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第25話 俺と魔王とルビアと俺と

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「あれ… ここは?」

目を覚ますと砦の寝室だった。
外套は床に雑に脱ぎ捨てられている。
時間は昼に近い。
どうやらビキニアーマーの姿でベットで爆睡してしまったらしい。
あぁ… そういえば麓の飯屋で泥酔しそうになったんだっけ。
しかも、いきなり決闘を申し込まれて…
う~ん… それからの事が全然思い出せない。

その時、聞き慣れた音が響いた。

ポーン!

この通知音!
ゲーム内で使っていたダイレクトメッセージの着信音だ!

慌ててメニュー画面を開いて新着通知を見ると、そこには何と魔王ルビアからのダイレクトメッセージ!

俺は恐る恐る震える手でメッセージを開いた。

* メッセージ 1 *
「久し振りだな、この最低カス野郎っ! まだくたばってないか? それから今後一切我に酒などという神経毒を呑ませるな!! バーカ!!!」

俺は目が点になった。
しかも何か添付ファイルまである。
どうやら中身は動画らしい。

そのファイルを開くと、俺が泥酔して意識が無くなった以降の出来事が「俺」の視点で録画(音声付き)されていた。

「えええぇぇぇ…」

俺の意識がない時に、この身体にルビアが戻っていたと言うのか?
しかもめっちゃくちゃ暴れてるじゃん!!
ちょ!? 村の広場壊滅してクレーター痕ができちゃってるし!!!
つるぴかオッサンは号泣してるし、村人は怯えまくってる!?
なにこのカタストロフ級兵装二連発!?

「うぎゃぁぁっぁああ!?」
俺は真っ青になってベットから飛び起きた。
「俺はなんてことを… いやルビアはなんてことをしでかしてくれたんだ!?」

俺は半ば反射的に返信した。

* メッセージ 1への返信 *
「ルビアおまえ今どこにいるの!? っていうか何やってくれてんの!?」

ポーン!
* メッセージ 2 *
「おまえの巣、臭すぎ鼻もげる。あんまり話したくないからもう返信禁止」

返信禁止と言われてしまったので、無理に返信すると次はブロックされかねんと思い、俺は沈黙するしかなかった。

…さっき「おまえの巣」って言ってたよな。
それって俺の汚部屋のことか?
だとしたらルビアは現実世界に転生したというのか?
そして俺のアパートに住んでいるってこと!?
いやいや、それはやばいだろ!やばすぎるっ!!
あいつのノリで向こう(現実)で大暴れされたらそれこそ大惨事だぞ!?

しかし「返信禁止」と言われてしまったのでこちらとしては何もできない。
ただ、ブロックはされていないので、またルビアから連絡が入ることに希望を持つしか…

希望…?
一体何が「希望」なんだ。

次に連絡来た時は「あー ごめーん、おまえら人間の世界、滅ぼしちゃったわ!ぎゃははは!」ってな事を言いかねん!!

俺のせいでは無いとはいえ、自分の故郷に特大時限爆弾を送りつけてしまったかの様などん底の気持ち。
それと同時に俺と同じ様な境遇のやつが(と言ったら怒られるが)、こことは隔絶された現実世界に転生して生きているという妙な安堵感。

その二つの気持ちがゴチャ混ぜになって俺を混乱させる。

ルビアは俺を用意周到に罠に嵌めて追い込んだ張本人だ。
あえて言えば着せ替え人形としての「ルビアという素体」以外の点で感情移入することはないと思っていたけど、今はなんか違う。
身体と心をシェアする同志と言えばいいのだろうか?
(こんなこと面と向かって言ったら瞬殺されるだろうけど…)

いや待てよ。
俺はいいとして、ルビアが転生したとするなら身体はどうやって用意した?
どんな姿で転生したんだ?
まさか… まさか俺の身体に!?
そうだとしたら… いやそれもいろいろやばいだろ!!!
あーーーもう!!!!!!

俺はしばらく頭を抱えながら床をごろごろと転げ回っていた。


ーーーーーー


「ふぅ… 全く私の設定も困ったものよね」
綺麗に清掃されたキッチンでスマホを操作しながらルビアは嘆いていた。
「どんなに心を込めても、どんなに気を使っても、みーんな下衆な話し方に自動変換されるとかどういうことなの?」
「こんなの私がキツすぎて会話なんか続けられないわ」

ルビアはスマホを置くとポットの火を止めて、挽きたてのコーヒー豆にお湯を注いだ。
「あぁ これはやっぱりいい香り」
中挽きにしたコーヒー豆に円を描く様にゆっくりとポットを回しながらお湯を注いでいく。
注いだ周囲から内部で発生した泡がはじけて、その豊穣な香りを彼女の鼻まで運んでくれる。
その間に全ての旨みを含んだ漆黒の液体が白磁の美しい古風なカップへとゆっくり溜まっていく。
香りと熱、そして白と黒の鮮やかなコントラスト。
コーヒーという一杯の飲み物を淹れるという、ただそれだけの所作。
その全てがこの世界を支配する物理法則によってつつがなく進行していく様は、観ていてもたいへん美しいし五感が刺激され感動的だ。

それにくらべ、TAKIDANはなんと味気ない世界だったのだろうか。
この現実世界というものと比べると全てが平面的でうすっぺらいものだ。

「それにあっちじゃ、決められたセリフしか選べなくて、それ以外の言葉を無理に発音しようとしても無言になっちゃったしね…」
「はぁぁ… こちらの世界からダイレクトメッセージ送ればいけるかと思ったんだけどなぁ」

ルビアは頬を少し赤らめながら残念そうな顔をして淹れたてのコーヒーをゆっくりと嗜んだ。


そして机に置かれたルビアのスマホには送信前の文章がまだそのまま残っていた。


* メッセージ 1 (下書き)*
「親愛なるアキオくん、お久しぶりです。お元気していますか? 実はお願いがありまして、私の身体にお酒を呑ませ過ぎないよう気をつけて使ってほしいです。それでは再会を楽しみにしています。感謝」
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