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悪魔の絆編
第二十一話 勇者の責任③
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「目覚めた時には馬車は横転してて、木や岩にぶつかったショックで中の乗客もかなりの重傷で…。」
クロムとモルガンは不安を色濃く滲ませたコハクの会話を聞いて状況を整理した。
「その後は多分、助けに行こうとしたけどゴブリンの大群が攻めてきてそれどころじゃなくなったと。」
「アッシュバードか…奴の《ホークビジョン》の能力で馬車にかかっている透過魔法を見破ったのか。」
ホークビジョンとは大型の鳥類魔物などに備わっているスキルであり、透過魔法などで透明な状態になっている物を無効化する効果がある。
これまで魔物に襲われていない成果があるため、ゼルビアの馬車は透過魔法を発動して運用していたが、今日それが破られてしまった。
何故それが起こってしまったのか、モルガンはその違和感に引っかかっていた。
「アッシュクリフ(北の断崖)に生息する魔物がどうしてここに来た?鳥類型は自分の生息域である場所から離れず獲物を狩るはずだ。何故あそこから遠く離れているこの場所に来た?まさか、自分の生息地を追いやられたのか?」
モルガンは魔物の生態について考察し始めたが、目の前の惨状が目に入りそちらを先に優先しようと動き始めた。
「いや、今はそんなことよりもあっちだな。勇者君、獣人君、怪我人を外に運ぶのを手伝ってくれ。」
俺とコハクは共に頷き、横転した馬車へと急ぎ足で向かった。
「これは…」
中は思わず目を覆いたくなる惨状だった。傷だらけでピクリとも動かない乗客が激しく床に倒れ込んでいた。
そんな中で見慣れた赤いローブを着た女性に目が入った、苦痛で睨んだ緋色の瞳にフードで隠れて見えなかった頭には、ウェーブがかかった赤髪の隙間から黒い角が生えていた。
俺にはわかる…アルノアだ。
「クロムか…ああくそ…最悪な時に見られちまったな。」
「アルノア…」
「ははっ…驚いて声も出ないか、こんな姿じゃそれもそうか。」
アルノアは苦笑しながら自分の姿を隠さず俺の顔を見た。
あんなに俺を馬鹿にするような憎たらしい表情で見ていたその顔は、今は全てを諦めたかのような弱々しい顔をしていた。
「弱気になるな、お前のその弱々しい姿に驚いただけだ。ちょっと待ってろ、乗客を運び終えたら治療してやる。」
俺はそう言うとアルノアの頭を軽く撫でた。彼女は「やめろ…」と呟きながら俺の腕を払いのける軽い抵抗をした。弱々しくてもアルノアらしい行動に俺は少し笑った。
「ちょっと沁みるが我慢しろ。」
「あっ…!あぐぁぁぁ!」
俺は回復薬を染み込ませた布を乗客の頭に巻き付けた。乗客は自分の体を力強く掴んで痛みを紛らわそうと必死になっていた。
「よし、こっちは終わったぞ!そっちは?」
俺は他の怪我人の状況を確認するよう二人に声をかけた。
俺達が運んだ乗客は死傷者はいないものの、状態が酷い者がほとんどで思わず吐き気を催しそうになりながら外に運び出した。
ある者は体にガラス片が刺さっていたり、ある者は腕や足に大きな青あざがついていたりと様々だ。
このような重傷者がいると必ず出てくる問題があった。
「駄目だ、回復薬が足りない。外傷が多いうえに骨が折れて人もいる、せめて回復魔法を扱える者がいてくれたら。」
「すいませんクロムさん!回復薬が足りません、そちらに余ってませんか?」
「悪い、こっちも限界だ。」
怪我人に使用する回復薬の量が多いため、持っている薬では半数しか救えない。この時ばかりは回復魔法を覚えていない自分に叱りつけた。
「くそっ、レズリィがいてくれたら…そうか!」
俺は妙案を思いつき、負傷者を手当てしているモルガンのもとに駆け寄った。
「モルガン、しばらくの間ここを頼めるか?俺とコハクでレズリィを探しに行く。」
「勇者君、私も同じ事を考えていた。今の怪我人の人数じゃ持ってる回復薬では間に合わない。神官の回復だけが頼みの綱になる。」
