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第34話 討伐前夜

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先ほどまで大暴れしていた身長20メートル程の巨大ゴーレムが、今や地面に突っ伏したまま全く動かない。
そしてその前にはリガード、指紋、ジェフが呆れ顔のまま突っ立っている。

「あぁ、やっぱりゴーレムからは私の存在を感知できないんですね…」

ケイはまだ魔力放射の余韻が残る杖(ルビアの専用攻撃兵装「地獄の大鎌」を偽装したもの)の先を見ながら呟いた。
人工生命体のホムンクルスである彼女は魔物からはただの「モノ」としか認知できないらしい。
しかも攻撃寸前まで魔力を隠蔽可能である彼女の「杖」の前に魔物は防御警戒のしようもないのだ。

リガードが呆れ顔のまま尋ねた。

「なぁ、ケイ、それにしてもおまえの攻撃魔法って今回も威力凄いよな? 魔力を隠蔽していたにしても、あのゴーレムを一発で撃ち抜くなんて…」

ケイは内心、冷や汗をかいた。
パーティで出発して以来、攻撃魔法を使う時は意識して威力を絞ってきた。
(絞ってきたが上手くいかず暴発すること多数だったが…)
今回も絞るつもりだったが今までの小魔物(コボルトやオーク)と違ってLv80前後の巨大ゴーレムの出現に、ちょっとやりすぎてしまったらしい。
せいぜい有効打を数発当ててパーティの仲間にトドメを刺してもらうくらいの役割が丁度良い筈だったが、これじゃまるで彼女が最初から最終兵器みたいな立ち回りだ。

「ねぇ、ケイちゃん、あなたって… 実は超ヤバい奴だったりするんじゃなぁい??」

突然、核心を突く指紋の質問に動揺を隠せないケイ。

「はは… なな、なに言ってるんですか? 私を造った錬金術師がきっと変わり者だったんですよ」

ジェフが繁々とケイを見つめて呆れた様にため息をはく。

「いやいやいや、変わり者なだけの錬金術師が造ったってこうはならんでしょ? 出発してからずっとケイちゃんには驚きっぱなしだよ」

「うぐ…」

困ったケイをリガードが庇う。

「おいおい。みんなやめないか。 俺たちだって知られたくないことは幾つかあるだろ? 特にこういう冒険者稼業ならなおさらな」

こういう時はリーダーだけあってリガードは人格者だった。

「今日はこれだけでかいゴーレムの魔石が手に入った事だし、早めに宿に帰って皆でいい飯を食おうぜ!」

ケイはまたリガードに救われたと思った。
ギルドで出会ってパーティに参加、はぐれドラゴンの討伐に出発してから既に10日は経過していたが、特殊なケイの攻撃魔法が火を吹くたびに驚きまくるメンバーを纏めてきたのは彼だった。
暴発気味だったケイの攻撃魔法をメンバー全員でサポートしながらの10日間だったが、ケイ自身はあと少しで魔力の調整が上手く出来そうな予感はしていた。
「あともう少しだ。もう少しで身体に流れ込んでくるルビアの魔力量や方向、効果範囲を調整できるようになる…!」
巨大ゴーレムから魔石を回収後、「リガードと愉快な仲間たち」は村へと帰投した。


「今日も無事だったことに乾杯!」
宿屋の近くにある飯屋の隅でささやかな打ち上げが行われた。
幸いなことにホムンクルスであるケイはアルコールも体内で急速分解ができる機能があるので、問題なくエールの乾杯に参加できた。
ケイはこの身体がアルコールに耐性を持っている事がちょっと嬉しかったが、なぜかルビアの不満そうな顔が脳裏に浮かんだので、エールは控えめに嗜むことにした。

「さて、予定ではここまで二週間ほど掛かると踏んでいたが、今日の調子なら、明日中にはぐれドラゴンが潜伏している洞窟まで行けそうだ。全員、今晩はしっかり休んでくれ。以上!」

