぬるい考えしてるのかって事よ。」
「ぬるい考えだと…。」

 俺も含めてこの場にいる皆は彼女が何を言っているのか分からなかった。
 クロムが何かそのようなことを言ったのか?アマツにその理由を聞き出すと、彼女は呆れたかのようなため息を吐き話をした。

「この里の兵力を見たでしょう、彼らの力を借りればすむ話なのにどうして私じゃなきゃダメなわけ?」
「それは…少しでも人的被害を抑えるためなんです。全部あなたに任せるような形に聞こえますが、私達はあなたの力を信じてお願いにきたんです。」
「そうだぜ!20年前の戦争だって勇者や巫女の存在がいなかったらどうしようも出来なかった。私達のような弱い存在は強い存在に頼ることしか出来ないんだよ!だったらそういう強い奴は、弱い人達を守るために力を振るう責務があるんじゃないのか!?」

 レズリィとアルノアは必死にアマツの必要性を語った、だが彼女は鼻で笑い皆の言葉を切り捨てるような感情で尖った返答を告げた。

「弱い人達のために力を振るえですって?あんた達は私をなんだと思ってるわけ?」
「どういう意味だ?」
「あんた達は知らない村や町から助けが必要になったら駆けつけられるの?助ける相手が周りから嫌われてる悪党でも助けにいけるの?相手が自分とは敵わない者と対峙することになってもあんた達はそこに駆けつけられるの?」
「それは…!」

 怒涛に語られるアマツの質問に答えようとアルノアが切り出すが、俺は手を彼女の前に出してそれ以上言わせないようにした。
 何故言わせないのかと疑問を抱く中、アルノアが答えを言う機会をなくしたためアマツは淡々とその話題を話続けた。

「今だったら答えられるでしょうけど、あんた達は必ず判断に迷うわ。だってあんた達はまだそういう場面に出くわしてないから、違う?」 
「ですが…今の状況はあなたが言った状況とはまるで…」
「同じよ、今の状況と私が言った事には共通しているのが一つある。それは、自分達で考えようとしない怠慢さよ。」
「怠慢さ?」
「私に助けを求めるという選択肢が頭に入ってるせいで、皆は自身の身をどう守るか考える思考を持たなくなってきてる。なんでもかんでも私に助けを求めてきてるあんた達を見てたら、まるで私はあんた達の家政婦みたいじゃない。」

 彼女の拗らせ方は半端ではなかった、戦いに参加しないどころか重要な事件を誰かに任せようとしているのが聞こえていた。
 そのことにアルノアの中で沸々と怒りが込み上げていた。

「あんた達が苦しい状況だっていうのはわかるわ、でもあんた達だって覚悟して戦いにきたんでしょう。大勢の悪魔と戦うことになるという未来を覚悟して戦いにきたんでしょう。だったら今やることは私を誘うことじゃないわ、さっさと力をつけて悪魔達を殲滅しに行きなさいな。」
「誰しもお前みたいに強くはなれないからこうして助けに来たんだろ!なんでだよ…なんでそんな命がかかっている仕事を投げやりに出来んだよ!」

 ついに自分の中に溜め込んでいた怒りが爆発したアルノア。無理もない、自分達より遥かに格上の人物が戦いに参加せず悪く言えば皆に仕事を押し付けているのだ感覚だった。

「投げやりですって?それはあんた達もでしょ、そんな危険な大役を私に投げつけてあんた達はさぞかし心が晴れるでしょうね。」
「何…だって…?」
「軽蔑したかしら、悪いけどこれが私のやり方なのよ。自分を守れない奴は、自分で守ろうとする勇気がない奴はこの世界では生き残れない。このこと肝に銘じておきなさい。」

 魔石から声が聞こえなくなった、どうやらこれ以上話を続けても彼女とは平行線なままのようだ。

「くそっ!」

 アルノアは壁に拳を打ちつけ部屋に激突した痛々しい音が響き渡った。
 その行動に怯えながらもコハクはこれまでの話し合いのまとめて話した。

「つ、つまり…巫女さんが言いたいのは、自分達で考えて自分達の力で解決してみろってことですか?」
「ふざけんなよ…これが英雄的存在だって言われた神巫の巫女だって?いくらなんでも自分勝手すぎるだろ…私は…。」
「それ以上言うなアルノア。」
「クロム!さっきからお前はどうして止めるんだよ!お前は悔しくないのかよ!」

 俺はアルノアの肩を掴んで彼女を落ち着かせた、彼女からしてみればアマツの対応に何故怒らないのかと疑問を感じていることだろう。
 俺だってそうだ、何も知らずにアマツを話を聞いていれば同じ感情を抱くことになるだろう。

「これが…巫女の苦難だからさ。」
 
 だけど…俺は知っている、彼女の抱え込んでいる苦難を。
 俺は視線を伏せ、言葉足らずのアマツの話を皆に説明した。
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