モルガンは俺がいる方向に振り向かず、目の前の負傷者を手当てしながら話していた。その後治療にひと段落したのか、彼女は少し険しい顔をしながら俺がいる方向に体を向け話の続きを話した。
「だが君達二人で神官君とルミールの捜索は厳しすぎると私は思う、補助なしでこの森に生息する魔物達に太刀打ちできると思うか?」
「っ…だけど…!」
そう、今まともに動けるのは俺とコハクの物理に特化した二人だけ、魔法支援もなければ手持ちの回復薬は自分が使う一瓶のみというかなり無茶な行動を強いられる。
それでも急がなければ乗客は助からないし、行方がわからない二人の安否も確認しないといけない。俺はかなり厳しい条件を突きつけられた捜索に頭を悩ませていた。
「私も行く…!」
ふと俺の後ろで荒い息をたてながら低く呻く声が聞こえた。振り向くとそこには足を引きずりながら苦痛で顔を歪めた表情でこちらに向かってくるアルノアの姿があった。
「アルノア…。」
「お前がレズリィ達の捜索に向かうなんて…危なっかしくて見てられない…私も行かせろ…。」
「駄目だ、君は自分の状態がわかっているのか?頭に怪我をして、足にはガラス片が刺さってまともに歩けていないだろう。」
「歩けないのがなんだ?私はまだ魔力が大量に残って…!」
まだ挑み続けられると意気込んだ矢先、凸凹した地面に足を取られ転倒してしまう。
それを見た俺や、倒れた時の呻き声を聞いたコハクは急いでアルノアのもとへ駆け寄った。
「アルノア!」
「アルノアさん!」
「くそっ!クロム…残ってる回復薬をくれ、足を治せば私だって戦力になれる。」
「アルノア…駄目だ出来ない、無理して行かせた挙句これ以上傷を負ったら…。」
「私が足手まといだって言いたいのか!そんなのやってみなくちゃわかんないだろ!お前は前衛なんだから後方支援の私を守ればそれで済む話じゃないか!」
アルノアは俺の服を強く掴んで、自分を行かせるための口実を突きつけた。
いつもの俺なら無茶なこと言うなと口論に発展するが、今は彼女がどうしてでもやり遂げようとするその原動力に「なぜ?」という感情が引き寄せられた。
「アルノア…お前はどうしてそこまで…自分の体のことはよくわかってるはずだろ?」
「失いたくないからだよ…レズリィとは小さい頃から魔法を鍛錬しながら育ってきた仲間なんだ。」
アルノアはうつむきながら激情した感情に身をまかせて口を動かした。
「皆に先を越されても、魔法は向いてないって言われ続けても、可哀想だとか惨めだとか、皆はそう指を指しても…あいつだけは隣にいてくれた…。」
知りすぎるほど知っている彼女の目から、涙が溢れ落ちた。ゲームでも見せることはなかった彼女の泣き顔は、誰の涙よりも勝る辛い気持ちにさせた。
「こんな醜い姿になっても…それでもあいつは私を支えてくれた…だから私もあいつに何かしなくちゃ…助けられてばかりじゃ無様にもほどがあるだろ!」
「アルノアさん、落ち着いてください!無様なんてそんなーー」
胸に留めてあった気持ちが爆発し叫び上げるアルノアの声が森の中をこだまする。
コハクは無理して立ち上がろうとするアルノアの対応に困り、ただ肩を抱き付かせ落ち着かせることしか出来なかった。
「なぁモルガン、あの魔法をアルノアにかけてくれ。」
「ふむ…それしかないみたいだな。」
モルガンはアルノアの前に止まり、人差し指で彼女の額を突くと魔法を詠唱した。
「睡眠《スリープ》。」
睡眠魔法がかかったアルノアは体を支える事が出来ず横に倒れた。寝息をたてながら安らかに眠る彼女のまぶたには未だ涙が溢れ落ちていた。
「アルノア…その気持ちは本人に伝えておけ、きっと喜ぶからよ。」
「アルノアさん…。」
コハクは涙で濡れたアルノアの頬にそっと手を当てた。自分より温かい体温が直接伝わってくる。
「絶対に助けますから…。」
そう呟き、俺に向けても真剣な目で伝えてきた。俺は意図を読み取り頷いた。
「行こうコハク!アルノアの分まで暴れてやろう!」
そう言い、コハクと共にこの場から出ようとした瞬間…
ギャァギィギギャァ!