「はいはーい! リガード隊長! 明日1日休養日にすることを提案しまーす! そのように占いにも出てイマース!」

ぐだぐだに酔って顔が真っ赤になっている指紋が直訴。

「あっしも指紋たんと同意見っす!  あっしはちょいとおんにゃのこと英気を養っておきたいのでっ!」

ジェフと指紋は酒が入った時だけ何故か意気投合するらしい。

「あー、まぁ本来は明日ゆっくり休んでからの方がベストなのだが、どうやらはぐれドラゴンに動きがあった様でな」

3人の視線がリガードに集まる。

「どうも潜伏している洞窟付近でたまたま奴を見たっていう鉱夫の話だと、下界した際に折れていた翼が治りかけていたそうだ」

「リーダー、それってもしかして近々にドラゴンが飛んで別の場所に移動するかもってことですか?」

「あぁ、ケイ、その可能性は高いぞ。何しろドラゴンは一箇所に留まることを嫌がるしな」

「そうですね… それに一度はぐれたドラゴンは元巣に戻らないっていうし、それこそ隣国のエルガナット皇国にでも飛んで行ったらやばい事に…」

エルガナット皇国にしてみればドラゴンが帝国側から侵入したとなれば、帝国への賠償、もしくは攻め入る名目上の口実が出来るわけだし、下手したら両国間の全面衝突にすら発達しかねないだろう。
リガードの話を聞いてもジェフと指紋は残念そうに椅子からのけぞってしばらく文句を垂れていたが、渋々、明日の出発に同意した。

「さぁ、ここらでお開きだ! 宿へ帰るぞ!」

飯屋の外に出ると彼らの頭上には満天の星が広がっている。

「あぁ 冒険って楽しいものだな… 以前は課金してぶん殴ることしか興味がなかったけど、こうやって仲間とわいわいやりながら行動する方が楽しいのかもしれない」

少しアルコールの影響もあったのかケイは今自分が置かれている状況にとても肯定的な気分に浸っていた。

「いやぁ、ケイちゃんには謝らにゃいかんね!」

ジェフがいきなりケイの右隣りに寄ってきて話しかけた。

「ん? なにをです?」

「いやなにって、以前ケイちゃんに初めて会った時さ、ホムンクルスは俺の趣向から外れてるから…なんて言っちまったじゃないですか?」

「あぁ、そんなこと気にしていないですよ…(むしろ外れていた方が安心するし)」

「いやいや、今までのケイちゃんの活躍見てさ。俺も考えを改めなきゃって思ったの! ホムンクルスもなかなかやるなぁってさ… そう考えたら最近のケイちゃんが何かすごく魅力的に見えちゃってさぁ~…」

ジェフは… 彼自身に特段の悪気はなく、彼にとってごくごく自然な所作を行っただけなのだろう。
彼の身体を流れるゴブリン族の所作、つまり敬意を寄せる相手に行う挨拶代わりの行為を行っただけなのだ。
彼の右手はいつの間にかケイの右臀部に触れて、服の上から尻をさすって揉みしだいていたのだ。

「 …… ‼️」

気がつくとケイの魔力込み裏拳がジェフの顔面に直撃、彼はそのまま空中を華麗に舞ったかと思うと、まるでギャグ漫画の様な勢いで10メートル以上離れた石造の倉庫壁面に顔面から直撃した。

「ぐぼあっ!?」

倉庫の壁が崩れる轟音とカエルが潰れたような無様な音。ジェフの悲鳴である。
さすがにいくら彼が頑丈とはいえ、もう生きているのが奇跡だった。

「しゅ… しゅごいの…  ホムンクルスしゅごいのぉぉ…」

瓦礫の中で意識混濁しながら血まみれで呟くジェフは何故か満面の笑みで気持ち悪かった。

あわててジェフに駆け寄るリガードと指紋。

「おいおいおい! これやばくないか!?」

「あーー、こりゃ全身の骨、いっちゃってるねぇ…」

「ご、ごめんなさい、あ、あの… 尻を突然触られてつい…!」

指紋が苦い笑顔でケイを見る。

「あぁ… なるほどねぇ… 確かに以前、ジェフが何かしたら思いっきり突っ込んでいいって言ったけど、あれはナシね…」

「は、はい! 次回からちょっとだけにします…」

やはりアルコールを普段から控えた方が良さそうだとケイは思った。


結局、ジェフは指紋の回復魔法でも丸一日は動けないことが判明し、はぐれドラゴンの討伐再開は明後日へと延期されてしまった。


「ほ、ほんとごめんなさい!」(ケイ)
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