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チュートリアル

この子の顔、推しのらむねちゃんにそっくりすぎる!

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「はぁ…疲れた…」
 やっとの思いで帰宅した私はソファに倒れ込んだ。
 社会人1年目。志望していた大手菓子メーカーの営業職に就けたものの、全国転勤族。新生活は地元から800キロも離れたこの場所で始まった。慣れない仕事に新しい人間関係。話し相手になってくれる両親も友達もいない。毎日朝早くに出勤して、真っ暗なこのワンルームに帰ってくる。心も体も擦り切れるみたいだ。
 そんな生活の中でも私の支えとなるものが1つだけある。
 私はスマホアプリを起動させた。
『アイドルバトル フレッシュガールズ!』
 女の子の可愛らしい声が鳴る。
 ロードが終わるとホーム画面には銀髪ハーフツインテールの女の子が現れた。
『お疲れ様。らむねはもう眠くなってきちゃったよ。』
「らむちゃん…!今日も可愛いっ…!」
 そう。私の支えはアイドル育成リズムゲーム『アイドルバトル フレッシュガールズ』の推しキャラ、小鳥遊らむねちゃん(通称:らむちゃん)を愛でること。
「今週一週間、仕事頑張ったから、10連ガチャ引いちゃうもんね!えいっ!」
 ボタンを押すと、画面に10枚の扉が映し出された。9枚は白色の扉、1枚は金色の扉。
「金色!これはSSランクカードが出るかも…!」
 白色はAランクのノーマルカード、金色はSランクかSSランクのレアカードが出る。
 白色の扉が次々と開き、様々なキャラクターのノーマルカードが映し出される。残すは金色の扉、一枚のみ。
「こい!らむちゃんのSSランク!」
 金色の扉だけは演出が少し違う。ゆっくりと扉が開き、キャラクターの自室が一瞬映る。
「ベッドの上に乳酸菌のぬいぐるみ…らむちゃんの部屋だ!」
 高鳴る気持ちを抑え、カードが映し出されるその瞬間を待つ。カードが映し出された…
「くっ…らむちゃんのSSランクカード…でも持ってるやつ!」
 悔しさを噛み締める。私はアプリを閉じた。
「はぁ、楽しかった…さて、とっととシャワー浴びて今日の仕事の復習でもしますか!」
 これが私の日常。推しキャラに癒してもらうことで日々の仕事もちょっと寂しい新生活も頑張っていける。
 推しはいつでもそばにいてくれるけど、決して触れ合うことのできない存在。そう思っていた。

 今日は土曜日。金曜日は夜更かしする分、土曜日は思う存分寝て、起きたら湯船に入る。平日はシャワーで済ましちゃうけど、休日くらいはゆっくり湯船に浸かりたい。
「ふぅ。温まったー…」
 頭にタオルを巻き、グレーのスウェットに着替える。二十代前半の女子って、もこもこのルームウェアとか着るのかな…。あー、やめやめ。誰に見せるわけでもないし、同じお金なら推しに貢いだ方が心も満たされるってもんよ。…こんな考えだから何年も彼氏できないのか。
 冷凍庫からバニラアイスを取り出し、それを持ってベッドに寝転がる。そして枕元に投げてあったスマホを手繰り寄せ、アプリを起動させる。
『らむねはこれからダンスの練習だ!一緒に頑張ろ!』
 そこでアイスを一口。
「くぅぅー…!」
 ぽかぽかの体に冷たいアイス。そして大好きなゲーム。まさに休日の贅沢だ。
 その時、玄関のチャイムが鳴った。なんか頼んだっけかな?
「はーい!」
 ドアを開けるとそこには男の子の姿があった。
「初めまして。隣の部屋に引っ越してきた倉橋斗真くらはしとうまです。よろしくお願いします。」
「え…」
 思わず声が出た。だって…この子の顔、推しのらむねちゃんにそっくりすぎる!
「あの…?」
 男の子が不思議そうな顔をしてる。
「あ…はい!こちらこそよろしくお願いします!」
 扉を閉めてからも興奮が冷めない。そんな、あのスーパー美少女のらむねちゃんとそっくりな人が現実に存在するなんて…しかも男子!
 あー…あの子はあんなに可愛らしいお顔で今までどうやって生きてきたんだろ。そんな子が隣の部屋に引っ越してくるなんて、愛ゆえの奇跡か。
「髪型とかをいじれば完璧なのにな…」
 …それだ!あの子にらむねちゃんのコスプレをしてもらえば、リアルらむねちゃんが誕生するのでは?らむねちゃんのコスプレセットは一式揃っている。あの子は線が細いみたいだったし、身長もそれほど高くないからきっと着られるだろう。
「あの子と仲良くなってコスプレしてもらう。私の手でらむねちゃんを現実世界に生み出すんだ…!」
 興奮状態だった私はそう決意した。
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