あずさ弓

黒飛翼

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あずさ弓 6

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帰り道は少し長く感じた。見たことのない道ばかりだったが、行きと同じ道をたどるだけなので迷うことはない。
夜桜へ戻ると、来人は部屋へ直行した。
本当は真弓へ一言挨拶をしようとも思ったのだが、受付で居場所を尋ねたところ、奥の事務室で作業しているとのことだったので後にした。代わりに真弓の手が空いたらひななを送ったことと先に部屋へ行っていることを伝えておいてほしいと頼んでおいた。

すれ違う客は浴衣を着ている人と私服やスーツを着ている二種類だった。前者は宿泊客で、後者は日帰り温泉か食事をしに来ただけなのだろう。
夜桜は旅館としてだけではなく、日帰り温泉や食堂も経営している。シーズン中以外はむしろこっちがメインだそうだ。
今は四月に入ってシーズンもほとんど終わっているはずだが、いまだ宿泊客がちらほらと見える。あまり忙しそうではなかったが、三月頭の中高生の卒業式の一週間後などは地獄だったに違いない。
来人が卒業してすぐ地元を出なかったのも、できればシーズンとは時期をずらして欲しいという真弓の要望からであった。そうした方が対応がしやすかったらしい。

関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を無視して、裏口からでる。中庭を通り、その奥にある建物に入った。
そちらはかつて、客室として使っていた旧館らしい。老朽化が進み、改装するくらいならいっそ新館を立てて、残った建物は住み込みの社員寮にしてしまおうということになったらしい。とはいえ、そこを主に利用するのは繁忙期の時だけ働きに来るヘルプと呼ばれる人たちなので、実際のところ住人は来人と真弓のみと言っても差し支えないそうだ。
広さは四畳程しかないが、内装は新館とほとんど変わらない畳の和風スタイルで、十分快適に過ごせそうだった。

部屋の中央には布団が敷いてあった。真弓か従業員の誰かがやってくれていたのだろう。
奥隅には真弓に預けた木刀とかばんが置かれている。同じく端に寄せられた小さなちゃぶ台の上にはおにぎりが三つ乗った皿と、その下に如かれた小さなメモ用紙が置いてあった。
『届いた荷物はクローゼットの中にあります。おにぎりは食べたかったら食べてください』
そこには達筆な文字でそう書かれていた。おそらく真弓の字だろう。
書いてある通りに茶色のクローゼットを開くと、その中にはダンボールがはいっていた。
中身は事前に送っておいた服だ。
このまま荷ほどきする気力はなかったので、最低限の着替えだけ取り出してそのまま閉じる。
本音を言えばこのまま眠ってしまいたいくらいだったが、汗も流さなければならない。前に一度泊めてもらったことがあったため、入浴の手順はわかっている。今はもう客用として使われていない旧館の大浴場を使わせてもらうのだ。そちらはお湯が張られていないため、一般客と同伴でもいいなら新館の方の大浴場も使っていいといわれていたが、お湯のシャワーが出てくれるだけで来人にとっては十分だった。
真弓が残してくれていったおにぎりを感謝しながらほおばると、来人は手早くシャワーを浴びて床に就いた。
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