進む先に空気を読まずして木々の間からこちらを威嚇しているゴブリンの姿が見えた。それも鳴き声につられてみるみるこちらに集まってくる。
「ちっ!こんな時に!」
立ち塞がるゴブリン達を倒そうと持っている剣に手を触れた瞬間、後ろからレーザー状の毒液がゴブリン達を薙ぎ払った。
ギィャァァァァ!
ゴブリン達は醜い断末魔と共に溶けて消えていった。
「まったく…ムードがない小鬼達だ。勇者君、獣人君、厳しい戦いになるがここは君達にまかせた!」
そう言うとモルガンの懐から出した小さい瓶が宙を舞い俺の手元に着地した。その瓶の中は血のように濁った赤色をしておりラベルも貼られていない怪しげな薬だった。
「これを受け取ってくれ。気休め程度にしかならないが。」
「えっ…なにこれ?」
「私特製の強化薬だ、力に関するものを何でも強化する。もし戦闘でやばいと感じたらこれを飲んで応戦してみるといい。」
「特製の強化薬ぅ…?」
強化薬と言われても、モルガンが作った薬という肩書きが邪魔してありがたみが感じなかった。絶対何かやばい副作用とか入ってるかもしれないと思うと余計飲みづらくなった。
「あっ、ありがとう…じゃあ二人を探しに行ってくる!」
「勇者クロム!」
俺は苦笑しながら振り返って急ぎ足でその場を離れようとしたが、モルガンは俺をすぐ呼び止めた。
何か言われると覚悟したが、彼女は静かな願いを俺に伝えた。
「どうか…ルミール君を助けてやってくれ、赤髪君が言ってたのと同じように私の大事な友人なんだ。」
その言葉を聞いた直後、俺はモルガンがいる方向に振り返った。そこには背を向けてヒュドラに指示をしているモルガンの姿があった。
「クロムさん!」
反対側には俺を呼ぶコハクの声が聞こえた、周りには負傷者が広がり、自分が成すべき事を今一度実感させられた。
「待ってろよ…レズリィ、皆!」
俺は剣を抜き、モルガンが言っていたあの指摘ように勇者としての自覚を持つため自分を奮い立たせた。
「行くぞコハク!二人を助けるぞ!」
その先に待つ困難な戦いを見据えるよう、二人は暗い森の中を走り出した。
クロムとモルガンは不安を色濃く滲ませたコハクの会話を聞いて状況を整理した。
「その後は多分、助けに行こうとしたけどゴブリンの大群が攻めてきてそれどころじゃなくなったと。」
「アッシュバードか…奴の《ホークビジョン》の能力で馬車にかかっている透過魔法を見破ったのか。」
ホークビジョンとは大型の鳥類魔物などに備わっているスキルであり、透過魔法などで透明な状態になっている物を無効化する効果がある。
これまで魔物に襲われていない成果があるため、ゼルビアの馬車は透過魔法を発動して運用していたが、今日それが破られてしまった。
何故それが起こってしまったのか、モルガンはその違和感に引っかかっていた。
「アッシュクリフ(北の断崖)に生息する魔物がどうしてここに来た?鳥類型は自分の生息域である場所から離れず獲物を狩るはずだ。何故あそこから遠く離れているこの場所に来た?まさか、自分の生息地を追いやられたのか?」
モルガンは魔物の生態について考察し始めたが、目の前の惨状が目に入りそちらを先に優先しようと動き始めた。
「いや、今はそんなことよりもあっちだな。勇者君、獣人君、怪我人を外に運ぶのを手伝ってくれ。」
俺とコハクは共に頷き、横転した馬車へと急ぎ足で向かった。
「これは…」
中は思わず目を覆いたくなる惨状だった。傷だらけでピクリとも動かない乗客が激しく床に倒れ込んでいた。
そんな中で見慣れた赤いローブを着た女性に目が入った、苦痛で睨んだ緋色の瞳にフードで隠れて見えなかった頭には、ウェーブがかかった赤髪の隙間から黒い角が生えていた。
俺にはわかる…アルノアだ。
「クロムか…ああくそ…最悪な時に見られちまったな。」
「アルノア…」
「ははっ…驚いて声も出ないか、こんな姿じゃそれもそうか。」
アルノアは苦笑しながら自分の姿を隠さず俺の顔を見た。
あんなに俺を馬鹿にするような憎たらしい表情で見ていたその顔は、今は全てを諦めたかのような弱々しい顔をしていた。
