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王女は勇者を守る

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 「あら…。」

 「こんなところに魔物が?!」

 両者の対応は対極にあった。

 私はこの程度の魔物は既に狩りなれているため、こんなところにも湧くんだ…などと考えていた。

 一方ミルは顔に冷や汗を浮かべて、絶望した顔をしている。

 母親の仇を取ることは決してくだらないことではない。

 けれどこの程度に屈していては、到底仇討ちなんて無謀なのでは?

 「エマ!俺の後ろに隠れて!」

 あんなに青ざめた顔をしているのに、あんなにへっぴり腰なのに。

 私の事を守ろうとする言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。

 「魔物め!俺が退治してやる!『アティカル』」

 ミルは炎の攻撃魔法を放つ。

 それは小さな火の玉を相手に打ち込むものである。

 それは私が生まれて8か月の時に無詠唱で打てた弱魔法だ。

 この魔物にはその程度では殺せない。

 『グヒェーーーー!!!』

 魔物は吠える。

 まぁ、人間でいうところの軽い火傷くらいはしているだろう。

 その咆哮にミルは腰を抜かす。

 けれども私より後ろに行くことはなく、左手は私をいつでも庇えるように伸ばされていた。

 私は王宮で暮らしていたから、基本的には体格だけは一丁前に良い男たちか、性格の悪そうな顔をした偉い人達しか見たことがなかった。

 それに幼いころから魔法が使えたから、危険なことがあっても守ってくれようとする人は限られていた。

 言い方は悪いが、こんな一般人が見ず知らずの私を守ろうとする姿勢に心打たれた。

 あまり目立ったことをすると今後に影響が出るかと思って、魔法は極力使いたくないけど。

 「私は大丈夫ですよ。」

 「え?」

 「ミルは隠れてて。」

 「俺は大丈夫!こんなヤツに負けてたら仇なんて─」

 「えーと、私が怪我させてしまうかもなので。」

 その言葉にぽかんと口を開けるミル。

 それもそうだろう。会ったばかりの家がない少女が魔物と対峙できるなんて考え頭の片隅にもないだろうから。

 『ディフェンシェ』
 
 私は光の魔法であるバリアを展開する。

 それは派手に大きいものではなく、身体に纏うようなもので無駄を最小限に抑えたものだ。

 全ての魔法が使えるせいなのか、人より魔力量も桁違いに多かった。
 
 でも私はそれに驕るのではなく、最小限の力でより多くの魔法を同時に操りたかった。

 そのために何でも「最少で、最大を」をモットーにここまでやってきた。

 お陰で知能が低い魔物相手には、弱い人間だと侮られる。

 『・・・』

 相手は知能が低かった。

 私が大きなバリアを張ることが出来ないと分かって、真っ直ぐ私に攻撃しようとする。

 「エマ!危ない!」

 大きな声で私に声をかけてくるが、彼は動くことができなかった。

 それはあの魔法に闇の魔法をかけ合わせて動きを封じているからである。

 「くっそ!なんで動かないんだ…!」

 「動かれると、大変だからですよ。」

 私は、ぱちんと指を鳴らす。

 すると魔物は一瞬で闇の中に消える。

 「え…」

 ミルは茫然と空間を見つめる。

 私は所謂ブラックホールを闇の魔法を応用して作り出すことができる。

 これは正式な魔法ではなく、アレンジ魔法だ。

 アレンジ魔法が出来るのは世界でも限られていて、その危険性からアレンジ魔法が出来る者は管理されて国に置かれるのだが…。

 私は隠れてやっていてバレていない。

 バラすリスクは大きかったが、静かに殺す方法はこれしか思いつかなかった。

 賭けだったが、それは私の勝利に傾く。

 「エマ、君強いね…。」

 「他の人よりは、強いかもしれませんね。」

 「それアレンジ魔法ってやつでしょ?俺初めて見た。」

 「アレンジ魔法が出来る者は国が管理しているので。私も見せたのはミルが初めてですよ。」

 「そうなのか?!」

 どうやら彼は学が少し足りないようだ。田舎の出らしいし、仕方がないこと。

 だがそれは私にとっては好都合だった。

 「あの、お願いがあるのですが。」

 「え?何?」

 「私もその、仇討ちに協力させていただけませんか?」

 彼は信用に値する。

 私の身分も知らないようだし、下手に情報が回るようなこともないだろう。

 それに、仇討ちならより強い魔物と交戦して私の魔法がもっと強くなる可能性だってある。

 この先どうしようか迷っていたけれど、この船に乗らずにはいられなかった。
 
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