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婚約者

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あれから1ヶ月、僕はイライザさんの激しい更正プログラムを受けていた。


ダンス講義、お辞儀の仕方からの食事のマナー講義、貴族名鑑の暗記、歴史、地理、数学、一般教養全般など。はぁ


正直、従いたくないしメディちゃんや山田、タンちゃんが心配で直ぐにでも逃げだしたい。

だけど首輪を外してもらえないし、屋敷から一歩も出られません、はい。


でも一回逃げました、ええ、逃げましたよ。

だって皆に会いたいじゃないですか。


え、本当は更正プロクラムがいやなんだろうって、当たり前じゃないですか!だってあのおばはん、間違うたび、鞭振るんですもん。


食事は豪華で旨いはずなのに味しないし?なんでって、スプーンの取り方から、食事の運び方から、グラスの取り方まで、鞭ですよ、鞭。

何個グラスを割ったって!

緊張の連続で最近、お腹が痛いし、頭痛はするしもうイライラがとまらないって、地獄じゃん。


そんで、逃げました。


そしたら、門の手前で首輪が痛かったです。

もう一度言います、痛かったです。こんちくしょーっ。



「はい、そこでターンして、はい、そうです。よくできました」


「はあ、はあ、はあ、あ、ありがとうございました」


「三パートで息切れとは、相変わらず体力がありませんね。食が細いせいではないですか?最近、また食事の量が減りましたわよね。今後は無理をしてでも食べる量を増やしなさい。わかりましたね?」


「………はい、マダム▪イライザ…」


いや、それ、ほとんどあんたのせいだから!精神的ストレスで最近、お腹痛いから!ってあれ?あ、なんか、ヤバ?!


「どうしました?なにをモゾモゾと、ほら、シャンとしなさい。次のパートを?」


「あ…………??!」


え?なんでお漏らし?なんかでちゃった?!


「あの、その、う、おトイレにいきたく?」


「おトイレ?あなた、もしかしたら」


ええ?、なんかツウって、ツウって足元に流れ、は?な、なんじゃこりゃーっ??!


「あら、あなた、まだだったの?誰か!この子を部屋に、それと着替えを」



前世から苦節四十年、僕は初めての経験をしてしまった。

もう、お婿にいけません。

ふぇぇん




////////////////////////////////////




ルケル視点


1ヶ月前


「だんな、上手くいきやした!。今、下の馬車におりやす」


「殿下だ、よくやった。そのままマダム▪イライザの屋敷に運び、マダムの指示に従え」


ハベル「見ねんですかい?」


「奴隷収容施設の一つを何者かが襲撃した。代わりの奴隷の補充や帝国への連絡で忙しい!」


ハベル「へい、わかりやした。んじゃ、あっしはこれで」


ハベルが部屋から出ていこうと後ろを向いた。

ふむ、弟達が夢中になる娘か、見ておくか。


「…………まて、気がかわった。見よう」


「へ?」


◆◆◆


ハベルが馬車の扉を開けると、黒髪の少女が眠っていた。

私は中に入り扉を閉める。


私は衝撃を受けた。

美しい、まるで作り物のようだ。

まだ幼いが確実に絶世の美女になるだろう。

私は黒髪にキスを落とす。


やつ(レッド)から奪い、弟達と帝国との交渉カードにと考えていたが、なるほど弟達が夢中になるのが分かる。

イライザに王妃教育を指示しよう。




////////////////////////////////////




「あなたは次期国王となるのです。いかなる時もその事を忘れず、振舞いには気を引き締めなさい」


「はい、母上」


公爵家から王妃として王家に嫁いだ母は、口癖のように私に言った。

美しく長い母上の銀髪と同じ髪だった私は、母上からの期待も大きかった。

私も母上の期待に応えたくて勉強に剣術と、通常より早い時期から頑張っていた。


ある日、庭園で赤髪の子供が泣いていた。

第二王妃の子供、四歳差の弟レッドだとすぐに分かった。


「そこでなにを泣いている?」


「ひっく、ころんだの」


なにかの遊びをしている内に、侍女とはぐれたらしい。

しかし、幼いとはいえこんな公共の場で泣くとは情けない。


「そなた、王子であろう?王になれる資格ある者がこのようなところで泣くでない」


仕方がない、腹違いとはいえ我が弟だ。

このようなところで笑い者にするわけにもいくまい。


私は後ろを向いて背中を見せた。


「此方にのれ、母親のところに連れていってやる」


「あ、ありがとう。あにうえ?」


一度しか紹介された事はなかったが覚えていたか、兄上か、悪くない。


レッドは思ったより軽かった。

その後、事あるごとにレッドは私の後をついて歩くようになった。


「兄上、ご覧ください。綺麗な石を拾いました」


「兄上、図書館にいかれるのですか?私も同行させてください」


「兄上、私に弟が出来ました。名前をグリンといって、可愛いんです」


私の勉強の合間、私がいつも休む時間に合わせて庭園のベンチで待っている。

レッドとの時間は私の厳しい教育の中、癒しの時間だった。

あの時までは



◆◆◆



「ルケル!何故、何故なのです。何故お前には魔法の適性がないのです?!」


「母上」


「下の弟達は皆魔法の適性があるというのに!あの平民の子でさえも!!」


「………」


「私は正室でありベルタ公爵の娘、このような辱しめを受けるわけにはいかない」


「母上、私は」


「そなたは必ず王になるのです。どんな事をしても!」


バタンッ


その日、母上は自室に閉じ籠った。

そして、それが母上を見た最後だった。

母上はその日の内に毒を飲んで自害したのだ。



「あ、兄上、新しい本が手に入りました。異国の紹介の話しで」


私はレッドと目を合わせずに言った。


「レッド、私はもう、ここには来ない」


「あ、兄上?」


私は後ろを振り向かず、そのまま庭園を後にした。



(そなたは必ず王になるのです。どんな事をしても!)


母上の言葉がいつまでも頭に響いていた。

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