「弱気になるな、お前のその弱々しい姿に驚いただけだ。ちょっと待ってろ、乗客を運び終えたら治療してやる。」
俺はそう言うとアルノアの頭を軽く撫でた。彼女は「やめろ…」と呟きながら俺の腕を払いのける軽い抵抗をした。弱々しくてもアルノアらしい行動に俺は少し笑った。
「ちょっと沁みるが我慢しろ。」
「あっ…!あぐぁぁぁ!」
俺は回復薬を染み込ませた布を乗客の頭に巻き付けた。乗客は自分の体を力強く掴んで痛みを紛らわそうと必死になっていた。
「よし、こっちは終わったぞ!そっちは?」
俺は他の怪我人の状況を確認するよう二人に声をかけた。
俺達が運んだ乗客は死傷者はいないものの、状態が酷い者がほとんどで思わず吐き気を催しそうになりながら外に運び出した。
ある者は体にガラス片が刺さっていたり、ある者は腕や足に大きな青あざがついていたりと様々だ。
このような重傷者がいると必ず出てくる問題があった。
「駄目だ、回復薬が足りない。外傷が多いうえに骨が折れて人もいる、せめて回復魔法を扱える者がいてくれたら。」
「すいませんクロムさん!回復薬が足りません、そちらに余ってませんか?」
「悪い、こっちも限界だ。」
怪我人に使用する回復薬の量が多いため、持っている薬では半数しか救えない。この時ばかりは回復魔法を覚えていない自分に叱りつけた。
「くそっ、レズリィがいてくれたら…そうか!」
俺は妙案を思いつき、負傷者を手当てしているモルガンのもとに駆け寄った。
「モルガン、しばらくの間ここを頼めるか?俺とコハクでレズリィを探しに行く。」
「勇者君、私も同じ事を考えていた。今の怪我人の人数じゃ持ってる回復薬では間に合わない。神官の回復だけが頼みの綱になる。」
モルガンは俺がいる方向に振り向かず、目の前の負傷者を手当てしながら話していた。その後治療にひと段落したのか、彼女は少し険しい顔をしながら俺がいる方向に体を向け話の続きを話した。
「だが君達二人で神官君とルミールの捜索は厳しすぎると私は思う、補助なしでこの森に生息する魔物達に太刀打ちできると思うか?」
「っ…だけど…!」
そう、今まともに動けるのは俺とコハクの物理に特化した二人だけ、魔法支援もなければ手持ちの回復薬は自分が使う一瓶のみというかなり無茶な行動を強いられる。
それでも急がなければ乗客は助からないし、行方がわからない二人の安否も確認しないといけない。俺はかなり厳しい条件を突きつけられた捜索に頭を悩ませていた。
「私も行く…!」
ふと俺の後ろで荒い息をたてながら低く呻く声が聞こえた。振り向くとそこには足を引きずりながら苦痛で顔を歪めた表情でこちらに向かってくるアルノアの姿があった。
「アルノア…。」
「お前がレズリィ達の捜索に向かうなんて…危なっかしくて見てられない…私も行かせろ…。」
「駄目だ、君は自分の状態がわかっているのか?頭に怪我をして、足にはガラス片が刺さってまともに歩けていないだろう。」
「歩けないのがなんだ?私はまだ魔力が大量に残って…!」
まだ挑み続けられると意気込んだ矢先、凸凹した地面に足を取られ転倒してしまう。
それを見た俺や、倒れた時の呻き声を聞いたコハクは急いでアルノアのもとへ駆け寄った。
「アルノア!」
「アルノアさん!」
「くそっ!クロム…残ってる回復薬をくれ、足を治せば私だって戦力になれる。」
「アルノア…駄目だ出来ない、無理して行かせた挙句これ以上傷を負ったら…。」
「私が足手まといだって言いたいのか!そんなのやってみなくちゃわかんないだろ!お前は前衛なんだから後方支援の私を守ればそれで済む話じゃないか!」
アルノアは俺の服を強く掴んで、自分を行かせるための口実を突きつけた。
いつもの俺なら無茶なこと言うなと口論に発展するが、今は彼女がどうしてでもやり遂げようとするその原動力に「なぜ?」という感情が引き寄せられた。
「アルノア…お前はどうしてそこまで…自分の体のことはよくわかってるはずだろ?」
