3 / 6
王女は勇者を守る
しおりを挟む
「あら…。」
「こんなところに魔物が?!」
両者の対応は対極にあった。
私はこの程度の魔物は既に狩りなれているため、こんなところにも湧くんだ…などと考えていた。
一方ミルは顔に冷や汗を浮かべて、絶望した顔をしている。
母親の仇を取ることは決してくだらないことではない。
けれどこの程度に屈していては、到底仇討ちなんて無謀なのでは?
「エマ!俺の後ろに隠れて!」
あんなに青ざめた顔をしているのに、あんなにへっぴり腰なのに。
私の事を守ろうとする言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。
「魔物め!俺が退治してやる!『アティカル』」
ミルは炎の攻撃魔法を放つ。
それは小さな火の玉を相手に打ち込むものである。
それは私が生まれて8か月の時に無詠唱で打てた弱魔法だ。
この魔物にはその程度では殺せない。
『グヒェーーーー!!!』
魔物は吠える。
まぁ、人間でいうところの軽い火傷くらいはしているだろう。
その咆哮にミルは腰を抜かす。
けれども私より後ろに行くことはなく、左手は私をいつでも庇えるように伸ばされていた。
私は王宮で暮らしていたから、基本的には体格だけは一丁前に良い男たちか、性格の悪そうな顔をした偉い人達しか見たことがなかった。
それに幼いころから魔法が使えたから、危険なことがあっても守ってくれようとする人は限られていた。
言い方は悪いが、こんな一般人が見ず知らずの私を守ろうとする姿勢に心打たれた。
あまり目立ったことをすると今後に影響が出るかと思って、魔法は極力使いたくないけど。
「私は大丈夫ですよ。」
「え?」
「ミルは隠れてて。」
「俺は大丈夫!こんなヤツに負けてたら仇なんて─」
「えーと、私が怪我させてしまうかもなので。」
その言葉にぽかんと口を開けるミル。
それもそうだろう。会ったばかりの家がない少女が魔物と対峙できるなんて考え頭の片隅にもないだろうから。
『ディフェンシェ』
私は光の魔法であるバリアを展開する。
それは派手に大きいものではなく、身体に纏うようなもので無駄を最小限に抑えたものだ。
全ての魔法が使えるせいなのか、人より魔力量も桁違いに多かった。
でも私はそれに驕るのではなく、最小限の力でより多くの魔法を同時に操りたかった。
そのために何でも「最少で、最大を」をモットーにここまでやってきた。
お陰で知能が低い魔物相手には、弱い人間だと侮られる。
『・・・』
相手は知能が低かった。
私が大きなバリアを張ることが出来ないと分かって、真っ直ぐ私に攻撃しようとする。
「エマ!危ない!」
大きな声で私に声をかけてくるが、彼は動くことができなかった。
それはあの魔法に闇の魔法をかけ合わせて動きを封じているからである。
「くっそ!なんで動かないんだ…!」
「動かれると、大変だからですよ。」
私は、ぱちんと指を鳴らす。
すると魔物は一瞬で闇の中に消える。
「え…」
ミルは茫然と空間を見つめる。
私は所謂ブラックホールを闇の魔法を応用して作り出すことができる。
これは正式な魔法ではなく、アレンジ魔法だ。
アレンジ魔法が出来るのは世界でも限られていて、その危険性からアレンジ魔法が出来る者は管理されて国に置かれるのだが…。
私は隠れてやっていてバレていない。
バラすリスクは大きかったが、静かに殺す方法はこれしか思いつかなかった。
賭けだったが、それは私の勝利に傾く。
「エマ、君強いね…。」
「他の人よりは、強いかもしれませんね。」
「それアレンジ魔法ってやつでしょ?俺初めて見た。」
「アレンジ魔法が出来る者は国が管理しているので。私も見せたのはミルが初めてですよ。」
「そうなのか?!」
どうやら彼は学が少し足りないようだ。田舎の出らしいし、仕方がないこと。
だがそれは私にとっては好都合だった。
「あの、お願いがあるのですが。」
「え?何?」
「私もその、仇討ちに協力させていただけませんか?」
彼は信用に値する。
私の身分も知らないようだし、下手に情報が回るようなこともないだろう。
それに、仇討ちならより強い魔物と交戦して私の魔法がもっと強くなる可能性だってある。
この先どうしようか迷っていたけれど、この船に乗らずにはいられなかった。
「こんなところに魔物が?!」
両者の対応は対極にあった。
私はこの程度の魔物は既に狩りなれているため、こんなところにも湧くんだ…などと考えていた。
一方ミルは顔に冷や汗を浮かべて、絶望した顔をしている。
母親の仇を取ることは決してくだらないことではない。
けれどこの程度に屈していては、到底仇討ちなんて無謀なのでは?