「失いたくないからだよ…レズリィとは小さい頃から魔法を鍛錬しながら育ってきた仲間なんだ。」
アルノアはうつむきながら激情した感情に身をまかせて口を動かした。
「皆に先を越されても、魔法は向いてないって言われ続けても、可哀想だとか惨めだとか、皆はそう指を指しても…あいつだけは隣にいてくれた…。」
知りすぎるほど知っている彼女の目から、涙が溢れ落ちた。ゲームでも見せることはなかった彼女の泣き顔は、誰の涙よりも勝る辛い気持ちにさせた。
「こんな醜い姿になっても…それでもあいつは私を支えてくれた…だから私もあいつに何かしなくちゃ…助けられてばかりじゃ無様にもほどがあるだろ!」
「アルノアさん、落ち着いてください!無様なんてそんなーー」
胸に留めてあった気持ちが爆発し叫び上げるアルノアの声が森の中をこだまする。
コハクは無理して立ち上がろうとするアルノアの対応に困り、ただ肩を抱き付かせ落ち着かせることしか出来なかった。
「なぁモルガン、あの魔法をアルノアにかけてくれ。」
「ふむ…それしかないみたいだな。」
モルガンはアルノアの前に止まり、人差し指で彼女の額を突くと魔法を詠唱した。
「睡眠《スリープ》。」
睡眠魔法がかかったアルノアは体を支える事が出来ず横に倒れた。寝息をたてながら安らかに眠る彼女のまぶたには未だ涙が溢れ落ちていた。
「アルノア…その気持ちは本人に伝えておけ、きっと喜ぶからよ。」
「アルノアさん…。」
コハクは涙で濡れたアルノアの頬にそっと手を当てた。自分より温かい体温が直接伝わってくる。
「絶対に助けますから…。」
そう呟き、俺に向けても真剣な目で伝えてきた。俺は意図を読み取り頷いた。
「行こうコハク!アルノアの分まで暴れてやろう!」
そう言い、コハクと共にこの場から出ようとした瞬間…
ギャァギィギギャァ!
進む先に空気を読まずして木々の間からこちらを威嚇しているゴブリンの姿が見えた。それも鳴き声につられてみるみるこちらに集まってくる。
「ちっ!こんな時に!」
立ち塞がるゴブリン達を倒そうと持っている剣に手を触れた瞬間、後ろからレーザー状の毒液がゴブリン達を薙ぎ払った。
ギィャァァァァ!
ゴブリン達は醜い断末魔と共に溶けて消えていった。
「まったく…ムードがない小鬼達だ。勇者君、獣人君、厳しい戦いになるがここは君達にまかせた!」
そう言うとモルガンの懐から出した小さい瓶が宙を舞い俺の手元に着地した。その瓶の中は血のように濁った赤色をしておりラベルも貼られていない怪しげな薬だった。
「これを受け取ってくれ。気休め程度にしかならないが。」
「えっ…なにこれ?」
「私特製の強化薬だ、力に関するものを何でも強化する。もし戦闘でやばいと感じたらこれを飲んで応戦してみるといい。」
「特製の強化薬ぅ…?」
強化薬と言われても、モルガンが作った薬という肩書きが邪魔してありがたみが感じなかった。絶対何かやばい副作用とか入ってるかもしれないと思うと余計飲みづらくなった。
「あっ、ありがとう…じゃあ二人を探しに行ってくる!」
「勇者クロム!」
俺は苦笑しながら振り返って急ぎ足でその場を離れようとしたが、モルガンは俺をすぐ呼び止めた。
何か言われると覚悟したが、彼女は静かな願いを俺に伝えた。
「どうか…ルミール君を助けてやってくれ、赤髪君が言ってたのと同じように私の大事な友人なんだ。」
その言葉を聞いた直後、俺はモルガンがいる方向に振り返った。そこには背を向けてヒュドラに指示をしているモルガンの姿があった。
「クロムさん!」
反対側には俺を呼ぶコハクの声が聞こえた、周りには負傷者が広がり、自分が成すべき事を今一度実感させられた。
「待ってろよ…レズリィ、皆!」
俺は剣を抜き、モルガンが言っていたあの指摘ように勇者としての自覚を持つため自分を奮い立たせた。
「行くぞコハク!二人を助けるぞ!」
その先に待つ困難な戦いを見据えるよう、二人は暗い森の中を走り出した。
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