「エマ!俺の後ろに隠れて!」
あんなに青ざめた顔をしているのに、あんなにへっぴり腰なのに。
私の事を守ろうとする言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。
「魔物め!俺が退治してやる!『アティカル』」
ミルは炎の攻撃魔法を放つ。
それは小さな火の玉を相手に打ち込むものである。
それは私が生まれて8か月の時に無詠唱で打てた弱魔法だ。
この魔物にはその程度では殺せない。
『グヒェーーーー!!!』
魔物は吠える。
まぁ、人間でいうところの軽い火傷くらいはしているだろう。
その咆哮にミルは腰を抜かす。
けれども私より後ろに行くことはなく、左手は私をいつでも庇えるように伸ばされていた。
私は王宮で暮らしていたから、基本的には体格だけは一丁前に良い男たちか、性格の悪そうな顔をした偉い人達しか見たことがなかった。
それに幼いころから魔法が使えたから、危険なことがあっても守ってくれようとする人は限られていた。
言い方は悪いが、こんな一般人が見ず知らずの私を守ろうとする姿勢に心打たれた。
あまり目立ったことをすると今後に影響が出るかと思って、魔法は極力使いたくないけど。
「私は大丈夫ですよ。」
「え?」
「ミルは隠れてて。」
「俺は大丈夫!こんなヤツに負けてたら仇なんて─」
「えーと、私が怪我させてしまうかもなので。」
その言葉にぽかんと口を開けるミル。
それもそうだろう。会ったばかりの家がない少女が魔物と対峙できるなんて考え頭の片隅にもないだろうから。
『ディフェンシェ』
私は光の魔法であるバリアを展開する。
それは派手に大きいものではなく、身体に纏うようなもので無駄を最小限に抑えたものだ。
全ての魔法が使えるせいなのか、人より魔力量も桁違いに多かった。
でも私はそれに驕るのではなく、最小限の力でより多くの魔法を同時に操りたかった。
そのために何でも「最少で、最大を」をモットーにここまでやってきた。
お陰で知能が低い魔物相手には、弱い人間だと侮られる。
『・・・』
相手は知能が低かった。
私が大きなバリアを張ることが出来ないと分かって、真っ直ぐ私に攻撃しようとする。
「エマ!危ない!」
大きな声で私に声をかけてくるが、彼は動くことができなかった。
それはあの魔法に闇の魔法をかけ合わせて動きを封じているからである。
「くっそ!なんで動かないんだ…!」
「動かれると、大変だからですよ。」
私は、ぱちんと指を鳴らす。
すると魔物は一瞬で闇の中に消える。
「え…」
ミルは茫然と空間を見つめる。
私は所謂ブラックホールを闇の魔法を応用して作り出すことができる。
これは正式な魔法ではなく、アレンジ魔法だ。
アレンジ魔法が出来るのは世界でも限られていて、その危険性からアレンジ魔法が出来る者は管理されて国に置かれるのだが…。
私は隠れてやっていてバレていない。
バラすリスクは大きかったが、静かに殺す方法はこれしか思いつかなかった。
賭けだったが、それは私の勝利に傾く。
「エマ、君強いね…。」
「他の人よりは、強いかもしれませんね。」
「それアレンジ魔法ってやつでしょ?俺初めて見た。」
「アレンジ魔法が出来る者は国が管理しているので。私も見せたのはミルが初めてですよ。」
「そうなのか?!」
どうやら彼は学が少し足りないようだ。田舎の出らしいし、仕方がないこと。
だがそれは私にとっては好都合だった。
「あの、お願いがあるのですが。」
「え?何?」
「私もその、仇討ちに協力させていただけませんか?」
彼は信用に値する。
私の身分も知らないようだし、下手に情報が回るようなこともないだろう。
それに、仇討ちならより強い魔物と交戦して私の魔法がもっと強くなる可能性だってある。
この先どうしようか迷っていたけれど、この船に乗らずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。
西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。
「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」
わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。
「婚約破棄ですわ」
「なっ!?」
「はぁ・・・っ」
わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。
では、順を追ってご説明致しましょうか。
★★★
1万字をわずかに切るぐらいの量です。
R3.10.9に完結予定です。
ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。
そして、主夫が大好きです!!
婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。
婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる